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片恋の、その先へ  作者: 過去形
始まりはここから
24/75

西からの来訪者 side祥花only 01

家に帰ると誰もいない。


それでは店の方かと思い、ドアベルの音と共に店内に入った。


「あーっ!ひっさしぶりやなぁ、祥花!」


やけにテンションの高い関西弁の青年がいた。


こちらに身を乗り出してくる。

その勢いでずり落ちた眼鏡を直している。


「いつこっちに来たんだ?樹兄」

「今朝や。いやぁ、結構来いひん間に偉い変わってしもうたなぁ、ここらへん。俺ここに来るまでむっちゃ迷ってしもうた」


「その似非関西弁もかなり板についてきてるな」

「そうやろ、そうやろ?やっぱこれからはキャラ立ちってもんを意識せなアカンで」


そう言ってからからと笑った。


「…キャラ立ちねぇ」


そんな面倒なことを考えないと関西では生きていけないのだろうか。

でも、関西で関西弁を話していたら、その他大勢の中に埋没してしまうと思うけれど。


そこまで、この軽い男は考えていないに違いない。


彼は、私の従兄にあたる。


名は森内樹という。

出身は関東なのだが、関西の大学に進学し、何故か似非関西弁を身につけてしまった。


どうしてこうも私の親類はまともに話せる人間がいないのか。

父や樹兄を見ていつも思うことである。


「関西もええけど、やっぱ生まれ故郷がいちばんやな。叔父さんの紅茶飲むと帰ってきたって気ぃするわ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ケーキ、サービスしちゃう。そういえば、義兄さんは元気だった?」

「おかげさまで~。俺の顔見るなり座布団投げつけてきましたわ。あっはっは」


それって笑いながら言うことではないと思う。


だが、樹兄の家族仲は悪いというわけではない。

樹兄が関西に行ってからというもの、どつきあいというのが、なぜかスキンシップの一つとして定着してしまったのだった。

おそらく関西の人が聞いたら怒るだろうなと思う。


「樹兄、今度は何しに帰ってきたんだ?」

「えらい言いようやなぁ。今回はいわゆるシューカツ、や」

「就活?」


もうそんな時期なのか。


「大変ねぇ。樹くんはやっぱりこっちで就職したいのね?」

「あ〜、本音言うとどっちでも構わんのですけど、母がうるそうて・・・。とりあえず、説明会だけでも参加しに来たんです」

「まだ夏に入ったばっかだっていうのに、最近の若い人達は大変ねぇ」

「まぁ、それほどでもありませんよ。ただ、この話し方は直さなあかんのですけど・・・」


それはそうだろう。

面接でこんなふざけた話し方の男を採用する会社があるはずがない。


それでも、樹兄はすこし寂しげだ。

似非関西弁に愛着があるのだろう。


「この関西弁を無くしたら、俺はただの優男になってまうやん・・・」


前言撤回。


このアホ男はもう救いようがない。


こういう三枚目キャラが好きです。

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