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片恋の、その先へ  作者: 過去形
始まりはここから
21/75

遭遇そして side信彦 03

助詞を間違えてしまっていたので、そこを訂正しています。

「ただいまー。……っ河野?!」

「っうわっ?!」


後ろからいきなり声がして、俺は飛び上がるほど驚いた。


そうだ。

忘れていた。

完全に。


「あ、おかえり~祥花ちゃん」


秋津の家なんだから、秋津が帰ってくるに決まっているじゃないか…!


いやなんかもう、だめだ。

混乱してる、俺。


「い、いやご、ごめんやっぱおれかえりますっ!」

「こーら、なにいってんの」


逃げるように台所を抜けようとしたところ、裕介さんに後ろから襟首をつかまれてしまった。


く、苦しい・・・。


「で?どういうこと?」


目の前に秋津の顔。

とっさに目をそらす。


別に悪いことは何もしてないのに、何やってんだ俺。

やましいことがあるみたいじゃないか。


「信彦君と偶々スーパーであってね、一人暮らししてるっていうから、夕飯に招待しちゃった」


俺の服から手を離して、語尾に音符マークがつきそうな言い方をする秋津父。

それを聞いた秋津はまたかというような顔をした。


もしかして、こういう状況に慣れてる?


「…悪いな、河野。父はこういう人なんだ。…諦めてくれ」

「・・・うん」


秋津も苦労しているんだな。

俺は少し秋津に同情した。








結局俺は秋津親子とともに食卓を囲むことになった。


秋津は裕介さんと二人暮らしだそうだ。

お母さんのことを聞くと、言葉少なに「小さい頃に亡くなった」と言っただけだった。


それ以上は踏み込んではいけない気がした。


夕食は、大根と鶏肉の煮物、きゅうりと大根の浅漬け、味噌汁、ご飯だった。


「へぇ、河野一人暮らしなんだ」


大根の煮物を口に運びながら秋津は言う。


「あ、うん。そう」


俺はそう答えて味噌汁を啜った。

わかめとえのきの具だ。

美味い。


「すごいわねぇ。家事も自分でやってるんでしょ?さっきも手際よかったし、ね」

「そんなことは・・・」

「この煮物、河野が作ったんだろ。美味しい」

「別に俺は何も」


立て続けに褒められて、俺は困惑した。


煮物なんて鍋に放り込んでおけば勝手にできる。

そんな褒められるような料理じゃない。


たしかに美味しくできたとは思うけれど…。


「そんなに謙遜しないの。褒めてる僕たちに失礼よ、そういうのは」


裕介さんに窘められた。


その言葉にはっとした。


秋津も頷いている。


「そうそう。あまり自分を低く見積もるな。それは謙遜じゃなくて、卑屈って言うんだ」

「褒められたときは、『ありがとう』って言えばいいのよ」


そういえば、加賀先生にも『卑屈になるな』と言われた。


俺は今まで卑屈だったんだろうか。


自分に自信がなかったことは確かだし、今でも自信なんて全くないけれど。


大根を口に入れる。

しっかり味が染みていて、美味しかった。


「…ありがとうございます」


二人の言葉を受け入れて、感謝を表す。


…これが、卑屈から抜け出す一歩だろうか。


久しぶりに人と囲む夕食は、とても、とても楽しかった。

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