遭遇そして side信彦 03
助詞を間違えてしまっていたので、そこを訂正しています。
「ただいまー。……っ河野?!」
「っうわっ?!」
後ろからいきなり声がして、俺は飛び上がるほど驚いた。
そうだ。
忘れていた。
完全に。
「あ、おかえり~祥花ちゃん」
秋津の家なんだから、秋津が帰ってくるに決まっているじゃないか…!
いやなんかもう、だめだ。
混乱してる、俺。
「い、いやご、ごめんやっぱおれかえりますっ!」
「こーら、なにいってんの」
逃げるように台所を抜けようとしたところ、裕介さんに後ろから襟首をつかまれてしまった。
く、苦しい・・・。
「で?どういうこと?」
目の前に秋津の顔。
とっさに目をそらす。
別に悪いことは何もしてないのに、何やってんだ俺。
やましいことがあるみたいじゃないか。
「信彦君と偶々スーパーであってね、一人暮らししてるっていうから、夕飯に招待しちゃった」
俺の服から手を離して、語尾に音符マークがつきそうな言い方をする秋津父。
それを聞いた秋津はまたかというような顔をした。
もしかして、こういう状況に慣れてる?
「…悪いな、河野。父はこういう人なんだ。…諦めてくれ」
「・・・うん」
秋津も苦労しているんだな。
俺は少し秋津に同情した。
結局俺は秋津親子とともに食卓を囲むことになった。
秋津は裕介さんと二人暮らしだそうだ。
お母さんのことを聞くと、言葉少なに「小さい頃に亡くなった」と言っただけだった。
それ以上は踏み込んではいけない気がした。
夕食は、大根と鶏肉の煮物、きゅうりと大根の浅漬け、味噌汁、ご飯だった。
「へぇ、河野一人暮らしなんだ」
大根の煮物を口に運びながら秋津は言う。
「あ、うん。そう」
俺はそう答えて味噌汁を啜った。
わかめとえのきの具だ。
美味い。
「すごいわねぇ。家事も自分でやってるんでしょ?さっきも手際よかったし、ね」
「そんなことは・・・」
「この煮物、河野が作ったんだろ。美味しい」
「別に俺は何も」
立て続けに褒められて、俺は困惑した。
煮物なんて鍋に放り込んでおけば勝手にできる。
そんな褒められるような料理じゃない。
たしかに美味しくできたとは思うけれど…。
「そんなに謙遜しないの。褒めてる僕たちに失礼よ、そういうのは」
裕介さんに窘められた。
その言葉にはっとした。
秋津も頷いている。
「そうそう。あまり自分を低く見積もるな。それは謙遜じゃなくて、卑屈って言うんだ」
「褒められたときは、『ありがとう』って言えばいいのよ」
そういえば、加賀先生にも『卑屈になるな』と言われた。
俺は今まで卑屈だったんだろうか。
自分に自信がなかったことは確かだし、今でも自信なんて全くないけれど。
大根を口に入れる。
しっかり味が染みていて、美味しかった。
「…ありがとうございます」
二人の言葉を受け入れて、感謝を表す。
…これが、卑屈から抜け出す一歩だろうか。
久しぶりに人と囲む夕食は、とても、とても楽しかった。