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片恋の、その先へ  作者: 過去形
始まりはここから
20/75

遭遇そして side信彦 02

秋津の家はレストランではなく、喫茶店だった。

しかも珍しいことに、紅茶専門の喫茶店だ。


俺は紅茶を御馳走になったら帰ろうと思っていた。


「ごちそうさまでした。おいしかったです」


秋津父、裕介さんの淹れた紅茶は本当においしかった。

砂糖も何も入れなくても、紅茶って美味いんだなと初めて思った。


「美味しそうに飲んでくれてこちらこそありがとう。信彦君、ついでに夕食も一緒にどう?」


カウンターの向こうでカップを片付けながら、裕介さんは何気なく言った。


「え、いや、そんな…」


俺は戸惑った。


紅茶をご馳走になっただけでも、もう十分だ。

いくらなんでも厚かましすぎるだろう。


「親御さんにはこちらから連絡するから」

「あ、俺、一人暮らしなんでそういうのは大丈夫なんですけど…」

「あ、そう?それならなおさら食べていきなさい。今から作るの大変でしょうし。うちは今夜は大根と鶏肉の煮物だけど」


大根と鶏肉の煮物。


それを強調されると弱い。


うん。

だって本当に食いたかったんだ。

くそ、想像するだけでよだれが…。


裕介さんはにこにこしている。


「……すみません、御馳走になります」

「うん、素直でよろしい」


とうとう俺はその誘いに屈してしまった。

秋津家で食事をすることの意味をよく考えもせずに。





******





秋津家の台所で裕介さんを手伝う。

最初、裕介さんは手伝わなくていいと言ってくれたが、ただ待っているだけというのは気まずい。

普段一人暮らしで自炊もしているから、おそらく邪魔にはなっていないだろう。


「信彦君、大根お願いできる?隠し包丁入れてね」

「はい、わかりました。面取りしますか?」

「うーん、もったいないからそのままでいいわ」

「はい」


大根を切る。


裕介さんは他のおかずを作っているようだ。


なんか、いいな。

誰かと台所に立つっていうのは。


実家では初恵さんのテリトリーで、下宿では一人だけの場所だったし…。


切り終わった大根を鍋に入れ、ひたひたになるぐらいまで水を加え、粉末だしをいれて蓋をして火をつければ、あとはただ待つだけだ。


「…そういえば、粉末だしなんですね」

「え?ああ、店やってるのにって?…もしお店に出すならちゃんと鰹節でだしは取るだろうけど、家だからねぇ。手抜きしちゃうのよ」


まだこの口調に慣れないが、裕介さんはとてもいい人だと思った。

普通に接してくれるし、こういうところは、秋津の父親なんだなと思う。


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