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片恋の、その先へ  作者: 過去形
始まりはここから
13/75

翌日 side信彦 01

翌日。

俺は教室で秋津に話しかけようとした。


「………」


でも、肝心要の時になると竦んでしまって声が出せない。

というか、まず近くに寄れない。


見た目、否、実際に不良となってしまった今の俺では、人目のある教室で真面目な委員長に話しかけることなど、不可能ミッション・インポッシブルだった。


とりあえずじっと見つめていると、あることに気付いた。

どうやら、秋津もこちらを窺っているらしい。

なんだかそわそわしている、ように見える。


「あ~いいんちょ~。ちょっと教えてほしいんだけどさぁ」

「…ぁ、何?二宮さん」

「えぇっとねぇ……」


クラスの女子に話しかけられて答えるその間にも、何か様子がおかしい。

もしかして、俺に話があるのだろうか。







その日の昼休み。


ふと秋津を探して教室を見渡すと、ちょうど教室を出ていく秋津を見つけた。

話しかけるいい機会かもしれないと思い、後をつける。


秋津は足早に階段を上っていく。

とうとう屋上に出てしまった。


屋上と言えば、サボるやつらのたまり場だ。こんなところに秋津が来るなんて驚いた。


しかし、今日は雨だ。

屋上に人気はない。


秋津は手に持っていたらしい折り畳み傘を開いて屋上に出ていく。

入口からじっと見ていると、屋上を歩き回る秋津の姿が見えた。

ずっと下を向いているようで、なかなか俺に気付かない。

あんまり気づかないから、とうとう俺から声をかけてしまった。


「おい、秋津!」

「…っなっ!!なんでっ、河野がここに…!!」

「…ごめん」


そこまでひどく驚かれると、俺が悪い気がしてくる。

いや、そもそも後を付けたのがいけなかったのか。


「…まぁ、ちょうどいいか」


そう呟いて、秋津は俺の近くに歩み寄ってきた。


「河野」

「な、なに」

「っごめん!!」


そう言って、勢いよく頭を下げた。

そのままの姿勢で、立て板に水の如く喋り始める。


「実は、昨日渡したチョコレートの中に、うちの馬鹿親父が作った罰ゲームが入っていたんだ。ごめん、本当にごめん。馬鹿親父の余興に関係ない河野を巻き込んで被害に遭わせてしまった。申し訳ないことをした。なんなら父に河野が食べたのと同じやつ食わせるからそれで勘弁してくれ」


最後の台詞辺りには不穏なものが漂っているが。

俺は、秋津の行動に驚いた。


「あ、頭上げろよ、秋津。別に事情は聴きたかったけど、そこまで謝ってほしかったわけじゃないし…」

「…ほんとうか?」


少し顔を上げてそう聞いてくる。


「いや、まあ、あれ、いっちゃあ悪いけど、ものすごく不味かったけどさ。俺なんか渡したのグラニュー糖だったし。痛み分けっていうのもおかしいかもしれないけど、うん、いいよ別に」

「…ありがとう、そう言ってもらえると助かる」

「…あの、ほんとは俺がお礼を言いたいくらいなんだ」

「ん?なんで?」

「俺、見た目こんなで、実際不良だろ?喋り相手作れって加賀先生に言われてさ。先生は秋津ならいいんじゃないかって。…俺、まさか本当に普通にしゃべってもらえるとは思ってなかったから」


怖くないのか、俺のこと。


小さく呟いた。

聞こえるとは思っていなかった問いだった。

雨音にかき消されるだろうと思った。


しかし聞こえていたようだ。

秋津は何とも言えない顔をして、しれっとこう言った。


「怖いに決まっている」

「…へっ?!」

「その顔でじっと見つめられて見ろ、本気で怖いぞ。…でも、顔が怖いことと、河野自身が怖いこととはまた別だからな」

「…はぁ…」


さりげなく貶されているような気もする。

でも、確かに彼女は俺の外見だけで俺という人間を判断していないと、そう言った。


なんだか嬉しくて、でもそれを表に表わすのはなんだか気恥ずかしくて、結局俺は黙ってしまった。

秋津も特に何も言わない。


雨音と、その遠くから昼休み終了のチャイムが聞こえた。


すみません。漢字変換ミスがあったので修正しました。

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