出逢う side祥花 04
「あぁっ!!そういえば!祥花ちゃん、今日のおやつはどうだった?!味は?」
今日の当番である父が作った夕飯を食べ終わった後、唐突に父は言った。
「……あ、それ、人にやった」
「えぇー、せっかくのお父さんの手作りチョコを?」
「ただの試作品の癖に」
父は時折店に出す新作スイーツをおやつと称して私に押し付けては、味の評価を迫る。
私の舌よりも自分の舌を信じればいいのに。
「ふーんだ。そんな悪い子には、じゃん!」
ロシアンデザートぉと言いながら、皿に乗ったいくつものチョコレートを出してきた。
「ロシアンデザート?」
「そうよ!今回の試作品。この中の一つだけに超激辛の調味料詰め合わせが入っているわ。これを今から交互に食べていくの」
また始まった。
父はこういった余興的なものが好きなのだ。
きらきらと眼を輝かせている父。
娘と遊ぶのがそれほどまでに嬉しいのか。
「あぁ、そう。はいはい分かったやればいいんだろ」
「ノリが悪いっ!」
「ワータノシイネー」
…実に面倒だ。
結局、一つも当たり、いや外れか、はなかった。
「…あれ?おっかしいわね。確かに作ったはずな、の、に…って。まさか」
父が顔を青くする。
私も、唯一の可能性に思い至った。
「河野にやったやつの中に?」
まずい、まずすぎる。
うちの馬鹿父のつまらん余興に他人を巻き込んでしまった。
「ちなみに馬鹿親父よ、何をいれた?」
さすがに悪いと思っているのか、馬鹿親父と呼んでも反論はしない。
指折り数え上げていく。
「……えぇっと、タバスコでしょ、あと胡椒と豆板醤とマスタードと…」
「どんだけ入れるんだよ?!!」
余興に力入れすぎじゃないのか、あまりにも。
「いや、だって。面白いじゃない。何事も全力投球が僕のモットーだもの」
けろりと悪びれもせずに言う。
「だけど、僕と祥花ちゃん以外の人が食べるなんて予想外だったわね」
気まずげに視線をそらしてそう続けた。
呆れてため息しか出ない。
ホントにもう、あんたは子供か。
「…どうするんだ。今頃火を噴いてるぞ、絶対」
「僕も悪いけど、祥花ちゃんも責任の一端は担ってるわよね?」
「…そりゃ、そうだけど」
なんだかしっくりこないが、その通りだ。
私が渡しさえしなければ、こんなことにはならなかった。
「僕の分も謝っといてくれないかしら。明日の学校で。お友達でしょ?」
「友達?いや、ただのクラスメート」
「お友達よね?」
父は笑顔でもう一度念押しする。
「…そうだったかな」
友達でないなら友達になれという、無言の圧力を感じた。
きっと、友達になってこのことをきれいさっぱり水に流してもらおうという、腹黒い考えからだろう。
人当たりのいい笑顔をしていて、これでなかなかに強かだ。
そうでなければPTAのお母さん連中と上手くやっていけはしないわよ、といつかの父はそう言っていた。
まったく。今日は失言やら失敗やらありすぎだ。
明日のことを思うと気が重くて頭痛がしてくる。
…河野の味覚がおかしくなっていなければいいが。
借りを返したつもりが、恩を仇で返した形になってしまった。
河野信彦。
彼は私にとって、私が迷惑をかけた人間として最初に認識されたのだった。




