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くらやみ

作者: 山本 次郎

初めて文章を投稿します。

誤字脱字、読みづらい等あるとは思いますが

その点ご容赦ください。

 煙草を吸っては全て灰にしていく。次々に火を着けられていく煙草は命を全力で燃やし、それによって生まれた煙は口内、喉、肺、気管支へとニコチンとタールと一酸化炭素を運び体の細胞に害を与える。それを体で感じながらも、ラッキーストライクをやめようともしは無い。誰の為でもないこの文章は、いつかは僕の人生で役に立つ事はあるのだろうか。

 視界から入ってくる世界を僕は信じない。見えないものに価値があると思うからだ。脳で再生される景気しか見る事のない僕たちは、本当の海の大きさなんてわかりゃしない。ましてや宇宙なんぞ無理に決まってる。そんな僕の物語。

 曇りだと天気予報ではニュースキャスターが語る中、ベランダでは屋根から落ちてくる滴がぽつぽつと音を奏でている。まるで一流企業の窓口に向かって歩くやり手のキャリアウーマンのヒールが鳴らす音のように。

生まれてこのかた生まれてから一度も虹というものを見た事がない。七色の円状のものらしいが僕の世界にはそんなものはない。ニュース番組が終わり九時になったらしい。今日のニュースも知らない誰かがどこかで殺され、また、ほかの国では暴動が起きているらしい。そんな事僕は知らない。

昼過ぎくらいだろうか、彼女がやってきた。彼女は身の回りの世話をしてくれる。掃除洗濯食事の支度。まるでメイドさんだ。彼女は灰皿の中の吸い殻を捨てながら言う。

「今日は雨だよ。今から買い物行ってくるけれど、何か食べたいものある?」

「特にないね。しいて言うんだったら魚が食べたい。」

「分かった。適当に買ってくるよ。」

彼女は灰皿を綺麗にした後、新しい煙草を置いて出て行った。いってきます。

部屋の中は時計の音と外で撥ねている水滴の音とCDコンポから聞こえる日本のロックミュージシャンの声しかなかった。僕が存在していようがいなかろうが関係ないような空間だった。僕はソファーに座りながら煙草を吸い始めた。吸っては吐く、吸っては吐く。その繰り返し、吸っては吐く。彼女の帰りが待ち遠しかった。

帰宅した彼女は玄関を通り、冷蔵庫を開けて食材を整理し始めた。

「雨がやみ始めてるよ。やんでから行けばよかったわ。車に水かけられちゃった。ほんとついてない。また煙草ばっかり吸っちゃって。まあいいんだけれどね。明日、晴れるらしいけれど、どっかに出かけてみる?」

「どこに行く?」

「うーん。海とかでいいんじゃないかな。久しく言ってないし、この季節だったら丁度気持ちいいでしょ。」

「そうだね。」

彼女はバスタオルで髪を拭きながら、クローゼットの中から服を出して着替え始めた。着替え終わると、キッチンに立ち料理を作り始めた。彼女が居るときだけがこの部屋に生活感を与えてくれる。僕はインテリアとしてベットの前の座椅子で佇んでいる。

 キッチンの方から焼き魚の臭いとみそ汁の臭いが折混じってこの部屋まで届く。もうすぐ彼女は支度がでできたと言うだろう。

「ご飯ができたよ。今日のメニューは真鯵の塩焼きとジャガイモと玉ねぎの味噌汁、そしてご飯。キムチも買ってきたけれど、食べる?」

「キムチはいいや。とりあえずご飯食べよう。では、いただきます。」

アジの塩焼きは既に骨と身に分けてある。僕はそれらをおいしくいただく。油の程よく乗ったアジと田舎みそを使った甘めの味噌汁。どれもこれも食べなれた安心感のあるおいしさだ。彼女に食べ物を食べさせてもらう僕は、非リア充な人たちからは祭挙げられるだろう。彼女は僕の食べ終わった後にゆっくりご飯を食べる。時間をかけてしっかり咀嚼をしながら。お互いがごちそうさまし終わると僕は再びラッキーストライクを吸う。

「人生のほとんどは煙草に費やしてるみたいだわね。」

「煙草に火をつけるためにこの命を燃やしてるからね。」

くだらない会話をしながらも僕は満腹感でいっぱいだった。彼女といれば余計な事を考えずに済むしいくらか気分も楽になる。吸って吐く。これを吸いだしたのが大学二年の時だったな。懐かしいな高校生時代。そんな事ばかり考えている。彼女は僕といて幸せなんだろうか。いつか聞かなくてはならない。

3本目の煙草を吸ってる間、彼女は洗い場で昼ご飯の茶碗を洗っている。水の流れる音、スポンジに洗剤を含ませ泡を立たせる音、乾燥機に並べられていくた茶碗の擦れ合う音、。吸って吐く。僕の職業は彼女の彼氏とラッキーストライクの品質を確かめる事だ。

 茶碗洗いが終わった彼女は、ベランダから見える空模様を窺って少し待ったりすることを決めたみたいだ。「果報は寝て待てっていうもんね」彼女は上下をスウェットに着替えてベットに潜り込んだ。僕もそれに続くようにベットに潜る。

「珍しいね、こんなやってはいってくる事ないのに。どういう風の吹きまわし?」

「たまにはいいだろ。気が向いたんだよ。」

「あらそう。分かったわ。昨日の夢の話していい?」

「いいよ。」

「昨日は十二時半くらいに寝たのね。すごくすごく深い眠りだった。冬眠している熊よりも深い眠りに就く事ができたんじゃないかしら。夢の中では私は気紛れな黒猫だった。どこかヨーロッパの綺麗な街に住んでいるの。家という家の屋根が燃えるような赤色で基本的に煉瓦造りなの。飼い主は若いパン屋さんの主人で、お腹が減って擦り寄っていくとしょうがないな~とか言ってミルクをくれるような優しい人だったわ。その町の中では毎日気ままに生活していたわ。毎朝早く起きてご主人のお腹の上に乗ってご主人を起こすの。主人はパン屋さんなのに早起きが苦手なのね。私が起こす代わりに朝食のミルクと小魚を食べる。それが終わると町の中を探索して回った。朝方の時間はスーツ姿の男たちが新聞を読んでコーヒーを飲んでいるカフェ、六十歳くらいの夫婦が経営しているこじんまりとした本屋さん、鮮魚市場の前にある気分のいい時は小魚をくれる食堂のおばちゃん。何故か私は道のりと日々のルーティーンワークを知っていて、私は最後海に出るの。そして私は一匹のシェパード犬に出会うの。尾っぽまで訓練されているようで、海釣りをしているらしい飼い主の後ろで背筋を伸ばしているの。私はその姿を見て惹かれているの。なんてかっこいいんだろうって。私はその犬に気づかれないように後ろの方まで回ろうとするの。追いかけられたら怖いからね。あともう少しってところで私は見つかってしまう。そして吠えられるの。その時に目が覚めたわ。」

「変わった夢だね。まさにあなたは猫である。」

彼女は猫になった事を考えていた。夢の中ではそれが現実となる。

「ヨーロッパに行ってみたいわ。綺麗な街並みが並んでいるんでしょうね。」

「そうだね。」

「私はあなたの事が好きよ。あなたは?」

「僕もそうさ。」

僕は彼女に腕枕をしてやり、彼女が寝息を立てるのを待った。僕は彼女の顔の方を向き額にキスをした。それから少しの間黒猫とシェパードについてイメージした。多分だけど二匹の関係ははなから上手くはいかないものだったのだろうと思った。

 雨音が聞こえなくなり、代わりに鳥のさえずりが聞こえだした頃、僕は彼女を起こした。

「おはよう。朝が来た。海に行こう。」

「おはよう。ずっと起きてたの?」

「寝顔が見たかったからさ。」

僕と彼女は互いにはははと笑いベッドから抜けた。彼女はベランダから見える遊園地やマンション、山々や駅へ雲の切れ間から太陽の光が一部に降り注いでるのを見ていた。互いにその後着替えた。

「さあ行きましょう。」

 僕と彼女は手を繋いで海岸まで歩いた。僕のペースに彼女が会わせるように歩いた。彼女は街を歩く近隣住人に挨拶をしたり、まだ分厚い雲を眺めたりして歩いた。僕は時たま煙草に火をつけて歩きたばこをし、彼女から注意を受けたが吸った。吸い殻は全て彼女の持ってきたゴミ袋に入れた。二十分くらい歩くと海岸に到着した。近くの港市場は閑散としていて魚の姿は見られない。漁港には三隻の船がとまっており、潮風と波の音が侘しさを更に引き立てた。家から持ってきたおにぎりを二人で海岸の隣接して建ててある公園で食べた。彼女は公園で遊んでいる子供を見ながら言った。

「子供の時を覚えてる?あの頃はもっと世界が無邪気だったわね。もしかしたら自分自身が無邪気だったのかもしれないけれど。」

「子供の時は世界が無限に広がっていたよ。でも今じゃ一寸先は闇の生活だよ。」

「そうだわね。懐かしいわ。あなたと出合ったのは高校時代だったね。付き合うなんて夢にも思わなかったわ。」

「僕もだよ。今じゃ立場が逆転してるもんね。」

「あなたは本当に真面目だったわ。毎朝迎えに来てくれたもんね。」

「僕も若かったんだよ。今やれって言われたら難しいもんだ。」

僕たちは違う中学から同じ進学校に通っていた。何を血迷ったか僕はバスケットボールの首相を二年生の時に先輩たちから言い渡された。活力に満ち溢れていたんだろうな。バスケが上手いのに来ない女子がいると聞いて彼女の電話番号を聞いて学校に来るよう説得をした。それがきっかけだった。僕らは何か相通ずるものがありすぐに距離が縮まり、次の三月に告白し今まで付き合っている。そんな彼女は子供に手を振っている。

「早く海の向こうに行ってみたいね。」

涙がでてきた。彼女は海と眺めていて気が付かないが涙が出てきた。泣くのは久しぶりだった。記憶の中にある僕が僕の事を睨んでいるような気がした。過去の事が後真の中で溢れてくる。嗚咽混じりになってくる。

「どうしたの?大丈夫?」

彼女は軽く上ずった声で聞いてくる。これには答えずに僕は泣き続けた。子供がこちらを見て驚いているのを彼女は横目で見て恥ずかしそうに言う。

「大丈夫?」

公園にいる子供たちが母親の元に行くのが分かる。しかし、涙は止まらなかった。無意識のうちに泣いてしまったので涙の止め方が分からなかった。僕はなんて事をしてしまったんだろう。それしか僕には無かった。

「ごめんな、みゆき。ごめんな、色々迷惑ばかりかけてしまって。僕のせいで迷惑ばかりかけて。」

彼女の耳には聞こえていないと思う。嗚咽交じりの言葉は意味を失って海風に乗って行った。まるでピエロの持った風船が手元から離れていくように何処かに漂っていった。彼女は「大丈夫。大丈夫。」と繰り返していた。僕達にはどうする事も出来ないのだ。分かってる。自分の世界に閉じこもるのも間違いだと分かってる。でも、強くはなれない。僕は弱い。

「ちょっと待ってて。」

その言葉を残して彼女は去って行った。そして僕は彼女を待った。母親を待つ子供のように。あったかい缶コーヒーを持った彼女は走ってやってきた。その頃には僕は落ち着いていた。黙って缶コーヒーを飲んだ。彼女は僕の手を握り言った。

「大丈夫だよ。いなくなったりなんかしないから。」

涙ぐみながら僕は答える。

「当たり前だろ。」

彼女はそうねと言うと黙りこくった。カモメが一羽とんでいる。他のカモメは集団で群れているというのに。

「高校の頃は楽しかったな。毎朝迎えに行ったよな。クラスでも1人だけ違う空気をまとっていて近づきがたい感じのみゆきが俺の彼女なんて今でも信じらんないよ。」

うんうんとうなずいて聞いてくれるみゆき。

「バスケ部でお前の事聞いて単純にもったいないと思ってさ。県選抜とか断ってるの知ってさ、なんてバカなんだろうってね。あんまり仲の良い女の事かいなくて、アドレス聞くのも顧問からだったからな。気付くべきだったんだよ。顧問に無理強いをするなって言われてた時点でさ。毎日電話かけたけれどそっけない態度で。説得したよな電話する度。次第に心をひらいてくれて。学校でもよく絡むようになって。その頃から好きだったんだろうなあ。みゆきの家庭の事情も聞いて俺も感化されてバイト始めて。バスケとの両立させるんだとか言って無茶してたよな。朝迎えに行ったりもしてたっけな。何回かデートみたいな事してやっと三月に告白したね。最初は振られたっけ。でも二回目の告白でやっと付き合ってくれたね。嬉しかったよ。」

彼女が泣き始めた。僕は彼女にハンカチを渡すと

「ごめんな、こんな風に迷惑かけて。話は今度にしよう。もう泣くなよ。」

彼女は「ばかなんじゃないの。」

と言った。僕は彼女に微笑みかけ肩を抱き寄せていた。公園の中にいた子供が一人こちらに向かってきて言った。

「お姉ちゃんよしよし。」

「ありがとう。」

「このお兄ちゃんが泣かせたの?」

「違うよ。お兄ちゃんは私を喜ばしてくれたんだよ。嬉しくて泣いてるんだよ。」

「そうなの?ほんとうに?」

「本当だよ。」

ふーんと言いつつ子供は疑いのまなざしを僕に向けていた。子供は彼女の頭をなでなでした。その頃には彼女は泣きやみ始めた。子供はポケットを探りだしたかと思うと、飴玉を一つ取りだした。その一つを彼女に差し出し

「これあげるから、元気出してね。」

というと走って去って行った。彼女は再び手を振っていた。飴玉を大切そうにしまうと彼女は言った。

「悪いことばっかりではないと思うんだよね。こうやってたまにしかいい事ないから感謝できるというか。毎日飴もらってたら感謝しなくなっちゃうからね。」

「そうだね。感謝は大切だ。ありがとう。」

「どういたしまして。そろそろ帰ろうか。」

「うん。」

彼女は僕の手を掴んで先導して帰路に着いた。その間彼女は「ふふふーん」と何の曲か分からない鼻歌を歌いながら帰った。雲は風に流され太陽が柔らかい橙色の光を街全体を、あったかい光で包んでいた。山の方では虹ができていた。彼女はそのことに触れない。僕もその事については触れない。何かを暗示しているように大きい虹だった。僕らは家につくといつも通りだった。僕は煙草を消費し続け、彼女は家政婦だった。それで満足だった。

僕の世界は闇の中にある。僕自身さえも。真っ暗やみの中で物事の輪郭を捉えることは難しい。どんなに目を凝らしていても見えづらいものだ。僕はその中で大切なものを見つけた気がする。元からあったのかもしれない。彼女が立ち止まった時には彼女の手を掴み引っ張っていけるような人になりたいなと思って煙草を吸っている。

「そろそろ寝るよ。」

「分かった。私は明日は仕事だから。机に食事置いとくからね。」

「今日は停まっていきなよ。今日の続きがある。」

「話さないで。ただ、これからの物語を考えなくてはならないわ。」

「そうだね。じゃあ僕は寝るよ。」

「また明日の夕方に来るわ。」

「おやすみ。」

「良い夢を。」


読んでいただきありがとうございました。

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