砂漠門
さかさまのお姫様はただの傍流。
唯物的な危険分子はただの亜流。
どこに本物はいるのだろうか。精粗の乱れた雛型では地響きすら起こらない。それじゃ人々の感動は生まれやしない。オリジナル⇔パロディの繰り返し。下卑た笑いしか創造しない。神はこんな世界がおもしろいか?人はつまらぬマネキンでしかない。半透明の幽霊でしかない。
手元不如意の皇帝さまは緞帳の向こうに引きこもる。彼の皮膚にはチアノーゼができている。赤く腫れている。きっとエイズに違いない。どうせアヘンの吸いすぎだ。
ここは、砂上の楼閣。鄙びた傾城。仔細なく、おおざっぱに、砂塵が吹くだけ。生き延びた人々の限られた生存地。蒼い雨だけがぽつりぽつりと音を立て、また、城壁が崩れた。
あれほど誇ったメトロポリスはいまじゃ滅びの砂漠の世界。穢れも清らも存在しない。眩暈とアスファルトの奔流している虚無的な正しい礼儀のみ。弔鐘の鳴らない悼みだけが人造人間に蔓延している。神父の崇拝なんて嘘八百。聖者の乱交さ。
有刺鉄線の深い地獄。唾液塗れのきたない乖離。あれだけ蔓延った罪と罰は刃毀れしちゃって今じゃボロボロ。複雑な冗談なんて難解過ぎて遺棄される。一刀両断、空中分解、乱文乱筆、一方的な脱水症状。
嗚呼!そういえばここは僕の深層心理だ。音叉もハルシオンも効果はない。新製品を求める世間の犬どもと同じ精神構造だ。深い悲哀の氾濫は僕の誇大自我を傷つける。
「金の斧と鉄の斧の仕事的価値なんてない」と神様に上手なコメントをもらっても、それはある種の偏見だろう。完全なる神域なんて結局は誹謗中傷の都じゃないのか!
粗悪品だけ食し、着色料だらけの飲料を口に含み、自分の餌をまき散らす飽食の時代にふさわしい堕落政治。生まれやしなかった「パックスジャパニーズ」は湾曲した地平線に溺れた。
残存している教会に授けられた僕の洗礼名は「蟯虫検査1世」だ。これじゃ天国に昇れやしない。地上に永遠這いつくばるだけのしがない人生。……コンクリートに溶かされる人間の魂。電信柱に捧げたラブソングは次第に褪色していった。闇に支配される砂漠の夜は箱の夢を奏でる。いばらの王冠は腕に食い込む。プログレッシブな理不尽の群像劇。円周率をただ覚えりゃいいわけじゃない。
僕たちの誰も何も残らない。進化しすぎた科学技術の少女強姦だけが役に立たない石炭の欠片の如く鈍く光っている。虹色の価値のある夢や希望は百鬼夜行のカゲロウにすべて喰われた。だからといって僕たち人間なんて貧乏くじを引いたのではない。運命だったのだ。必然だったのだ。重低音を拾い、羊頭狗肉のヒエラルキーが堆く聳えた社会でしかなかった。累々たる屍はミサイルの藻屑に消えた。鰓呼吸もできないくせに海底に逃げた生物は次の化石燃料に姿を変える。憂い。鈍磨。白骨。臨終。
地球は滅び、人間性も失われた。凍った博愛主義。事務的な天体運動。地球の果ては奈落より絶望的だ。――僕は青い球体の座敷牢の中。