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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人間一人、大自然

作者: ゴマ

 目が覚めると私は記憶を失っていることに気づいた。上からさんさんと照りつける太陽の光はまぶしく、私に頭上を見せまいとがんばっている。目の前には岩壁がそびえ立っていた。


……何か大事なことがあったような。


 全然思い出せないから、ぼろぼろになった服を少しちぎって傷をふさぐと、当てもなく歩くことにした。


 そのうち思い出すだろう。


 しかし、なんと素敵な場所なんだろうか。

 少し歩いてみただけなのに、その光景に心打たれた。森は騒がしいほどにざわめき、川は命であふれかえっている。空は限りなく澄み渡り、土はきれいな黒土だ。

 自分の本能が告げている。これほどすばらしい場所は他にはないと。記憶が無くても生きていければそれでいいじゃないかと。

 歩いているうちにお腹がすいてきた。ではまず食べ物の調達だ。周りを見渡すと、どこもかしこも生命の営みであふれている。

 巨大な植物は大きな獣を食べようと付け狙い、虫は川で魚の生き血を吸う。ふと木の上を見れば鳥の雛が巣の中でキノコまみれで死んでいた。食べられるだろうか。

 木の上からとってきてそのまま食べてみたが、あんまりおいしくなかった。ここに来て初めて記憶喪失を呪う。

 覚えていればおいしいもの分かるのになぁ……。

 だが欲しがっていても戻らないから仕方がない。片っ端から試してみよう。

 先ほどの大きな獣が植物に襲われて身動きを取れなくなっていたので足をいただいて食べる。まあ身は固いけどさっきのキノコに比べればずっとおいしいかな。

 植物の方はどうだろうか。

 試してみようとしたら、ツルの先にあいた穴から小さな虫がぞろぞろと出てきて私にかみついてきた。

 痛い。全身火あぶりにされているようだ。死ぬかもしれない。


 あれ? この光景昔あったような……。


 無様に叫び声を上げながら川に飛び込み虫を払った。すると、どこからともなく小さな魚たちが現れ私についている虫を食べてしまった。ありがとう、魚さんたち。

 陸に上がって、さらにぼろぼろになった服を今度は完全に脱いでしまった。寒いのは嫌いなのだ。あとから困るかもしれないが、そのときはそのとき。それに今困っているのはそのことじゃない。

 死にかけたときに記憶を取り戻しそうになった。どうやら死にかけた時にデジャヴを感じたらしい。もう一度死にかければ戻るかもしれない。

 だけど、ここで生きていくのにそんな危険はちょっとごめんだ。どうせ時間がたてばここの生活にも慣れるだろうから、そしたらそっちの方のデジャヴで記憶が治るかもしれない。大事なことだって、生きていくより大事なことなんて無いからきっといつか取り戻せるさ。

 少々お腹が物足りないが、今日は眠ることにした。ちょうどいい穴を見つけたのだ。中には何もいない。

 穴の中で丸くなりながら、心に誓ったことがあった。

 少しずつ、少しずつ生き延びよう。この世界に住むとはそういうことだと本能は教えてくれる。

 

 次の日、狩りに出かけると私はあっけなく捕まってしまった。

 巨大な両生類が今まさに私を丸呑みにしようとしている。すでに下半身は腹の中だ。


 ああ、そうだ。私、崖から落ちて……。


 唐突に記憶が戻る。いや、走馬灯によって強制的に全てを悟らせられる。

 大事なこととは生きること。

 人類最後の生き残りとして。


 ……取り戻せない。

正直今まで書いた中で一番ショートショートっぽいやつだと思います。

ちょっと残酷なシーンが多いですが、自然ってこれが普通ではないでしょうか。もちろん私たち人間も自然の中であれば平気でこういうことをすると思います。


あなたは一人食物連鎖の中に投げ出された時、何を大事なこととしますか?

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