2 モスグリーンの扉
ここは無限回廊、魂達が死後に集う場所。
長い長いどこまでも続く回廊の壁にはズラリと扉が並んでいる。その扉のひとつひとつが異なる世界につながる扉。
扉の反対側は巨大な中庭と呼ばれる樹海が静かに存在していた。その大きな樹海を円を書くように完全に囲み込んだ場所がここ無限回廊になる。
ひとたび回廊から外に出れば、そこは魂達の戦場となる場所。そして回廊の扉の色は様々で、注意深く見ると全部微妙に色が違う。この事に気づいている者は、どれぐらいいるのだろうか…。
いや、ここを訪れる魂達は新しく生まれ変わる先の世界の事で頭がいっぱいだから、きっと殆んど気がつかないに違いない。
コンコン。
今日も新たな魂が自分で選んだ色の扉をたたく。たたかれたモスグリーンの扉の中から声がする。
「どーぞ」
ギィーという音と共に扉が開かれた。
俺は無限回廊で働いている。
給料でもらえる魂ポイントを貯めて面白いゲームがある世界にうまれかわる予定だ。勿論、今、担当している扉の世界は、まるでゲームのような世界で、魔法やスキル不思議なアイテムの存在する世界だ。
そこそこ人気がある。だからなのか?最近、とっても忙しい。でもおかしいんだよな…そういった世界は、この扉以外にも沢山存在するのだから、気のせいだよな…大好きなゲームに数日触れてない気がする。
あー!イライラする。
ヤバい、そろそろ禁断症状なのか手が心なしか震えてきている。何か対応を考えなければ…。
コンコン。
そんな事思っていると、また新しく客がきたようだ。
「どーぞ」
俺はふるえる手を無造作に反対の手で掴み、そのふるえを止めた。
ここでは扉から入ってくる魂は全部人型と決まっている。何故なら回廊部分には人型のランクの者しか立ち入れない仕様になっているからで、それ以外の植物、虫、獣のタイプは軒並み中庭に弾き出される。
文字通り見えない壁によって。
だから新しい世界に生まれ変わりたい者は回廊に入るために樹海こと中庭で他者から魂のポイントを奪いランクをあげて人型になることに力を注ぐ。
多くの魂は死しても己の欲望の為に他者と争う。
その争いに交ざらない者は諦め絶望し、ただ悠久の時を中庭の森で過ごし朽ちていく。
だから今日来た客も当然、人型。俺は客にソファをすすめて自分も分厚い本を片手に持ち向かいの椅子に腰をかける。
「あのー、ここからゲームのような魔法を使える世界に行けるのでしょうか?」
やせ形で猫背気味な姿をした爪がやたら長く鋭い、色白の人型魂は不安そうに俺に聞いてくる。
「ああ、俺の担当する世界に魔法もスキルもあるぞ。客の希望を聞き、照らし合わせて場合により新たにポイントをもらう事になるが…もちポイントは余裕があるのか?」
「少しは持ち合わせがありますが どのぐらい取られるのでしょうか?」
魂が人型を保つには、ある一定のポイントを所持しなければならない。それを下回れば魂は人型を保てなくなり、この場所から自動で弾き出される。
客が不安になるのもうなずける。せっかくここまで来たのに、また中庭に戻り魂のポイントを貯めるのは嫌だろうから。
「生まれ変わる条件でポイントを消費するんだ」
俺は持っている本のページをめくり条件欄を確認する。
「おっと、ここだな。まず、何に生まれるかで魂ポイントの消費が違う。知的生命体だと、ものによるが100ぐらいもらうけど。希望は?」
「筋肉があって強そうな体が欲しいんです。種族は何でもいいんですけど。ダンジョンとかありますよね? 大きな武器で魔物とか狩りまくるのを一度、やってみたいと思ってたんです。どうですか?」
「ああ、魔物を狩る側なんだね。と言う事は魔物は駄目と…ダンジョンね。了解、了解。そうなると、筋肉質50ポイント+怪力100ポイント+人型種族100ポイントで合計250ポイントもらう事になるな。生まれる環境とかによって、また別料金なんだよ。生まれた時、両親あり兄弟あり裕福な環境、各種別料金だが…どうする」
「あっ、それは別に大丈夫です。そこまでポイントないですし。生まれる環境は気にしません。ただ筋肉がつきやすい体質は必須ですが」
しばらく話して客の要望を聞き、話がまとまり転生の準備にと移る。
その時に事件が起こった。
「ありがとうございます。私の長年の夢がこれで叶いそうです」
「おお、それは良かったな。この書類にサインをすれば手続きが終了する」
二人は立ち上がり正面奥にある観音開きの扉の前まで行く。
扉の前に腰ぐらいの小さな丸テーブルがあり、そこでサインをすると扉が開き、この管理人が担当する次の世界に魂は転生される。
そうサインをしたら自動で。
その時点で魂からポイントが引き落とされる流れになる。今回も速やかに客にペンをとるように促しサインをさせた。
緩やかに扉が開きはじめる。
これでもう一仕事終えた気分に俺はなっていた。
次に客がくるまでの時間があれば、こっそりゲームができると。
転生用の次元の扉が半分まで開き、中から神々しい光がもれる。
「これで念願の剣と魔法の世界に旅立てます」
嬉しそうな客の言葉に俺はぎょとした。
「まて、剣と魔法の世界だと!」
「はい、そうですが…何か?」
まずい!俺は青ざめて叫んだ。
「俺の担当する世界は槍と魔法の世界だ!」
「えっ!? 槍?」
その瞬間に客の魂は扉に吸い込まれた。
ぎぃー。
バタン。
「・・・・・」
扉に手を伸ばした状態で閉まった次元の扉を呆然と見つめた。
俺はしばらくして動きだし疲れたようにソファに座り、ため息を吐く。
「はぁ…あれだな。忙し過ぎるのが悪いんだ。俺にはきっと休みが必要だ。有給休暇、取れてないんだよな。申請だして休みを取ろう、ゆっくりゲームする」
「決めた!」
俺はゲーム欠乏により、ふるえる手を握り、力強く決意した。
ちなみに、先程の客が転生した世界は通称「槍と魔法の世界」と呼ばれている。
なんでも世界を作り運営する創造主「絶対的権力者」が力をつけ調子にのった人族の勇者なるものに、特別な剣で傷をつけられた事が発端で、その世界は創造主の怒りに触れた。
その瞬間から、その世界のありとあらゆる剣と名のつくものは粉々に塵とかし、それからの世界は今現在まで「剣」が存在しない。
消えたのは現物だけでなく技術や存在した記憶も地上からなくなっていた。
書物からは剣関係の記載が消え、知的生命体の脳から記憶が消された。
当然、勇者の剣も消滅している。なお調理用ナイフは剣とみなされないためか料理は何とかできるらしい。
その後、人族が魔物と戦う為に自然、槍の種類と技術が増え今にいたる。
教訓、世界の創造主を怒らせてはならない。
残念だが先程の客には槍で我慢してもらうしかない。
だって「槍と魔法」の世界だしね。




