1 空色の扉
植物、虫、獣、人、全ての魂が死んで集う場所。無限に広がる回廊で数多の扉が鎮座する。その場所のひとつの扉で今日も元気に働く者がいる。濃紺のスリーピースの背広を着こんだ男が客を迎えるべく声をかける。
はい、次の方どうぞ。
ノックの音を聞き男が言った。すると、正面の扉が開き人が中の様子を伺いながら入ってくる。
それではお客様、そちらにお掛けになってください。
はい、ここですか?
ここは次に新しくお生まれになる世界を選ぶ場所。次の生を有意義な人生にするための言わばスタート地点のひとつですね。
ええ…転生の間?はい、簡単に言うと役割的に似たようなものになります。
神様ですか?! 申し訳ございません。私の担当外の質問には、お答えできません。
ええ、そうです。それでは説明させていただきます。
私の仕事は、この後ろの扉にある世界の入口のみを管理する者です。
そうです。扉の管理人です。
そして、貴方の魂に刻まれているポイントを割り出して、新しい世界にどのような形で生まれ変わるか?のサポートや手続きをする事ですから。それ以外の事はわかりません。もし、お知りになりたければ壱の門まで戻り別のものに聞いて下さい。
戻るのが面倒ですか…でしたら、このまま説明を進めますね。
ゲームの様な世界に行きたい…ですか…。
はぁ…最近は剣と魔法の世界ですか?人気みたいですね。
申し訳ございませんがそれですと私の担当外なんですよ。はい、私の担当する世界に魔法がないんです。
魔法がない世界はありますよ。ええ、別に珍しくないですね。
それに私、ゲームとか、わからないので。釣りとか紅茶などはたしなむのですが…ああ、ご興味がないですか…では話を進めますね。
背の高いスーツを着た管理人は机の上の分厚い本をパラパラとめくりはじめた。そして、入口とは違う壁にあるグレーの扉に指を向けて呪文らしきものを唱える。
彼の指先が少し光りグレーの扉は瞬く間にモスグリーンの扉に変化した。
ええ、これで大丈夫です!!そちらのモスグリーンの扉からでると、そういった世界の担当の部屋へ行けます。後の事はそちらでお願いします。
話を聞いていた客は、うなずき、その扉から出て行く。
バタン。
そして直ぐに、ここは静かになった。
それにしても最近はゲームっぽい世界の扉の間がとても人気だ。
私はゲームをやらないから、何が良いのかよくわからない。だから、ゲームに似た世界に行きたいと要望を言う客は皆、ゲーム好きのモスグリーンの扉の奴の部屋に誘導している。
忙しくて休暇も取れないんじゃないかな。
ふふふ…。
奴の部屋以外にもゲームのような世界はあるかも知れない、でも調べる時間がもったいない。なのでこれまで同様ゲームと言われたら奴の部屋に勿論、案内する。
そして私は、のんびりできる。
モスグリーンの間の担当は最近忙しくて好きな人間界のゲームも、なかなかできないと嘆いているらしい。
ああ!かわいそうに。
私は1人になった部屋で机の下から釣り竿を取り出す。これは先週の給料でもらった魂ポイントで購入した新しい釣り竿だ。私は竿を伸ばしてかかげ、その素晴らしい形にうっとりし眺める。
ああ、次の休暇が待ち遠しい。
ちなみに私が担当する世界は空と海の世界だ。海人と空人が大半をしめている。陸人もいるが数は少ない。大陸がないからだ。
海に複数の島々がポッカリと浮かんでいる。とても自然ゆたかで綺麗な世界。そして食べ物と空気は実に美味しい。世界全体が南国のリゾート地だと考えると早いだろう。季節により雪は降らないので衣替えの手間もない。
最高の世界だと思う。
当然だがゲームはない。レベルもない。魔法もない。だけど、空気とご飯が美味しい。
これ大事!空気をおかずに主食がすすむ。
さて、私の担当する世界。残念ながら、じわじわ人気がでてきています。
ボチボチ客が来るくらいがちょうど良いのに。忙しいのも嫌なので人気がないままがいいのですが。
給料は忙しくても暇でも変わらないのだから。
さてさてこれからの流行りは、どうなるのか。私独自の情報収集によれば少しづつキャンプブーム(娯楽的野宿)なるものがきているらしい。ここにもその余波があるから少し心配になる。
できれば趣味の魚釣りをする時間は是非共、確保したい。
コン、コン、扉をたたく音がする。
はい次の方どうぞ。
そんな事を考えながら私は、新たな転生待ちの者を空色の扉の間に招き入れた。




