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第六十話 「あなたがいるから」

 大聖堂の天井は、まるで空が開いたように高く、朝の光が無数のステンドグラスを通って虹の粒を床に降らせていた。

 扉が開く瞬間、聖歌隊の声が一斉に高まり、万の管弦が祝福の調べを奏でる。

 最初に現れたのは、カリオン・エヴェルド。黒と金の皇帝礼装に身を包み、肩に這う金の刺繍は帝国の双頭の鷲。

 腰の剣は儀礼用だが、それでも彼が剣を取れば大陸最強であることを誰よりも知っている騎士たちが、背筋を伸ばして敬礼した。

 だが今日のカリオンの瞳は、剣を握る時とは違う色をしていた。柔らかく、熱く、ただ一点だけを見つめている。

 扉の向こうから、銀金のヴェールが風を孕んで現れる。

 アデリア・ターヴァ。

 純白のドレスはターヴァ領の伝統的な花の刺繍で縁取られ、裾に流れる光はまるで彼女自身が光を纏っているかのようだった。

 長いトレーンを支えるのは、ミレイユを始めとするターヴァ領の子供たち。

 子供たちは泣き笑いで


「聖姫様……!」

「皇后様……!」


 と声を震わせている。アデリアはゆっくりと、しかし確かな足取りで祭壇へ向かう。その一歩ごとに、列席者たちが自然と立ち上がり、頭を下げた。

 帝国の貴族たち。ターヴァ領の領民代表。遠くから駆けつけた王国新王クレインと、その臣下たち。

 誰もが、今日ここに立つ女性がどれほど多くの命を救い、どれほど多くの涙を拭ってきたかを知っている。

 カリオンは祭壇の前で、彼女を待つ。その皇帝に向かって、ゆっくりと一歩、また一歩とアデリアは歩み寄る。

 そして、ついに。二人が並んだ瞬間、聖堂全体が白い光に包まれた。

 それはアデリアの聖女の力が、自然に、喜びに満ちて溢れ出した光だった。光の中、カリオンは静かに口を開く。


「アデリア」


 低い、けれど聖堂の隅々にまで届く声。


「私は、君を離縁された王妃として迎えたのではない。君が王妃だったことも、追放されたことも、関係ない。私が今日、ここに欲しいのは」


 彼はそっと彼女の左手を取り、指にキスを落とす。


「ただのアデリア・ターヴァだ。私が一生守りたいと願った、たった一人の女性だ」


 アデリアの瞳に涙が盛り上がる。


「カリオン……」

「誓おう。君が笑っていられるなら、帝国などどうなっても構わない。君が泣くような世界なら、私が全部変えてみせる。君を、生涯愛し抜いてみせる」


 聖堂が静まり返る。誰もが息を呑んで、二人の誓いを見守っていた。アデリアは震える唇を噛みしめ、それから、はっきりと微笑んだ。


「私も、誓います」


 彼女はカリオンを真っ直ぐ見つめ、両手で彼の頬を包む。


「あなたが辛い時は、私が支えます。あなたが迷う時は、私が道を示します。あなたが疲れたら、私の胸で眠ってください」


 涙が頬を伝い、ドレスに小さな光の染みを作る。


「私はもう、誰にも傷つけられません。だって、私には、あなたがいるから。あなたを一生愛します」


 その瞬間。聖堂の天井から、無数の白い花びらが降り注いだ。

 聖獣ノアが小さく鳴き、祝福の光をさらに強く輝かせる。

 司祭が感極した声で宣言する。


「これより、帝国皇帝カリオン・エヴェルドと、聖后アデリア・ターヴァの契りを、神と人の前に結ぶことを、ここに宣す!」


 歓喜の拍手と歓声が聖堂を揺らし、鐘の音が大陸の果てまで響き渡った。

 光の中、二人はゆっくりと唇を重ねる。それは、追放された王妃と冷徹と呼ばれた皇帝が、ようやく手に入れた、誰にも奪えない未来の始まりだった。


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