第六話「もう町中が大騒ぎだぜ」
馬車は田園地帯へと続く土の道を進んでいた。揺れは激しく、窓の外はまだ薄暗い朝靄に包まれている。
アデリアは窓の外を見つめていた。
朝の霧がまだ残る街道を、商人や旅人が行き交う。
王国の紋章が刻まれた彼女の馬車に気づくと、誰もが道を譲り、深く頭を下げた。――かつては「王妃陛下のお通りだ」と跪かれた道。
今はただの「ターヴァ領へ帰る女」の馬車。護衛の騎士たちは王宮の命令で最後まで付き従っているが、誰も口を開かない。
彼らにとっても、今日の出来事は信じられない出来事だったのだろう。馬車の中は静かすぎた。
ふと、外の人々の声が、かすかに聞こえてきた。
「……ほら、見てみろよ。あれ、王都からの馬車だろ?」
「ターヴァ領行きの印がついてる……ってことは」
「まさか、聖姫様が帰ってこられるって、本当の話だったのか!?」
「領主様が“静かに迎えよう”って言ったのに、もう町中が大騒ぎだぜ!」
通りすがりの行商人の声だった。
アデリアは瞬きを忘れていた。聖姫様……ってまさか私のこと?指先が震えた。
「……どういうこと?」




