表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/44

第二十三話 「そうは考えない」

 案内を終え、領主館の広間へと戻ってきた一行。

 茜色の光が窓から斜めに差し込み、埃の舞う空気すら金色に染める。

 レオナルドが用意させた茶と菓子が並ぶテーブルを挟み、アデリアとカリオンは向かい合って腰を下ろしていた。

 側近たちは「空気を読んで」遠巻きに控えている。ヴァレンティナだけが書類を抱えて、興奮を抑えきれずに小刻みに震えているのが見えた。

 静寂が数瞬だけ落ちる。先に口を開いたのは、カリオンだった。


「──あなたの指揮力と知識、そしてこの領民からの信頼」


 彼はゆっくりと、しかしはっきりと告げる。


「どれを取っても、一国の要に足るものです」


 アデリアは驚いたように瞬き、すぐに視線を伏せた。


「……過分なお言葉、恐縮です」

「過分ではない」


 カリオンは首を振る。金の瞳が真っ直ぐ彼女を捉える。


「王国があなたを手放した理由が、理解できない」


 その一言に、アデリアの肩が小さく震えた。苦笑いが、唇の端に浮かぶ。


「私は……王国では、不要とされた存在でしたから」


 控えめな、どこか寂しげな声音。

 けれど、その奥に隠された“受け入れた痛み”を、カリオンは見逃さなかった。彼は静かに息を吐き、肘をついたテーブルに身を乗り出す。

 距離が、ほんの少し縮まる。


「少なくとも」


 低い、しかし確かな声音。


「帝国は、私はそうは考えない」


 アデリアは顔を上げた。金色の瞳と、淡い青の瞳が、まっすぐに交差する。カリオンは言葉を続ける。


「私は今日、ここに来て確信した。あなたは、ただの領主の娘でも、元王妃でもない。あなたは……この大陸に必要な存在だ」


 アデリアの頬が、ほんのりと朱に染まる。


「……陛下」

「カリオンでいい」


 突然の言葉に、アデリアは目を丸くした。


「え……?」

「ここでは、皇帝ではなく、ただの一人の男として話したい」


 彼はわずかに笑みを浮かべる。それは、これまで誰にも見せたことのない、柔らかな表情だった。


「私は、あなたに興味を持った。あなたの考えを、もっと知りたい。そして……」


 そこで一瞬、言葉を切り、彼は真剣な眼差しで続けた。


「あなたという人間を、もっと知りたい」


 広間に、静寂が落ちる。遠くに控えていたシオンが


「ほう……」


 と小さく呟き、ヴァレンティナは書類で顔を隠しながら


「きゃああああ!」


 と心の中で絶叫していた。アデリアは、頬を赤くしながらも、必死に平静を保とうとする。


「……その、私でよければ、いつでもお話しします。陛下──いえ、カリオン様のお役に立てるなら」


 その控えめな返答に、カリオンは満足げに頷いた。

 しかし、彼の胸の奥では小さく、だが確かな熱が灯り始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ