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離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~  作者: 猫燕


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第十四話「順番に相談をどうぞ」

 昼下がりの領主館・大広間。

 普段は静かな館が、今日は異様な熱気に包まれていた。長テーブルを囲むように、村長、薬草師、孤児院の管理人、農地の代表、若い母親たちまで、三十人を超える領民がぎっしりと詰めかけている。中央に据えられた椅子に、アデリアは少しだけ困ったような笑みを浮かべて座っていた。


「えっと……皆さん、本当にありがとうございます。でも、私を囲んでこんなに集まらなくても……」

「だめです!聖姫さまのご神託をいただく日なのですから!」


 先頭に立つ老村長が、杖を地面に突き立てて力強く言う。その背後で、子どもたちが


「聖姫さまー!」


 と手を振り、若い娘たちが目をキラキラさせている。アデリアは小さくため息をついた。

(神託……って、私がただ生活の話をしたいだけなのに)


「では、順番に相談をどうぞ」


 兄のレオナルドが苦笑しながら司会進行を務める。最初に立ち上がったのは、井戸掘り職人の老夫婦だった。


「アデリア様……実は村の西の井戸が、最近水が濁ってきてしまってな」

「味も少し鉄臭くて……子どもたちがお腹を壊すんじゃないかと心配で」


 アデリアはすぐに頷き、持参した小さな羊皮紙に走り書きを始める。


「わかりました。明日、私が直接見に行きますね。おそらく地下水脈の鉄分が上がってきているだけです。私の調合する浄化薬を三日間投与すれば、元の水に戻ります」

「ほ、本当ですか!?」

「はい。王都にいた頃も、同じ症状を治したことがありますから」


 老夫婦が涙を浮かべて頭を下げる。次に立ち上がったのは、若い母親。


「聖姫さま……うちの子が、冬になると咳が止まらなくて……」


 アデリアは優しく微笑み、母親の前に膝をついた。


「薬草湯を飲ませてあげて。材料はこれとこれ。あと、部屋の湿度を保つために……」


 丁寧に、まるで自分の子に語りかけるように説明する。

 その様子を、広間の隅で見守っていた司祭ベルドが、感極まったように手を合わせていた。(これが……これが我らの聖姫さま……)

 やがて、農地の代表が恐縮しながら手を挙げた。


「実は、来年の収穫が心配でして……連作で土が疲れてきているんです」


 アデリアは目を輝かせた。


「ちょうど良い案があります!今年はここに豆科の作物を作付けして、土に窒素を戻しましょう。翌年は小麦、その次は根菜類……こう回せば、十年は土が死にません」

「な、なるほど……!」

「それに、私が王都で試していた新しい肥料も、もう完成しそうですから」


 領民たちがどよめく。


「さすが聖姫さま……!」

「神のお告げだ……!」


 アデリアは慌てて手を振った。


「ち、違います!これはただの農学の知識で……!」


 しかし、誰も聞いていない。

 むしろ、誰かが小さな祭壇まで持ち出してきて、アデリアの前に設置した。


「ちょっと待ってください!本当に普通の話なんですって!?花を供えるのはやめて!」


 レオナルドが肩を震わせて笑っている。

(妹よ……お前はもう、完全に“神”扱いだぞ)

 広間は、歓喜と感謝と、ちょっとした信仰の熱気に満ち溢れていた。

 アデリアは頬を赤く染めながら、それでも一人ひとりの目を真っ直ぐに見つめ返していた。

(……でも、こうして必要とされるのは本当に、嬉しい)

 窓から差し込む柔らかな陽光が、銀金色の髪を優しく照らす。ターヴァ領に、奇跡の日々が帰ってきた。誰もが、そう確信していた。


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