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使用人棟へ着くと、ランドリーメイドがぺちゃくちゃ喋って洗濯をしているのをリラは見付けた。
(居た!居た!見付けたわ。)
早速仲間に入れてもらうため声をかける。
「ねえ、今日からここで働くんだけど私に仕事を教えてくれない?」
年嵩のメイドがリラの方を向いた。
「お仕着せはどうしたんだい?」
「まだもらってないの、試用期間らしくて…」
リラがもっともらしく言う。
「まあ、いいや。人手があるのはありがたい。」
リラは山のようなシーツをランドリーメイド達と洗っていく。
「あんた、目を隠してるようだが…ランドリーメイドにしちゃ美人すぎるだろう。客室メイドでももったいないぐらいだね。」
「そ、そうですか?」
リラの左隣に居るメイドが、美人という言葉から会話を広げる。
「そういや、今ノアール王子の隣に部屋をもらってるローザさまとやらがものすごく美しいって話だよ。」
「私も聞いたよ、客室メイドが口を揃えて言っていた。」
(そういう噂を待っていたわ。そのためにここまでやって来たんだもの。さ!情報収集よ。)
「ローザさまって?」
知らない名前が出てきてリラが聞き返す。
「ノアール王子の命の恩人らしいんだよ、なんでも四六時中王子が常にそばにくっついているって。」
(あの人魚姫はローザっていう名前なのね…四六時中一緒なら、ノアール王子は私の手紙なんて見てないかもしれないわね…)
(人魚姫の物語って王子は隣国の王女と結婚するのよ、そのローザっていう人魚姫が筆談でコミュニケーション取ってたからもうストーリー通りじゃないってこと?)
リラが気になることを聞いてみた。
「隣国の王女はどうするんでしょうね?」
「さあ、地味な見た目だというからね。所詮落ちぶれた国の王女だろう、適当に追い出すんじゃないかい?」
「今だに、ドレスの中で用を足しているんだろう…トゥアキスの女性は香水の匂いがキツいって聞いたことがある。」
(こんなランドリーメイドにもこの言われよう……だから、技術提供してもらうために政略結婚に来たというのに…)
「そういや、トゥアキスにはホワイトローズとか噂されてる王女がいるんだろう?」
「そのホワイトローズと噂の王女目当てに、王太子が婚約の打診したらしいんだよ。」
(ええ!?初耳だわ…)
「噂では、トゥアキスの第一王女さまのことだろう?」
(最初は王太子が相手だったのね!ブラオ王国の方は婚約者は、誰でもよかったわけじゃなかったのね。)
「あの色欲王太子がそんな噂を耳にしてほっとくわけないだろう、資源と美女の一挙両得ってところだろう。」
「それが噂の王女と違うのがやって来たのを知って、王太子が急遽ノアール王子殿下にこの婚約話を押し付けたらしいよ。」
(そういうこと……!)
「最初は政略結婚を引き受けるつもりのノアール王子もローザ様に出会ってしまった今となっては迷惑な話だろうね。」
「客室メイドが隣国の王女を追い出せないか画策しているらしいよ。」
(もう実行されてるわよ…)
「ノアール王子殿下は、使用人にも優しいからね。王子の幸せの為にって客室メイドが勝手に動いているってさ。」
(あの食事と掃除放棄はそういうことね。)
一通り洗剤で洗ったら水で何度もすすぐ。
何枚ものシーツを木と木の間に渡した紐に干していく。
「ちょうど昼だ、あたしらは食堂に行くけど新人はどうする?」
使用人棟に彼女らの住まいと食堂も併設してある。
リラは丁寧にお断りを入れて別の入口から使用人棟に無断で入った。
(噂話は十分聞けたわ。ここに、来る途中に自分の目で状況も確認できたし…)
(あとは誰か一人、口の固そうな子を探しましょう。)
廊下を歩くと、玄関近くの部屋でアイロン掛けしているメイドいた。
(一人の子を見つけた!)
「ねぇ、こんにちは。」
女はアイロンがけの手を止めず、振り返りもしない。
「私ミーア。これを見て欲しいの。」
ポケットからルビーを取り出し手のひらにのせ、ルビーを揺らす。
「これは……?」
アイロンをかけていたメイドの手が止まる。
「私トゥアキス王国のリラ王女の使用人の一人でミーアって言うの。」
「リラさまから下げ渡されたドレスに付いていた宝石なんだけど、あなたの私服と変えっこしない?」
メイドがアイロン掛けをしながら低い声で言った。
「面倒事には関わりたくない……」
「実はシュタットに恋人がいるんだけど、こっそり城から出てデートしたいんだよね。」
「ほら、こっちの服ってフープが入ってないでしょ?だから持って来た服だと浮いちゃうんだよね。」
ランドリーメイドが鼻で笑った。
「トゥアキス王国は未だにドレスの中で用をしてるって話だもんね。」
(なんだろう、ブラオ王国だって以前はそうだったじゃない……でも私達のことそんな風にこの国の誰も彼も思っているのね。)
「そう…そうなんだ。」
リラはちょっとしょんぼりした。
「いいよ、待ってて。」
メイドがアイロンがけの手を止めて、部屋を出て行った。
しばらく待つと服を2、3着持って戻ってきた。
「ちょうどいい色だわ!理想的。」
ベージュ基調の地味な色合いのワンピースだ。
メイドがリラをちらっと見て手を出す。
リラがルビーを3つ渡した。
ランドリーメイドの一年分の報酬分に値する。
リラはわざと小さめの石を持ってきた。
換金しやすいようにだ。
ランドリーメイドが大粒の宝石を持っていれば当然いらぬ誤解を生む。
「名前聞いていい?またお願いするかも。」
「クリンゲルだよ。」
「クリンゲル、ここで着替えて行っていい?」
「ここは、あたしだけだからいいよ。」
リラがクリンゲルの持って来たワンピースに急いで着替える。
「もらったワンピースの残りもここに置いてていい?帰りにまとめて取りに来るから。」
「好きにしていいよ、こんなにもらったんだ。」
クリンゲルの声で機嫌の良さが伺える。
リラは手早く着替えて使用人棟から出て行った。
城門までは、ランドリーメイドの居住区からは割とすぐだ。
門番にはリラの使いだと言って出た。
なにか食べる物を入手しないと飢えて死ぬ。