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一時間ほど砂浜を散歩した後、城へ戻ってきた。


リラはミーアと客室で昼食をとった。


食堂も使用できるのだが、ミーアと一緒に食べたかったので最初に家令に聞かれた時に部屋でとると言っていた。


ミーアにお茶をいれてもらって、リラはソファでくつろいでいた。


(すごく、いい雰囲気だったと思うのよね!ノアール王子のお茶目な一面も見れたし。なんて言ってもおでこにチュウされちゃったわ。でも、ランチを一緒にしてくださってもよかったのに……なぜかしらね。)


日傘を差していたが、少し顔が赤くなってしまっていた。


ミーアがボウルに水を張って浸した布を絞り、リラの頬に当てる。


「ほっぺを冷やしましょう。」


「ミーア、大丈夫よ。」



「日焼けしたなんて、トゥアキスにいたら王妃から大目玉を食うところですよ。」


リラは苦笑をもらした。



「そうね、政略結婚の駒として育てられたものね。日焼けなんてしたら価値が下がっちゃうもの。」


「トゥアキスでは第一王女より目立たないようにと言われて、存在感を消して生きてきたけど、ここに嫁げれば自由になれるわ。」


そのためにブラウンの髪はトゥアキスでは目が隠せるほどの長さにしていた。


「そうですね、ブラオ王国に嫁がれたらそんな理不尽な環境とも縁が切れますね。」


「ふふふ、良かったわ。語学の勉強をしておいて。」

リラはトゥアキスの周辺国の語学をほとんどマスターしているので、5ヶ国語は日常会話レベルなら話すことができる。


ティーカップのハンドルを3本の指先で軽くつまんで口に運ぶ。


扉をノックする音が聞こえる。

「まあ、誰でしょうね。ディナーにはまだ時間がありますね。」



用件を聞いて戻ってきたミーアが、ぶぜんとした表情をしていた。


「どうしたの…何かあったの?」


「それが…本日のディナーもこちらに運ぶと…おかしいですね。」


「ノアール王子殿下の体調が良くなったら、お食事をご一緒なさる約束だったのですよね?」



「ええ…ランチのお誘いも無かったし、外出したせいで具合が悪くなったのかしら?」

2人で顔を見合わせて首をかしげる。


「ノアール王子殿下は軍部を統轄なさっておいでだと言う話ですよ、そんな簡単に体調を崩しますかね。」


「心配だわ。お手紙を書くから、使用人に届けてもらって。」

「かしこまりました。」





その後も同じ城内で生活していても、なかなかノアールに会えずノアールの方からも音沙汰無しだった。


「手紙を出してもう4日目ですよ、なんの連絡もないなんて…どういうことでしょうね。」


「ミーア…最近私達の待遇が以前と変わったと思わない?」



リラはここ2、3日のメイド達の対応の変化について不思議に思っていた。


まず、客室メイドが全く顔を見せなくなった。


洗濯物の回収や、掃除をしてくれるものが来なくなった。

食事についても、ワゴンが部屋の外に時間になったら置いてあるのだ。


「リラさま実は私もそれは感じておりました。」

「食事の内容が下級使用人の食べるような内容になったなって。」


夕方になって扉を開けてみると、やはりワゴンが置いてあった。


今夜は一段と酷かった。

ワゴンにはスープと水の入ったピッチャーだけだった。


ミーアが冷めきったスープを配膳する。

「これはおかしいですよ、家令に報告に行きましょう…」

「そうね、そろそろ報告した方がいいわね。」


「先に毒味を…」

ミーアがスープを口にする。


「いつもありがとう。」


3時間後にリラとミーアは水洗トイレの有り難味を感じることになった。



スープになにか混入されていたようで、2人は嘔吐下痢でトイレに代りばんこに行く羽目になった。


死にはしないので嫌がらせだと思ったが、他国の王女にしていいことだろうかとリラは憤慨した。


夜中になって症状が落ち着いた二人は、ようやく入浴できた。



朝になり部屋の外を確認する。

ワゴンの上にスープが置いてあったが、見るのも辛くそのまま放置しておいた。



「ミーア、昨日のこと家令に伝えてくれる?」


「かしこまりました、ではちょっとお側を離れますね、お昼前には戻ります。」

睡眠不足も相まってミーアの顔色がまだ悪い。


「ええ、よろしくね。」


ミーアが出て行って直ぐにリラは着ていたドレスを脱いだ。

クローゼットを開けて、ミーアの持ってきた入浴介助用の服を探す。


貫頭衣なので頭からスポっと着て、ウエストを紐で縛る。


リラはランドリーメイドの職場に行き、彼女らの噂話から情報の収集することにした。


(彼女たちは意外とお喋りだから、何か情報が得られるかもしれないわ…こういうことはトゥアキスにいた頃から時々あったけど、新天地でまでされるのは勘弁してほしいわ…もう、私は以前の王女の人格だけじゃないのよ!嫌がらせがエスカレートする前に手を打たねば。)




リラは大広間を通り過ぎて、食堂に向かった。

台所には出入り口があるだろうと当たりをつけて進む。


(台所には使用人の出入口があるはず。そこから居館を出ましょう。)


思った通り台所の奥に使用人の出入口があった。

何人か使用人とすれ違ったが、服が平民の着るような服なので誰にも気付かれずすんなり外に出れた。


「よかった、うまく外に出れたわ。」


(使用人の出入口から真っ直ぐ行くと、確か城門があったわね。ノアール王子に案内してもらっててよかったわ。)


途中で道が分かれる。

まっすぐの道は目の前に大きな城門が見えるので違うことがわかる。

リラは使用人棟が右か左か迷ったが、右方向に進んでいく。


(さすがに、ノアール王子も使用人棟は案内しなかったものね。)


城内の道は舗装されていて歩きやすい、途中から道の両脇が芝生になっている。


(やだ、芝生だわ…じゃあ使用人棟は逆だったかしら。)


しばらく進むときれいに手入れされている庭園が右手側に見えてくる。


(庭園だわ……じゃあ、使用人棟はやっぱりこっちじゃ無かったのね…)


引き返そうと思ったら、庭園のさらに奥の方に、木々の間から屋根が見えた。



(よかった!多分あの屋根がそうだわ。)



ランドリーメイドは朝早くから遅い時間まで働く。


洗濯したものを干してアイロン掛けまでを一日がかりでするため、主人の住む居館とは離れた敷地内に別に棟があってそこに住んでいることが多い。


リラはそのまま進んで、庭園の脇にある道を通る。


庭園は色とりどりの花が咲き乱れていて、その中にガゼホがあった。


リラは、そこにノアールを見つけた。


「あら、ノアール王子だわ…お元気そう……?」

リラは目を凝らした。


どうやら、ガゼホでティーパーティをしているように見える。


ノアールの隣にウエーブのかかったコーラルピンクの髪にローズクウォーツの瞳の女性が寄り添っている。

よく見ると、紙とペンを持って2人で見つめあって笑っている。

どうやら筆談をしているようだ。


(あの時見た、人魚姫だわ!)


(確か…物語では魔女の薬で声と引き換えに、人間になるのよね。)


(あれ…?物語には筆談して意思の疎通を図るような描写はなかったはずだけど…)



(でも原因がわかったわ。ランチもディナーも声がかからない理由が。王子は人魚が好きになったんだわ…王子の心変わりがメイド達にトゥアキスの王女を軽んじてもいいという風に思わせたのかも。)


(でもだからって嫌がらせするのはおかしいわ…何か理由があるはず。)


「フ、私ともいい雰囲気だったくせに……ひどいわ。」


(あちらは本当の命の恩人だものね、しかも人外の美しさだから惹かれるのもわかるけど…)


リラは自分の前髪に触れた。

(私にチュウしたくせに〜!)



「考えない、考えない!」



リラは洗濯場ヘ早足で急ぐ。

(兎にも角にも情報を得なければ。)

前も見ず速歩きをしていたら人にぶつかった。


「痛ってー。」


目の前には商人風の男が、壁のように立っていた。


相手の男が上背があって鍛えているせいだろう、リラは思ったより後ろに飛ばされて尻もちを付いた。


「あ、ごめん。そっちの方が被害者っぽいな。」

男はグリュック王国の言語を話していた。


「こちらこそ、急いでいて前を見てなかったわ。」

リラもグリュック王国の言語で返した。


男が目をみはる。


「グリュック王国の人にこんなところで会うとは。」

「ぼくは、グリュック王国の商人のアヴィだよ。ブラオ王国のノアール王子に贔屓にしてもらってるんだ。お姉お姉さんは?」


アヴィが尻もちをついたリラに手を差し出したが、それを丁寧に断って自分で起き上がる。


「手を貸してもらうような年じゃないから、一人で大丈夫よ。」


アヴィは髪がブラウンで色付きメガネを掛けている。

鼻筋と口元しか見えないが、見えているところは整っていた。


(色付きメガネとかこの世界にもあったのね…)


「それと、私はグリュック王国の者じゃないわ。たまたま知り合いがいて言葉が少し分かる程度なの。」


「じゃあ、私仕事場に戻らないと。」

リラがその場を立ち去ろうとしたところで、また話かけられた。


「お姉さん、お仕着せがみんなと違うようだけど?」

リラの背中を冷や汗が流れる。


(細かいところに気が付く男ね、今まですれ違った使用人は気付かなかったのに。)


「今から洗濯場に取りに行くところよ!」


「ふーん。よかったら、ぼくと今からシュタットまで遊びに行かない?暇なんだよね。」


シュタットは城郭内にある都市の中心地だ。


「悪いけど、私は今から仕事なの!」

リラは速歩きでその場を後にした。













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