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リラは、アヴィと想いが通じた日から髪の色をもとに戻すために染毛料を使うのを止めたので、プラチナホワイトの髪とピンク味のブラウンに染まった髪がいい塩梅でグラデーションになっていた。
もともと王妃が王女のために作らせたトリートメント効果の高い染毛料で染めていた。
トゥアキスにいた頃は洗髪を毎日する習慣もなかったのと、使用頻度がさほど多くなかったので髪もそこまで痛むことはなかった。
(お手入れをしっかり始めてから艶も出てきたし、これはこれで珍しくていいかも。)
アーベントはリラに念書を書いた次の日に、ノアールと綿密に打ち合わせてから、すぐトゥアキスへ使いをやってそのまま車で、ヴァイス城まで王妃を連れてくるよう手配した。
車はスピードもさることながら、天候や馬の疲労具合など考えなくて良いので、計画通り8日間でトゥアキスに着いたようだった。
リラは寝室の窓から、美しい庭園をなんとなく眺めていた。
グリュック王国の客船を見た時、『あまり驚かないね。』とアヴィに言われたことを思い出す。
(それもそのはず…私には前世の知識がある。)
(ローザも客船を見たけど、私と同じように『すごい』と思ってもカルチャーショックは受けなかったんじゃないかしら。)
(もしかしたら…グリュック王国には前世の記憶を持つ者、もしくは転生者がいるのでは……ここが人魚姫の世界観なら下水道の完備はまだのはず。)
(トゥアキスの王宮ではようやくここ2、3年ぐらいで便座みたいな椅子を使用するようになった。そこに溜まったら、決められたところに運ぶようになったけど…これでも良くなったほうよね。)
(残念だわ。私に前世の記憶が戻っても、下水道のことは解らないし……)
「…さま、リラさま。」
ミーアが何度も呼んでいたようだ。
「ごめんなさい、何かしら?」
「ここ最近、ずっと物思いに耽っていらっしゃいますよね?アーベント王太子とノアール王子がお見えですよ。」
「あら、ノアール王子も?しばらく忙しいと仰ってたのに。」
「会いに来てくださってよかったですね、リビングルームにお通ししていますよ。」
ミーアが自分の事のように喜ぶ。
(待遇が改善されたから、ここ最近笑顔が増えたわね。)
「紅茶をお願いね。」
リラは寝室にあるドレッサーの鏡で、軽く身だしなみをチェックしてリビングルームに向かった。
リビングルームに行くと、アヴィとノアール王子が揃って来ていた。
二人が横並びで三人掛けのソファに掛けている。
リラは二人にカーテシーをした。
ノアール王子がリラの瞳を見て息を呑んだ。
前髪を眉毛の辺りに揃えたことで、リラのレッドダイアモンドの瞳が余すことなく見える。
アヴィが席を立ちリラの手を取り、二人掛けのソファに一緒に掛ける。
「今日もきれいだね、リラ。なかなかこちらに来れなくてごめんね、変わった事はなかった?」
ノアール王子が、アーベント王太子の変わりように目を丸くした。
「アヴィ……毎日お手紙をもらっているし、わたくしもお返事を出しているでしょう。変わった事は、今日突然二人でおいでになった事くらいだわ。」
二人の様子を見て気まずい思いをしながら、ノアール王子が口を開いた。
「リラ王女殿下……」
「はい……」
ノアール王子の改まった呼びかけにリラは身構えた。
(なにかしら……)
「使用人らの噂話を鵜呑みにして、あなたの待遇や境遇に気付けず大変申し訳無かった。」
ノアール王子がソファから立ち上がってリラに頭を下げた。
まさかこんなしっかり謝罪されると思っておらずリラは恐縮した。
「ノアール王子、頭を上げてください。過ぎたことは水に流しましょう。今の私にはアーベント王太子が側にいてくださるので、結果的にお互いこれでよかったのだと思います。」
「よかったなノアール、リラが寛容で。」
「アーベントにも迷惑をかけて申し訳なかった。」
ミーアが、タイミング良く紅茶を淹れて出した。
緊張していたのかノアール王子が、先に断って紅茶に口を付ける。
「じゃ…リラ、今から婚約パーティーの詳細を伝えるから。」
アヴィがリラの方に顔を体ごと向けた。
「まず、グラッセン王妃が3日後に到着するのは言ってたと思うけど、第一王女も一緒だ。」
「ブラオ国王とライア王太子も3日後に到着してヴァイス城に滞在する。」
ノアールが付け加えた。
「居館の西側の部屋を用意してあるから、顔を合わせることはないと思うが気を付けてくれ。」
「第一王女も来られたのですね。」
ノアール王子がアーベント王太子を見て気の毒そうに言った。
「アーベントにご執心のようだからね、顔つなぎに来たのだろう。」
アーベントが無視をして先を続ける。
「家令から逐一報告を受けているが、あちらの計画に乗ろうと思っている。」
「ブラオ国王の計画では、わたくしが、ローザさまを毒殺してその責任をトゥアキスに負わせるというものでしたわね。」
「もちろん、毒は少し寝込む程度のものが用意されているようだよ。」
「リラがホワイトローズの娘だと知ったら、おそらく計画を中止してライア王太子が君と婚約する方へ動くだろう。」
ノアールがリラの方を向いて言った。
「うちの国としては、それで万々歳だけど…当初の政略結婚の通りでね。」
「しかし私としては、友の幸せと迷惑をかけた君への贖罪のためにもアーベントとうまくいくよう手伝わせてもらうよ。」
「それで、どうするのですか?」
アヴィがリラにこちら側の計画を話して聞かせた。
「簡単だよ、君がホワイトローズの娘だと周知させればライアが計画の中止を指示するだろうが、そのまま家令らは実行に移す。齟齬が生じれば奴らの企みが明るみに出る。一国の王女を罠にかけようと画策してるんだ、まあまあの騒動に持っていけるよ。そのためにナハトとノイエルからエキストラを招集してある。」
「トゥアキスのグラッセン王妃だって乗ってくるさ。」
「君は、当日ぼくのそばでその美しさを余すことなく、皆に披露してくれればいいから。」
「緊張してきましたわ…わたくし。この計画がうまくいくかは、ミーアの腕にかかってますのね。」
ミーアは自分にお鉢が回ってくると思わず慌てた。
「え、私ですか!リラさま……そんなこと言われると私も緊張してきました!」
「フフフ…冗談よ。ミーアはいつも丁寧な仕事をしてくれているもの、大丈夫よ。それにアヴィの贈ってくれたドレスを着るのだし。ね、アヴィ。」
「フフ…婚約パーティーなのに、ローザが君で霞むんじゃないかと心配してるぐらいだよ。」
「ちょっと、君たちね〜」
3人で目を合わせて笑った。
ミーアも目を細めてみていた。




