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2人で岩の後ろに回りこんで確認すると、波打ち際に一人の美しい男が横たわっていた。
ミーアが目を丸くして言った。
「本当だったんですね!すみません、確認するまで疑っておりました。」
「でしょうね、普通ありえないから。」
「は?」
ミーアが聞き返す。
(喋り方に気をつけなきゃ…)
「なんでもないのよ。ミーアお願いよ、ヴァイス城にいる使用人を呼んできて。」
「かしこまりました!直ぐに戻ります。」
ミーアが、ぎこちない足取りで戻っていく。
(このままじゃ、耳に海水が入りそうね。)
リラは裾が濡れるのも構わず王子の頭頂部側に膝を付いて、自分の膝に王子の後頭部を少しお起こして乗せた。
(ノアール王子って本当に噂通り美しいのね。)
オニキスのような漆黒の艶のある髪に前髪がセンターパートで分けられていて少し眉にかかっている。
長いまつ毛にスッキリ通った鼻筋に上品な唇。
「さっき人魚を見ちゃったってことは…まさか人魚姫の話の中にいるのかしら。」
「童話通りいくなら、人魚姫は海の泡になって私は普通に王子と結婚するってことなのかしら。」
遠くからガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてきた。
リラが声のする方に顔を向けると、騎士と使用人がこちらに向かってきている。
「う…んん」
(目が開くわ!)
ノアール王子の瞼が開いてリラと目が合う。
(下から見られるのって恥ずかしいかも…)
リラが安心するように声を掛ける。
「ノアール殿下、大丈夫ですか?」
「今助けが来ますので、もう少しこのままじっとしていてくださいね。」
「ああ……君が助けてくれたんだね。」
エメラルドの瞳が煌めきリラを優しく見つめる。
(ここは、ストーリー的には頷く場所だけど…これも助けたうちに入るよね。)
「そうです、砂浜を歩いておりましたら殿下が倒れているところを見つけました。」
(嘘は言ってないわ、私は嵐の中を助けたわけじゃないとしっかりアピールしておかなくちゃ。)
ミーアが砂に足をとられながらも足早に駆け寄ってきた。
「リラさま、ノアール王子殿下はお気付きになられたのですね!さすが愛の力ですわね。」
「ミーア、騎士を連れて来てくれてありがとう。」
騎士の一人がノアール王子の意識があることを確認して、涙を流しながらノアール王子に言った。
「ノアール殿下…本当に、ご無事で良かった。」
担架を砂浜に付けて、ノアール王子の身体を二人掛かりで担架に乗せた。
「リラ王女殿下、このたびはノアール殿下を助けてくださりありがとうございます。」
家令も自ら出向いてきて、リラにお礼を言った。
「陛下にも先ほど連絡をいたしました。大変安堵されたようで、是非リラ王女殿下にお礼を言いたいとのことです。」
「そう……」
リラはちらっと後ろを見た。
海に戻ったと思っていた人魚が、岩かげからこの様子を伺っているのが見えた。
(確か、人魚姫も王子の美しさに見惚れて好きになって、嵐に遭った船を見て王子を助けるんだったよね。)
騎士がノアール王子を担架に乗せて砂浜を歩く。
城に繋がる橋を通って城内に入った。
そのまま居館の方まで担架で運んでいく。
「ノアール殿下、ご無事でっ…」
使用人達がエントランスホールに集まり感極まって落涙する。
「すまない……心配かけたな。」
ノアール王子が担架に乗ったまま集まった使用人に答える。
使用人が一斉に集まっていたのでおさまりがつかず、リラがこの場を仕切った。
「皆さん気持ちはわかるけれど挨拶は後で、ノアール王子殿下を先に休ませてあげましょう。」