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リラは次の日の早朝、まだ皆が眠っている時間に起てミーアに置き手紙をした。


(昨日、アヴィに会ってランドリーメイドの噂話を聞いて、そのまま引き返してきちゃったのよね……今日は絶対パンを買わなきゃ。)


パンを買いにシュタットに行くのに、ランドリーメイドのクリンゲルの服に着替えた。

ベージュの地味な貫頭衣に腰に紐のベルトが付いている。


朝がまだ早かったのもあり、居館の使用人とはすれ違わずに済んでリラはホッとする。


リラは早歩きで城門を目指す。


庭園や誰もいないガゼボに、朝日が差し込んできて照らすのを横目に見て通り過ぎる。


ランドリーメイドの使用人棟の前を通ると、数名のメイドが大きな釜に水を張って湯を沸かす準備をしていた。

(ランドリーメイドは、こんなに朝早いのね…)



リラは城門に着いた。


門番にリラの使いだと断って城外ヘを出る。


城からシュタットまでは緩やかな坂が続く。

道は舗装されているので歩きやすい。


しばらく進むと右に曲がる道があり砂浜に向かう。右側には海が見える。


(この道を通って、ノアール王子と砂浜に散歩に行ったわね。)


シュタットへは、さらにまっすぐ進んで行く。

舗装された道の両脇に木々が植えてあるので、木陰に海風が通っていて気持ちいい。





「おねえさん、朝早くにお出かけ?」

後ろから聞き慣れた声がする。


「アヴィ…あなたって神出鬼没ね。」


「おねえさんほどではないかな。」

「良かったらグリュック王国の船を見せてあげようか?」


「いいの?見たいわ。」

(ちょうど良かった!船の停泊場所を知りたかったのよね。)

(少しずつ逃亡の準備が整ってくるわね。)


アビィとリラは通ってきた道を城門まで戻り、城をぐるりと回り込み城の裏側に行った。


城の裏側には桟橋があり豪華客室が横付けして停泊していた。


(こんなところに船があったんだわ。)


(グリュック王国の王太子が居たものね、これに乗船して来たのね。)

(すごく豪華だわ…紛れ込んで乗れるかしら?)


アヴィが黙ってしまったリラに自慢げに声を掛ける。


「どうしたの、びっくりした?大きい船だろう。ぼくの船なんだよ。」


「え!?」


(アヴィの個人の船なの?やだ、本当に驚いたわ!)


「アヴィは、大商人なのね。」


豪華客船は全長300メートルはありそうだった。

外から見えるだけで客室も100以上はありそうだった。

甲板が階層上になっていて屋外で食事ができるようになっていたりデッキが庭園風に作られていたり、大きなお風呂があるのが遠目から見える。



「もとは軍艦を作る予定だったんだけど、せっかくならと快適な船旅ができるようにしたんだ。」



「グリュック王国って思った以上に技術力も高いけど、発想力が斬新だわ。」


「そうだね、それに平和主義国なんだよ。自国以外の平和も自国の平和につながると今の陛下は考えておられる。」

「怪しいものは、悪さをする前に目を摘んで回っているらしいよ。」


(スパイ映画みたいね。)


(本当は、グリュック王国を逃亡先に選んでたけど、こんなに技術の発展した国なら体制もしっかりしてるはず、捜索されたらすぐに見つかりそう。)



(悪い芽を摘んで回っているなら……勝手に逃亡先にして住み着いたりしてたら…バレたら粛清されそうだわ。)


「実は、アヴィに相談があって。」


「ぼくに相談?嬉しいなぁ。」

「船内見てみる?おねえさんならいいよ。」


アヴィがリラの手を自然につないで船に乗り込もうとタラップに足を掛けた。


その手をリラが両手で引っ張る。


リラが自分から手を握ってきたことを、アヴィは以外に思い目を細めてリラを見た。


「船内の見学は次でいいわ!あなたは商人でいろいろな国を見ているでしょう?ナハトとノイエル…住むならどっちがいいかしら?」


アヴィは一瞬ジト目でリラを見たが、すぐに人懐っこい笑顔と普段の軽い調子で言った。


「おねえさん、せっかくならぼくの国に来たらいいよ。」

「そうね…アヴィの国、いいところみたいだから行ってみたいわね。でも船内の見学はまだいいわ。」


リラが掴んでいた手を強めに引っ張って、アヴィをタラップから下ろした。


その拍子に少しだけ色付きメガネがズレたのをアヴィが反対の手でなおす。


アヴィの手がメガネのずれを直したので、リラはなんとなくブラウンのレンズに視線が吸い寄せられる。


「そのブラウンの色付きメガネお洒落ね。」

「そう?船の上は眩しいから重宝するんだよ、水面の光が反射するからね。」


「そうなんだ。私はまだ乗ったことないから知らなかったわ。」

「アヴィ、他の船が付く港もどこかにあるわよね?シュタットのどこにあるのか知ってる?」


リラが他の船で他国に行くことを考えているのを、

アヴィが知ってか知らでか、先回りして言った。

「おねえさん、航海するならうちの船が一番安心だよ。」


アヴィが何度も自分の船を勧めるのにリラは苦笑した。


「誘ってくれてありがとう。船で()()するときはアヴィの船に乗せてもらおうかな。」


「じゃあ、私はちょっと寄りたいところがあるからここでお別れしましょうね。」

「またね、楽しかったわ。」

(今日は絶対パン屋に行かなきゃ!)



リラはアヴィに手を振り、一目散に走ってシュタットに向かう。


アヴィは掛けていたメガネを外しながら遠ざかるリラの背中を見送った。


そしてメガネを持った右手を、何かを呼ぶように肩の横辺りで軽く振って合図をする。


アヴィの合図を見て、木の影から男が進み出た。


その気配を察知して、アヴィがその男の名前を口にした。

「ゲーライト。」


ゲーライトと呼ばれた男が、アヴィの左斜め後ろで頭を垂れる。


「後を追って、危ないときだけ手を貸せ。」

「御意。」

そのまま男はリラの後ろ姿を気取られないよう追いかけた。










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