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リラはどうやって客室に戻ったか覚えていないほど頭が疲れていた。


いつ使用人が狼藉を働くか不安で、常に施錠するようにミーアに言い付けていたのでリラは扉をノックをした。



「リラさま大丈夫ですか?」

ミーアが扉を開けて、リラの顔色を見て心配した。


「ちょっとベッドに入っていいかしら?」

リラがよろよろとベッドに倒れ込んだ。


外出着のまま寝転んで、自分の腕を枕にして横向きになる。


行儀が悪いことだろうが、リラは前世の記憶や意識が戻ってから自分に甘くなっていた。


ミーアも最近のリラの境遇を思うと、こういう行為を見ても目をつぶって甘やかしてしまう。



ミーアがコップに水を入れて運んできた。


「リラさま、ランドリーメイドのクリンゲルが訪ねてきて、リラさまにと洋服を数枚と、言付けを残して帰りました。」


「クリンゲルが?」

リラが気だるいながら上半身を起こした。


ミーアがコップを渡す。


「リラさま…ランドリーメイドがこちらの客室を訪ねてくるなど本来はありませんよ。」


リラがミーアから受け取ったコップの水に口をつける。


「本当にどうなっているのでしょうね。」

「ありがとう。ちょうど喉が乾いていたの。」


リラが飲み干した空のコップをミーアに手渡す。


「それで、言付けとは?」


机の上からメモ紙を持ってきてリラに手渡す。


「クリンゲルは字が書けませんでしたので、私が話を聞いてメモしております。


『ルビーさまヘの伝言』という文字を見てリラは思わず笑った。


「フフ…そうだわ。私ミーアと名乗ったのだったわ、クリンゲルは本当のミーアがあなたで驚いてなかった?」


「ええ、でもさすがに使用人棟を訪れたのがリラさま本人とは思ってないようでした。」


「……と、いうと?」


「私の名を騙ったリラさま付きの侍女だと思ったようですね。」

「そう…ふふふ。」


リラはメモに目を通す。


隣国の王女のことで良くない噂があり。

王子を助けたと周囲に吹聴して、それを理由に無理やり婚約を突きつけている。


王女が城で出される食事に文句を言って、皿をひっくり返したり、気に入らない客室メイドを折檻していて、そのせいでメイドが隣国の王女の世話を怖がっている等です。


事実かどうか私ではわかりませんがランドリーメイド仲間が話していたのでお知らせしておきます。


王子殿下は噂のようなことをする方はお嫌いな質の方らしいので気をつけてください。



                『クリンゲル』


「これはどういうことですか?」


(なるほど、ノアール王子はこの噂を信じていらっしゃっていたのね。)

(それなら昨夜のあの態度もうなずけるわね。私にも非があるから目をつむれということだったのね。)


「ミーアの名前を勝手に使ってランドリーメイドの住む使用人棟ヘ行ったのよ。勝手にごめんね。」


「それは、かまいませんが……この状況ですから気をつけてくださいね。」


「クリンゲルには十分すぎるほどのお礼をしたからおそらく情報を届けてくれたのよ。」


「ミーア、それよりもこの手紙通りの噂が広まっているのよ。」

「え?」



「それと、この前の昼食の席にローザという女性が同席していてね。」


「彼女が嵐の中、ノアール王子殿下を助けたのよ。」

「嵐の中ですか?」

ミーアが理解できないという表情を見せた。


「どうやってって思うわよね。」

「はい…」



「ふふふ…実は彼女伝説上の生き物だったの。」

(ミーアは、信じるかしら?)


「伝説上の生き物?」


「人魚よ。」


ミーアが眉をひそめた。

「リラさま?人魚なんて……」


「お会いしたけど、人外の美しさだったわ。」


ミーアは、リラが真面目な顔で説明するので我慢して聞いていたがついに口を挟んでしまった。


「ちょっと待ってください、本物の人魚だとでも言うんですか?そんなのいるわけありませんよ!」

「ノアール王子の策略ですよ!リラさま騙されているのでは…」


「私も自分の目で見てなかったらそう思ったわね。」

ミーアが目を見開いた。


「それから…朝食の席で告げられたのだけれど、ノアール王子はわたくしを愛人にすえるようね。」


「王女殿下ともあろうリラさまが愛人ですか!」


「落ち着いて、悪いことばかりじゃないわ。」



「置き手紙をして逃亡してもいいかと思っているのよ、『岩陰にいた王子を見つけただけのわたくしでは王子にふさわしくない。真実愛するローザと憂いなく一緒になってください。身を引きます』と書いて失踪するのよ。」


(物語では人魚姫が消えるのだけど、人魚姫自体が物語通りじゃないのだからストーリーは当然変わってくるわよね。)


「ミーア、伝えるのが遅くなってごめんなさい。」


「あなたも状況を整理して心を落ち着けておいてね、わたくしは、少し疲れたので休むわ。」

リラはベッドに沈み込む。


「かしこまりました。」


「ミーア、わたくしの持ってきたドレスの宝石をどうした?」


「逃亡資金になりそうなものは…全てまとめて集めておいて……」

リラは、うとうとしながら指示した。


「では……とうとう。」

「いいえ、準備…だけ。まだよ。」


(まだ、逃亡するには筋書きが弱い。逃げて養父と母に迷惑をかけるわけにはいかない。)



リラは眠りに落ちた。











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