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トゥアキス王国第3王女リラ・ズィルバーン・トゥアキスは、政略結婚のためブラオ王国の王家直轄領のヴァイスに顔合わせのため訪れていた。


リラは政略とはいえ、この縁談を楽しみにこのヴァイスに着いたのだが、昨夜おそくに一昨日の嵐で婚約者となるはずのノアール第2王子殿下の乗船していた船が転覆したと一報を受けた。


ショックでリラは朝食も喉を通らなかった。


リラは、ヴァイス城の家令の勧めで侍女を連れて砂浜を歩いている。



波の音が少し気分転換になる。




侍女のミーアがリラを気遣うように慰める。

「リラさま、まだ望みをお捨てになりませんように、うまいこと小舟などを出して難を逃れているやもしれませんよ。」



「なにせこの国はもう下水道も完備されているほど優れた国ではありませんか!」



ミーアはブラオ王国の水洗トイレが気に入って、直ぐにトイレの話に結びつけるのをリラが可笑しく思って聞いていた。



ミーアは濃いブラウンに同色の瞳を持つリラより一つ年上の侍女だ。



「こちらの女性はコルセットもしてなければ、フープスカートを履いてないんですよ、びっくりです。」


「噂に聞いていましたが、本当にスカートの中で用をたさないんですね。」


このブラオ王国に来てからのミーアの関心はそこに一点集中していた。


何度も水洗トイレとシャワーを行ったり来たりしていた。



リラは風で傘が煽られるので芯をしっかり握る。



「そうね、それだけいろいろ発展してる国ですもんね。ノアール王子もきっとなにかしらの方法で脱出なさっておいでよね。」





トゥアキス王国から、ブラオ王国までは陸続きなので馬車で一ヶ月程かかる。


ブラオ王国の国境検問所で馬車から車に乗り換えさせられた。

馬は道で糞をするということで、ブラオ王国では長距離の移動には使わないということだった。



ブラオ王国の王室公用車はボディカラーが、深い青緑と黒のツートンカラーで屋根に紋章がプリントされていた。

車内は運転席との間に仕切りがあり、革張りの内装と装飾が豪華だった。


この車などのエネルギー資源となるものが、トゥアキスにあるらしく資源開発と技術提供の為の政略結婚だった。




リラの政略結婚の相手のノアール・シュテート・ブラオは、ブラオ王国の第二王子で軍部の指揮官でもある。


ちょうど隣国シュヴァルツとの貿易交渉が終わり船で帰国するとのことで、ここヴァイスで王子との顔合わせが計画された。




ブラオ王国第2王子ノアールといえば、オニキスのような漆黒の艶のある髪にエメラルドのような瞳を持つ文武両道の美しい王子と噂だ。


近隣諸国にも噂が届くほどで、誰が彼のお相手になるか注目を集めていた。




リラの使命は、トゥアキス王国にも水洗トイレの技術提供を受けることだった。



この政略結婚がうまくまとまらなけば、トゥアキス王国よりおそらく何らかの罰を受けることになるだろうと考えて気が塞いでいた。



2人で浜辺を歩いていく。

海は一昨日の嵐の影響か風が少し強いが、見渡す限り美しいエメラルドグリーンだ。


「リラさま、あれは何でしょう?」

「どれ?」

「ほら、あの岩かげご覧になってください。」


リラ達のいる砂浜の場所から50メートルほど先に岩がある。

その陰に銀色の魚の尻尾が見えた。


(魚の尻尾?)


「うっ…………」

「頭が割れるように痛いわっ」

「リラさまっ」

ミーアが心配気に近寄る。


リラは傘を手放し、その場で砂浜に膝を付いた。

「リラさまどういたしました!?」


割れるほどの痛みがある頭をリラは手でぐっと押さえる。

頭痛がひどいが、岩陰から目を離せない。


ミーアの大きな声にびっくりしたのか、尻尾の持ち主は一瞬こちらを見て海の中舞い戻った。



(まさか…人魚だわ)



人魚はローズクウォーツの宝石のような瞳にコーラルピンクのゆるいウエーブの髪が腰まである。

人とは思えないほどの美しさだった。


ミーアは頭痛を訴えたリラの様子を伺うために、前に回り込んで来たので、人魚に背中を向けていたため気づいてないようだった。



「人魚姫か……」

リラは、前世を思い出したからか頭痛が治まった。


自分がどんな人物でどうやって生きて死んだとかは思い出せなかったが、知識だけは思い出した。


「リラさまもう大丈夫なのですか?」


「あ、うん…じゃなくて…ええ。」


傘は風で遠くに飛ばされてしまった。


「心配掛けたわね、もう大丈夫よ。」


人魚はもう海に戻ってしまったようだ。


「ミーア、あの岩陰の向こう側を見に行きましょう。」


「え?もう戻られたほうがいいのでは?」

ミーアが心配気な顔をする。


「あの岩陰に王子がいると思うのよね、潮が満ちたらまた流されてしまうから急ぎましょう!」


「あの岩陰にですか?」

ミーアはブツブツ言いながら一緒に付いてきた。


リラの瞳が隠れる長めの前髪と、腰までの真っ直ぐの柔らかいブラウンの髪が風になびく。




リラの瞳は珍しいレッドダイヤモンドのような色で、日中はキラキラと輝くように見えたり、光の届かない夜には濡れたように見えたりする。


リラは人目を避けるように生活していたせいもあり、この美しい瞳を知るものは少ない。


普段はブラウンの前髪が目にかかっているので、なおさら人に気付かれることがない。






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