表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

5話


「どうしよう。すごくやめたくなってきた……」

「こんな仕事はやめておけよ! 頭が狂っているとしか言いようがねえ!」


 私とスノウは、ナルキッソスさんに聞こえない程度の小声で相談していた。


「ちなみに、今回の報酬は40万マド(地球のお金で約40万円くらい)を予定しております」


 え!? 40万マド!? プロにだって知名度がなければそんなお金は動かないよ!?


「やります! 是非、やらせて下さい!」

「おい! 何を言っているんだよ!」


 私はお金のために魂を売ることに決めた。


 下半身を見ずにデッサンすればいいのよ。石膏だって下半身があるものだってあったじゃない。私は無心で鉛筆を走らせた。


 デッサンがやっと終わったーー。


 隣に座っていたスノウを見たら、夢の中だった。スノウったら寝てる。寝顔は可愛いな。


「ナルキッソスさん、お待たせしました。デッサンが完成したので見ていただけませんか?」


 ナルキッソスさんに声をかけると、ソファで休んでもらっていたナルキッソスさんがこちらに向かって来た。


 なんでまだ裸なのよ! 服を着なさいよね! 


 ナルキッソスさんが私のキャンバスを見た。


「とても美しいですね。私の魅力を描ききれています。ここまで気に入ったのは初めてです。着色されるのが楽しみです」


 その笑顔で落ちない女はいないんだろうな。この人、ナルシストなんて可哀想……。まあ、ちょっかい出されないから、こちらとしてはやりやすいけれどね。


「完成したらお知らせしますね。今日はお疲れ様でした」

「頑張って下さいね。宿舎は自由に使っていいですよ。お風呂もあるので、旅の疲れを癒やして下さい」


 ナルキッソスさんはそう言うとアトリエを後にした。


 スノウ、まだ寝てる。こんなに寝たら、夜に眠れなくなるよ。

 意外と寝相いいな……。毎日、背中合わせで寝ているのに、朝起きると向かい合っているから、もっと酷いかと思っていたわ。


 髪奇麗。ちょっと触るくらい、良いわよね。こんなに無防備なんだから。

 

 私はスノウの髪に触った。


 サラサラだな。どんなコンディショナーを使ったら、こんなにサラサラになるのよ。ああ、ずっと撫でていたくなる触り心地だわ。


「ん……。俺、寝ていたのか……」


 やばい! 起きてきちゃった! 髪を触っていたのバレていないよね!?


「ナルキッソスさんは帰ったわよ。夜ご飯でも食べに行く? 私が奢るよ」

「ああ。ありがとうな」


 良かった。気づいてないみたい。焦ったーー。


***


「こんな高そうなところに入っても大丈夫なのかよ」

「ふふふ。お金をもらったの見ていたでしょう? スノウも遠慮せずに食べてね」


 私は、1ポンドステーキを注文した。スノウは遠慮していたので、同じものを注文してあげた。男ならこれくらい食べられるでしょう?


「おまえと結婚したら、財布は俺が握らなきゃいけねえな。食費で破産しちまいそうだよ……」

「ちょっと、何を言っているのよ!」


 何それ! プロポーズじゃん!


「ばか! 例えだよ! 勘違いするんじゃねえよ」


 例えか〜。でも、想像しちゃった。胸のドキドキが止まらないよ。


「はい。お待たせ! 熱いうちに食べて。サービスにジュースを付けておいたよ。ふたりで飲んでね」


 カップルストローの刺さったオレンジジュースを店主からもらった。

 この世界にカップルストローが存在していたなんて! 木で出来ている。すごい職人技だ。


「陽菜がひとりで飲めよ……」

「ふたりにってもらったんだよ! 一緒に飲もうよ!」


 一人で飲んだら意地汚くみえるじゃん。

 スノウ、なんでずっとこっちを見ているのよ! 恥ずかしいな! 耐えられない。一気に飲んじゃおう。ずずずず。


「俺、全然飲めなかったんだけれど」

「弱肉強食って言葉を知っている? 遅いのが悪いのよ」


 初給料で食べたステーキは肉汁がすごくてとても美味しかった。高いから、特別な時にまた来よう。


***


 夜も遅いのでアトリエに併設してある宿舎に来ていた。


 ナルキッソスさん、お風呂があるって言っていたよね……。

 本当にあった! お風呂だ。嬉しすぎる。

 魔石でお湯を調整出来るなんて便利。これ、山小屋にも欲しいな。


 あ〜〜。幸せ〜〜。極楽、極楽〜〜。


 お風呂から上がると、就寝の準備をした。


「宿舎のベッドもひとつだね」

「俺、宿に泊まるわ」

「はあ? 節約しなきゃ駄目でしょう? 一緒に寝ればいいじゃん」


 だって宿泊費、1泊で8千マドもするんだよ?


「お前はそれでいいのかよ……」

「お金は大切だよ」


 私たちは背中合わせで就寝についた。


***


 またこれだよ……。


 朝起きると、スノウと向い合せで寝ていた。

 なんで毎朝こうなっちゃうんだろう。


 ああ、スノウの服に涎がべったり。怒られるやつじゃん……。


 とりあえずタオルで拭こう。少しはマシになった気がする。乾けばバレないよね。


「陽菜、何やってんの?」

「う……。起きていたの?」

「うん。陽菜が、俺の服に付いた涎を拭いてるのをばっちりと見させてもらったぞ」


 最初から全部見てたんじゃん! 一生懸命、私が涎を拭いているのを黙って見てたってこと?

 性格悪いーー。


「そのうち、胸元だけ服が色あせるかもな。そうしたら、陽菜の涎で脱色したんですって、周りに言いふらしてやるよ」


 寝間着ねまきだからそもそも見られるはずがないのに! 意地悪だな。口に手を当てて笑っているし。

 

「はあ〜。絵が完成するまで、後6日は掛かりそうだから、スノウは山小屋に帰っていてもいいよ」

「そんなにかかるのか!?」

「40万マドの作品だからね。時間をかけて描かないと失礼かなって思って……」


 大金が動くのだ。中途半端なことは出来ない。


「俺も内職をしてこっちに残る……」


 スノウ、何を言っているの? 魔石採掘の仕事はどうするのよ。


「魔石の採掘はいいの?」

「そもそも、魔石はそうそう採れるもんじゃねえ。1週間くらいなら問題はない」


 じゃあ、先日卸したあの大量の魔石はどうやって採ったの? 


「先日、大量に卸していたじゃない」

「多少、無理しただけだ。気にすんな」


 あの雪山で無理をしたって言った? 

 恐ろしすぎるよ。私が絵で稼いで、スノウを楽させてあげよう。だって、スノウがケガでもしたら気が気じゃないないよ。


***


「スノウ、何をやっているの?」


 沢山の木のツルを前にしてスノウが何かを作っていた。


「木の籠を編んでいるんだよ」

「すごい! それってお金になるの?」


 スノウは木の籠を器用に編んでいた。相当慣れた手付きだ。どんどん編み上がっていく。


「全然。子供でも出来ることだから、小遣い稼ぎくらいにしかならねえ」


 私には考えられない話だ。日本で子供を働かさせたら捕まってしまうのに、こちらの世界では働くことが当たり前なんだ。


 う〜ん。生産品で何か稼げるのはないかな〜。スノウは魔石を採掘してたなあ。魔石でアクセサリーでも作れば儲かるかも。


 魔石店には魔石を紐に括り付けたアクセサリーしか売っていなかったよね。地球のアクセサリーのようなものが作れたら、売れるんじゃないかな? 


 早く絵を描き終わってスノウの副業について考えてあげよう。この先、魔石採掘だけじゃやっていけないよね……。


***


 休憩時間。私は早速聞いてみた。


「銀を加工する技術はないかって?」

「うん。魔法でなんとか出来ないかなって」


 シルバーアクセサリーを趣味で作ったことがあるから、シルバーアクセサリーならなんとかなりそうかも。


「まあ、金は多少かかるけれど出来るぞ。そんなことを聞いてどうするんだ?」

「そうなんだね! 教えてくれてありがとう」

「え? 陽菜?」


 絵を描き終わったら、スノウとシルバーアクセサリー作りをしよう。


 ナルキッソスさんの絵は順調に完成しつつある。今回の絵も、我ながら素晴らしいわ。喜んでもらえるといいな。


***


「籠が出来たから売ってくるよ」


 スノウ、籠を4時間で4つも完成させたの!?

 街へ行くのか。また変な人に絡まれたりしていないか、心配になってきた。少しだけ様子を見に行こうかな。大丈夫だってわかったら帰るから、少しくらい良いよね。


「あら、スノウくん。街にいるなんて珍しいわね」

「はい。連れがここで絵の作業をしているので、しばらく街に滞在することにしたんですよ」

「そうなの? じゃあ、今度ご飯にでも行きましょうよ」


 心配して損した。楽しそうに話しちゃって。その人のことが好きなの? 

 なんか、見てて虚しくなってきちゃった。もう、帰ろうかな……。


「俺、好きな子が出来たので、ふたりきりはちょっと……」

「そうなの? ざんね〜ん。スノウくんは目の保養だったんだけどな」


 スノウ、好きな子いたの!? ショックなんだけれど……! 山小屋にいたとき、そんな話は1回もしたことがなかったじゃん。私、友達ですらなかったの?


 恋人は無理でも友達になれると思っていたのに……。なんだろう。しょっぱいな。ああ、涙が出ているんだ……。はあ、帰ろう……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ