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スイーツ巡りのぶらり道中  作者: das
遥けき夏の霜妖魔 ~カシューナッツのカッサータ~
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(5) 山の氷洞


準備を整えた関羽とユーリンは、西方の山———通称『西の山』を目指してフユッソ村を歩いている。


体力に優れる関羽が、故カルロ氏の遺品である氷採掘の道具一式を装備した。氷切削用の小型つるはしを背負い、革製の手袋を腰に下げ、氷長石で内側を覆った保冷用の氷箱を肩紐で吊るしている。老婆ロセから、信頼と共に委託された品である。関羽は誇らしげに大股で歩みを進めてフユッソ村を横断する。ユーリンは、何かと用件もなく声をかけてくる村の婦人衆を笑顔で(邪険に)追い払いながら、関羽の後ろに従った。


霜妖魔キタンは、今だけ別行動である。霜妖魔という種族は、ヒューマン族の文化圏においては、害獣と看做されている。フユッソ村の住民に混乱をきたさぬために、影魔法で姿を隠蔽しつつ移動しているの。関羽とユーリンとは、フユッソ村の西の入り口で合流する手はずであった。


「キタンさん、『影魔法』まで使えるんですか!? 姿見の隠蔽ということは、『影魔法:影渡り』ですね。屍霊術系統まで実用水準で修めておられるとは……」


ユーリンは霜妖魔キタンの芳醇な魔法の才に再びメロメロになりかけたが、そんな自身に対しても関羽の視線がちっとも冷たくならないことに拗ねて平常心を取り戻し、西の山の麓———フユッソ村の西方での再会をキタンと約して、ロセ宅を発ったのである。


関羽はそんなユーリンの微妙な(面倒くさい)心の機微にはまるで気づかず、ウキウキのピクニック気分であった。熟練のヨーコノート履修者である老婆ロセから直接『カッサータ』の手ほどきを受ける機会に恵まれたことで、あからさまに浮き足立って鼻歌混じりである。


しかし、元武人としての関羽の感性は、危難の察知する戦場の眼を曇らせることを許さなかった。高揚の一切を棄てた真剣な面持ちで、ユーリンに相談する。


「さて、西の山であるな。立ち入っても大丈夫であろうか?」


「んー……たぶんボクたちは平気。何かは起きるだろうけど、乗り切れるんじゃん? たぶんね。ボクたち以外はたぶん死ぬけど、ボクたちなら乗り切れる程度のトラブルてことだね。とはいえ、油断するときっと死ぬよ。さぁ、気張ってこー」


「そなたの直観、だんだん神仏じみてきて、不気味なんじゃが」


「過信しないでよね。ほんとなんとなくそう感じるだけなんだ。きっとコレが光神ルグスなんて気色悪いヤツのマナを吸ったせいだろうね。以前はそんなことなかったし」


ユーリンは服の上から、懐を指さした。その布地の裏には、ユーリンの()剣である『エーテル・ナイフ』が丁重に収蔵されている。


良縁あってユーリンの所有となっているエーテル・ナイフは、女神の涙と称されるほどに希少であるエーテル鉱石から鋳造された代物である。エーテル鉱石の性質として、さまざまなマナを吸収する仕様であった。しかしその詳細は究明されておらず、ユーリンとしても取り扱いを持て余している。


「ほんと、なんなの、このコ。胸に神話生物のっけてるようなものなんだけど」「とりあえず懐に刃物を収めるのは危険が伴う。腰に下げろ。無理ならせめて、背中に」「ボクだってそうしたいけどさ、なんか拗ねるんだよね、そうすると。……やっぱいつでもボクを刺し殺せる位置に居たいんじゃない? たぶんね」「武具の心境まで看取できるとは……そなた、もうソレとは離れられんぞ、一心同体である故にな」「うそぉ!? ……いや、(いや)じゃないけどね……いやいや、(いや)なわけじゃないけどね」とは、少し以前の2人の会話であった。


ユーリンはこの頃、(とみ)に目覚ましく成長する直観能力を、エーテル・ナイフを経由した光神ルグスのマナによる呪い(恩寵)であると認識していた。

しかし関羽の見解は異なる。関羽は、ユーリンの運命を感じ取る聴覚を、ユーリン自身の天性の才の顕現であると評価していた。


「もはや明確に天命である。すぐにとは言わぬが、いずれ受け入れることだな、そなたはいずれ人を率いて大地に(のぞ)み、天下を(のぞ)むことになるだろう」


「いきなり重い話はやめてよさ。……ウンチョーてば、『天』て言葉が好きだよね」


「儂の故郷の風習である。天———歴史の流れを司る、ヒトの及ばぬ領分とでも言おうか。こちらの世界に置き換えるなら、『神』であろうな。神意というやつか」


「『だからこそまさにそれゆえ』ボクは嫌なんだけどね。あんな創るだけ造ってやりたい放題の無責任な外道どもの意なんぞ、見たくも嗅ぎたくもない。んなモンをケツの穴に入れるなんざまっぴらごめんさ……ったく、なんでこんな仕様の世界を作ったんだよ、ていうか神々の喧嘩で被造物(ボクたち)を巻き込むなよ、ほんとクソの極みだ、いやだ、いやだ」


「……いまはまだ、それでよかろうて」


関羽には、ユーリンのような未来を見通す直観能力はない。せいぜいが戦場において鍔競り合う槍の軌道や矢玉の流れ、敵味方の軍勢の動向を予見するのが限界である。しかし遠い未来の在り様について、とある確信を抱くことはできた。


———まさにそなたの抱いている、その()に対する嘆きを束ねて多くの生命の先陣に立つのが、そなたの定めである


関羽が死後に若き肉体を得てこの世界(創造界)に転生してから今日までにおいて、ユーリンの傍らにあって、揺るがぬ確信と至ったのが、その予感である。それをユーリンに無理強いすることはしないが、それを実現するまでユーリンを支えることを、関羽はひそかに決意しているのである。その結果として、関羽の望むスイーツ食べ放題の世が実現できるであろうという見通しであった。


———趣味と実益よな。このくらいの道楽は許せ。儂、前世はだいぶ頑張ったし……


関羽は自分を納得させる釈明を考案して、満足した。


一方のユーリンは不満げである。


「ハンパな能力を過信して穴におちて『そのままサヨナラ、髑髏な末路』てのは、よくあるパターンなんじゃん? ボク、未来に発掘される予定はないからね!? 自分を水神ダナリンの生まれかわりと信じこんでインスマスの漁港の船着き場に貝殻と牛の尻尾の塔を建てて籠城した挙句に嵐の夜に歌いながら失踪してルシュイアープで猪の糞捨て場で救助された秩序の聴聞司祭ポンテヴェキオの話とか、してみる? 興味ある?」


「その哀れな何某はさておきとして、そなたは半端ということもないと思うが」


「ハンパだって! ……だってほら……例えば、あの人があそこで待ち構えている理由とか、ボクにはまったくわからないし」


ユーリンは、進路の遠方を指さした。

フユッソ村の西の入り口において、1人の男が立っていた。

それは関羽にとっても、ユーリンにとっても、とりあえずの見覚えのある男であった。


「はて。儂らにいかなる用向きかな?」


「たまたまアソコに立つのが日課とかなんじゃん? アソコの空気がいちだんと美味しいとか? ……興味ないけど。もしかして。なくはないかな。たぶん無いだろうけど」




ユーリンは、とりあえずの挨拶を、とりあえずの見覚えのある男に向けた。


「やぁ、セルヒオさん。良い朝ですね。日課の立哨のお勤めですよね。さぞかしご苦労様です」


「おまえら、ロセさんと何を話した? どうせ余計なことを言ったんだろう?」


「まさか、そんな。……実はボクたち、森の中でカシューナッツという果実の種を収穫しまして、これがロセさんが料理に用いる希少な食材と耳にしました。なので、そのご報告に伺ったのです。今後のお役に立てば幸いと思いますが……?」


「ふん、どうだかな。……その装備はカルロさんのものだろう? いったいどういうつもりだ? ……まさか! 『西の山』の氷洞に向かうつもりじゃないだろうな?」


セルヒオが、カルロの遺品を身にまとう関羽の姿をみて、疑り深げに言った。


関羽がユーリンを押しのけて前に出て、代わってセルヒオに応える。


「如何にも。……して?」


「そんな勝手が許されると思うか? あそこは、おまえら部外者は立ち入り禁止だ!」


「はて。そのような規律は―――モゴッ、もご……」


ユーリンが関羽の口に手を当てて、制した。くんずほぐれつな組み合いが演じられたが、絶対的な腕力に勝る関羽がユーリンの負傷を恐れて逆に萎縮し、場をユーリンに返す。


関羽に代わって再度前に出たユーリンは、表面的には友好的な笑顔をたたえながら、セルヒオの言を認めた。


「……仰せのとおりで。村の近隣の産物は、村の人々の管理下にあるのが当然ですね。では、西の山の氷採掘について、村長さんに事情を伝えて許諾をいただいて参りますので、ボクたちはコレで失礼します。……さぁ、ウンチョー、まずは村長さんを訪ねよう」


しかし筋道の通ったユーリンの゙返答を、セルヒオは受け入れなかった。


「ダメだ! おまえたちはすぐに村から出ていけ! ……余計なことをするな」


セルヒオは、腰に下げた剣を抜いて構える。白刃が陽光の下できらめいた。


ユーリンは内心で『アチャー』と嘆いた。その声にしっかり応えたのが、つい先刻、非暴力主義を唱えた関羽である。


関羽は猛禽類のごとき獰猛な笑みを浮かべて、ユーリンを静かに押しのけて前に立った。ユーリンは内心で『アッチャーッ!!』と激しく嘆いた。


関羽は素手のまま、セルヒオの構えた剣を眼圧で砕き折るような気迫を放った。


「ほう。儂の前に、剣を携えて立つか。その意味をわかっていような?」


「———ッ! い、いイ、いまさらビビると思うかッ!?」


ビビリ入った声の震えを根性で押しとどめようとしてそれが無残に決壊したようなすっかりビビリ入った声で、セルヒオは関羽に吠え返した。


セルヒオは後退りをしたが、その場に踏みとどまる。

その様子を見て、ユーリンはセルヒオの評価をごく僅かに上げた。


(へぇ? ウンチョーのアレを食らって漏らさないなんて、案外いい根性してんじゃん? でも、てか、やめて。お願いします。やめて。マジ無益……マジのバカ……?)


ユーリンは、関羽の武威に直面したセルヒオが失禁していない点を評価したが、セルヒオの判断力を愚かしく思った。関羽がその気になれば、たとえセルヒオがミスリル製の大斧を構えたとしても、勝負にすらならない。それはセルヒオも痛感しているはずである。それにも関わらず、自ら進んで死地に飛び入るかのようなセルヒオの蛮勇ぶりを、ユーリンは呪わしく感じたのである。


ユーリンは悲鳴をあげる。


「やめましょうよ。ボクたちが村長さんから許可をもらえば済む話です。ウンチョー、ダメ。セルヒオさんも、剣を収めてください、物騒です。ボクたちは節義に反する意図はありません、ほんとほんと。ロセさんから依頼を受けて、今日だけカルロさんの務めを代行するだけです。そのまま村長さんに事情をお伝えしてきますんで……。ほら、やめ、やめ」


「親父がどう言おうとも、ここは『通行止め』だ! おとなしくさっさと村から出てい———ッ!?」


関羽の岩石のような右拳が、あたかも虎牢関を攻めたてる衝車のような勢いでセルヒオの頬を打ち抜いた。

気概だけは勇ましくとも凡庸な体躯のセルヒオは関羽の一撃で身体を吹き飛ばされたが、幸いにして首と胴はまだつながっていた。呼吸も潰えていない。意識も残っており、手指をピクピクと艶めかしく動かしている。


ユーリンは手で頭を抱えた。

関羽は、なぜか自分の仕業に驚いたようような顔をしている。


影魔法で姿をくらましていた霜妖魔キタンがその場に顕現し、呆然とする2人に合流した。待ち合わせ場所である村の西口にすでに到着していたが、その場にセルヒオの姿があったため、姿を消したまま様子をうかがっていたのである。


「キケー?」


事態の後始末を憂慮するように、関羽とユーリンに声をかけた。


「あ、ああ、キタンさん。どうも。お恥ずかしいところを」


ユーリンは霜妖魔キタンに崩れた微笑を返す。

そして、荒々しい足取りで関羽に迫った。

やっちゃった、という表情の関羽を、ユーリンは叱りつける。


「ウワァッチャー……ウンチョー!? キミってば何をしでかしてくれとんじゃい!? このバカを痙攣させて何のポジティブ効果を期待しとるんじゃい!? いつもいつも申し開きをするボクの身にもなれってんじゃい! 疲れんだじゃい!?」


「すまぬ、『通行止め』と言われたので、つい……」


「そんなツイがあってたまるー!?」


「どうも儂、関所みたいに進路を遮られると、つい強行突破したくなる性分でな。すまぬ、すまぬ。前世ではそんなことなかったんじゃが……」


セルヒオの頬を打ち抜いた自分の拳を、関羽は仰天の様相で見下ろした。拳は軽い握りのままであり、関羽としては相当な手加減のあったことがわかる。


関羽は拳を他人のモノのように眺めた後、拳を硬く締めた。こつん、と自らの頭を打つ。安易な罰として自らを打擲したのである。


「すまぬ」


テヘペロのペロ抜きである。


ユーリンはその場に膝から崩れ落ちた。地面の土をつかみ、わなわなと肩を震わせる。


ゆっくりと顔をあげて関羽をみた。


「ちくしょう! かわいいッ! ……んじゃ、仕方ないね! ……ねぇ、ウンチョー、いまのもっかいやって? 」


「キキケケッッ!?」


霜妖魔キタンは「大丈夫か、こいつら」と言ったが、それはヒューマン族には理解できない言葉であった。


ユーリンの請願に驚いた関羽は、己の拳と、地に横たわるセルヒオを見た。そしてら厳かにユーリンに言う。


「再び打ち据えたら、セルヒオは死ぬぞ」


「そっちじゃないよ? ボクにそういう変な趣味はないし」


「キキケケッッ!?」


キタンは「大丈夫か、こいつら」と言ったが、それはヒューマン族には理解できない言葉であった。


幸いにして、キタンの憂慮は関羽とユーリンには届かなかった。

ユーリンは、いとも自然体のまま、昏倒するセルヒオを眺めて善後策を思案する。

関羽は黙っている。自身の知恵がユーリンの判断力には及ばないことを知っているためである。


「よし、このまま西の山に登ろう」


ユーリンは、セルヒオを捨て置くことを決断した。さすがの関羽も戸惑いを禁じ得ない。


「……っ! よいのか!? 手当なり、村長への連絡なりと、その、人として、したほうが良いことがありそうだが」


「いんや、このまま……もとい、村の人に見つからないようにこの人を移動させて隠して、そしてそのまま誰にも何も言わずにおこう。たぶん死なないだろうし、却ってそれがボクたちのベストだ」


「そなたの判断を疑う理由はないが、理由を聞いてもよいか?」


「もちろんさ!…… と、その前に確認しておきたいことが……」


ユーリンは、霜妖魔キタンに尋ねた。


「カルロさんを手にかけたのは、コイツですか?」


「なっ!?」


関羽の驚愕がこぼれ、場に緊張が漲った。


「はばかりは、不要です。真実に照らされた太陽魔法を用いずとも、ボクたちはアナタの言をすべて信じます」


ユーリンの空色の瞳に光が差した。人心における如何なる違和感をも見逃すまいという洞察の専心によるものである。


雰囲気に気圧された霜妖魔キタンの゙身が、固くなる。ユーリンよりも小柄な体躯であるが、魔法の゙練度においては、キタンがユーリンを遥かに凌駕しており、個としての強弱は明白である。しかし、ユーリンの放つ威圧感は、関羽の純粋武力やキタンの魔法の才とはまったく別系統の不可思議な(ちから)を示すものであった。


「……どうか、ボクに教えてください」


まるで至天の座を戴く王侯が、膝をつく臣下の忠誠の誓いの手を受けとるかのように、ユーリンは身をかがめて霜妖魔キタンと目線を合わせた。キタンが微かな身じろぎとともに、関羽に救いを求めるような目を向ける。


関羽はそれに頷いて応えた。キタンを安堵させるためである。キタンは平静を取り戻し、首を横に振った。


「キキー」


「やはり、違うのですね。……よかった。セルヒオの態度から、そうではないと感じていましたが、確証が欲しかった。ありがとうございます」


そして、笑顔で続けた。


「んじゃ、放っておこう。コイツは誰にも告げ口はしないよ、たぶんね。よし、ウンチョー、セルヒオをそこら辺に隠してくれる? そこの肥溜めの中に沈めるか、向こうの木立の裏か、どっちか! 好きな方を選んでね。歩きながら解説するよ」


関羽はセルヒオの致死を避けるため、肥溜めに沈める案ではなく、道の脇の木立の裏に隠す案を選び、セルヒオを片手でつまみあげて移動させた。


「ウンチョー、やっさしー。惚れなおしちゃう」


ユーリンは関羽を無意味に茶化すようなことを言ったが、関羽は笑わない。


「説明せい」


「ん。少し村から離れてからね。しばし、しばし歩こう。大声が、村の人に届かないくらいの距離までは」




しばらく、3人は山道を登った。暑い太陽を浴びて緑色に輝く木々が一面を覆っている。人や羊が踏みしめた道が思いのほか広く伸びており、足取りは快適であった。

フユッソ村が遠くになった頃、関羽が待ちかねたようにユーリンに催促した。


「ここらでよかろうと思うが」


「ん。カルロさん死の、少なくとも直接の下手人はこの村の中にはいない。影魔法の使えるキタンさんの知る限りにおいて、ね。……ですよね」


「……? キケッ」


唐突な話題の切り出しに戸惑いながらも、キタンはユーリンの見解を肯定した。


「影魔法で姿を隠せるキタンさんが、この村を調査しなかったはずがない。なのに、昨日の村娘たちの話ぶりだと、カルロさん以後の不慮の死者はいなさそうだったからね」


「う、うむ? それが、セルヒオの処遇と、どうつながる?」


「ウンチョー、どうどう、落ち着いて。これは、前段だ。……つまり、キタンさんはカルロさんの死後、まずは仇討ちのために下手人をここらの人里で探した、けれど見つけられず、せめてものという想いでカッサータの樹を探して、ようやくそれを見つけたところでぴったりウンチョーと出会った。そう考えるのが自然……と思ったのですが、合ってます?」


「……キ、キケケェ」


キタンはユーリンの見解を、驚きとともに、肯定した。


「とすると、セルヒオの態度も納得がいく。……あれは何かロセさんに後ろ暗いものがあるね。そのくせカルロさんのことも、心底から悼んでいそうだった」


「ふーむ? そなたがそう()たのであれば間違いなかろうが、それで、どういう……」


「ん。つまり、ヤツはカルロさんの死の原因のひとつだ。けれども彼奴(きゃつ)にカルロさんを死なせるつもりは毛頭なかった。そしておそらく下手人の(なにがし)を知っている。たぶんね」


「……戻るぞ。セルヒオめを叩き起こして、事情を明らかにさせるのだ!」


「キケッ!!」


関羽とキタンは、すぐに村に戻ってセルヒオを締め上げることで合意した。

それをユーリンがたしなめる。


「それも妄想したけどさ、たぶん、白状しないよ。愚かにもキミを剣で止めようとしたくらいだからね。もう後に退けない()()()()()()()()ね。そしておそらくボクたちが氷洞にいけば、それが白日の下になるんだろう。そう考えると、あの馬鹿の行動も一応、説明がつく。だから目覚めてもキミに殴られたことは、おおっぴらにはしないんじゃないかな。それに人を呼んでヤツの介抱を優先してボクらが氷洞に行けない雰囲気になったら、結局ヤツの思惑通りになっちゃうからね。隠して放置してボクらは先行するのがベストだ」


ユーリンの見通しを聞いて、関羽は同意した。


しかし、キタンは納得しない。カルロの死の要因が、おそらくセルヒオにもあるというユーリンの仮説を耳にして、泣き喚かんばかりの形相である。


霜妖魔の言語を大声で発し、あくまで沈着な態度のユーリンを責めたてる。ユーリンは霜妖魔の言葉を理解できないが、その意味は痛いほど理解できた。けれども、それでもユーリンは自身の主張を曲げない。


「キタンさん、どうか、落ち着いて。カルロさんの死の現場も、氷洞に近い場所だったんでしょう? なれば、先に氷洞に行ってしまうほうが確実です。アレを締めるのは、後でいい。……ボク、わりと尋問とか得意なんですけど、せいぜい相手がウソついているか、いないかを見分ける程度が限界なんで、真相究明のためには答えの破片を先に拾っておきたいんですよ」


それでもキタンは、承服しない。カルロの死に関わった疑いのあるセルヒオが、今も健在(昏倒中)であることが許せないという態度である。


ユーリンが、乏しいマナを体内で練って『精神魔法:鎮静』を紡ぎかけたとき、意を決した関羽が、キタンに声をかけた。


「キタン殿、ここはユーリンに従おう」


キタンの動きがぴたりととまり、関羽の言葉に耳を傾ける。関羽は、キタンの信頼をつかんで離さない精悍な眼をどっしりと構えて、まっすぐにキタンに言った。


「セルヒオめを捕らえても、容易には口を割るまいというのは、儂も同感である。あの非力な若僧に切羽詰まらせる何かがあるのだろう。それに、セルヒオは儂らが氷洞に行くことを明白に嫌っておった。なれば、彼奴(きゃつ)の゙嫌がることを、まずは完遂してやろうではないか。『敵の嫌がることを徹底する』―――それが戦の常道である故に」


「……ッ! キケッ!」


「往きましょうぞ。儂らの目的が、2つともソコにあるのです。歩みを止めてはなりませぬ」


キタンはすっかり落ち着きを取り戻した。

ユーリンに向き直り、謝罪するように頭を下げた。


「キケケケ、ケケー」


「もちろんです、ボクも必ずカルロさんの仇討ちに協力します。いやいや、セルヒオが嫌いてわけじゃないですけどね。正直言って、ボクもカルロさんとロセさんが、好きなんですよ。あと、正直言うと、やっぱりセルヒオは嫌いでした。この際、隠しません」


「はじめから隠せてなかったように思うが」


関羽の要らぬ横槍が入った。ユーリンが、叫ぶ。


「ウンチョー! そこに立って! 膝、少し曲げて! 腰、下げて!」


ユーリンの回し蹴りが屹立する関羽の゙背中を直撃し、その衝撃で、蹴った側のユーリンが涙目になった。


「いったぁ……ウンチョー、ひどい……」


「蹴られたの、儂じゃが!?」


「ん? キミ、痛いの?」


「痛くはないが」


「それじゃ遠慮なく! ……いったぁ……ほんと、ウンチョー、ひどい……」


「さすがに承服しかねる」


関羽の正統な主張がまったく耳に入らぬように、美麗な顔を苦痛にゆがませたまま、ユーリンはついでとばかりに不満を吐き捨てる。


「ったく、ボクの『精神魔法:鎮静』は出番なしか。そりゃ無用なのがベストとはいえ、せっかく今日は調子が良さそうだったからさ、多少はスネるよ」


「何を申すか。儂より遥かに卓越したそなたがいればこそ、儂が未熟なりに口を挟めるのだ。そなたの申す通り、3人で氷洞を目指そうぞ」


関羽は、ユーリンの頭を撫でて、称賛をまじえて励ました。ユーリンの銀色の髪の中に、わしゃわしゃと大きな手を沈める。


現在の肉体年齢や精神の成熟度はともかく、前世から数えた人生年齢において、関羽からみてユーリンは孫のような歳であり、孫のような存在でもある。

ユーリンを愛でて撫でて功績を称賛すること自体が、関羽にとっては、もはやひとつの道楽にひとしいのである。


一方のユーリンにとっては、自分よりいくらか年長な程度でさほど齢の差のない、憧憬し目標とするに足る剛勇と忠節を誇る神話の英傑の如き青年から、忌憚のない称賛を浴びせられた格好である。


たまらず頬に朱を差して、うつむいてしまった。もごもごと何かを言って、照れを隠す。頭部を撫でる関羽の大きな掌を堪能した後、


「うー、またキミは雑にそういうことする、もちょっと人目とかムードとかさぁ、キミはさぁ、ほんとほんと、日の明るいうちから、まったくまったく、バーカ、バーカ」


顔を赤く染めたまま、ユーリンは関羽を睨みつけた。


「うー……、ウンチョー!」


「うん?」


「いやらしいこと、やめて!!」


「な!? なんでじゃ!?」


関羽は、大慌てでユーリンの頭から手を離して直立不動した。


ユーリンはますます心底から激怒してむくれたが、それを表にはしなかったつもりであった。


「キキキケッッ……?」


霜妖魔キタンは「大丈夫か、こいつら」と言ったが、それはヒューマン族には理解できない言葉であった。




フユッソ村の三方を囲う山のうち、通称『西の山』の中腹に件の氷洞がある。


先頭を走る霜妖魔キタンの後をユーリンが軽快に歩み、その後ろを関羽が大股で足をゆっくりと進める。3人の様相は異なるが、足並みはそろっていた。


「だいじょうぶ? 重くないかい? ボクは余裕あるよ」


「儂の荷を背負おうとは……大きく出たな、ユーリンよ。余裕である、心配無用」


故カルロ氏の遺品である氷採掘道具を抱えながら、関羽は考えた。


(なるほど、これは難事であるな。保冷箱とツルハシだけでもかさばるというのに、帰路にはこれに採掘した氷の重量が加わる。儂には容易くとも、老境のカルロ氏にはさぞ難事であったことだろう)


晩年のカルロが霜妖魔キタンの助力を得ながら氷採掘を続けていたことを思い出し、カルロがキタンという友人に恵まれた幸運を祝った。そして、同時に湧き上がる疑問もある。


(わからぬ。ヨーコ殿は、如何なる動機で、カッサータの製法を麓のフユッソ村に限定して伝えたのだ? こうも氷の入手に苦労するようでは、スイーツを愉しむ余裕が薄れるばかりではないか。他の地でも作製できるように『法魔法』とやらの規律を緩めてもよさそうなものだが)


遥か古の神代(しんだい)の聖女陽子は、豊穣の神アマサオンから授かった膨大なマナを活用し、自身の伝授するスイーツのレシピについて、後世まで残るさまざまな『法魔法』の制約を設けた。『法魔法:使途塞縛(しとそくばく)』は、知り得た情報の用法をこの世界において永久に制限する大魔法であり、『カッサータ』はその影響のため、フユッソ村のみで作製が許される。聖女陽子は、スイーツの製作の不自由を後世にまで定めたのである。


(あえて材料の調達に難儀させようという、悪意すら感じられる。これは儂の不明によるものなのか? 無論そうであると信じるが、いずれにせよ聖女殿の意図がわからぬ)


関羽がひとりで考えるうち、一行の先頭を歩く霜妖魔キタンの足が止まった。そこには、洞穴があった。


岩で覆われた山肌をうがつ、空疎な穴である。

いたって平凡な外観であり、あえてキタンがそこで歩みをとめなければ、見過ごしていたかもしれない。


しかし、関羽とユーリンはその穴の近くに寄ると、すぐにそこが超常の地であることを、理解した。


洞穴の中から、暑い日差しには似つかわしくない、異様な冷気が吹き付けたのである。太陽が容赦なく大地を暖めるこの気候において、その日差しのもとで、関羽とユーリンは寒さに身を震わされた。


ユーリンがその洞穴を覗き込み、興味深げに目を輝かせる。


「ここだね。むしろココじゃなきゃ驚きだけど、無難にココだよね」


「キケッ」


ここまでの案内を務めたキタンが、どこか誇らしげに頷いた。

関羽は火照った身体に洞穴から吹き出る冷気をあてて、心地よさを覚えた。


「冷えるな。どういう理屈なのだ? 斯様な暑き季節においてさえこの冷気とは」


「さっむいね……信じがたさ満点だ。カラクリのわからなさが甚だしいね」


「いかにそなたといえども見当もつかぬか。まぁ、知恵の泉にも限りがあろうな」


「む。言ってくれるね、仮説を立証するスベがないだけさ! ボクの絢爛(けんらん)たる当て推量を御覧じろ。……本命、大地の女神キルモフのイタズラで冷気の貯まる大空洞が地下にある、冷えた空気を冬の間にたっぷり溜め込んで、それが地脈を伝って(こご)やかしい暑い夏到来。対抗馬、霜妖魔の生来の氷マナでカッチカチ。氷が氷を呼ぶ辛抱たまらん騒乱状態。大穴、冬神ムルカルンの聖遺物が眠ってる。つまりは、おありがたい権能の残りっ屁が充満してる……こんなところさ。 ……見直した? よね? ……惚れなおしてもいいよ、ボクは何度でも初めからを愉しめるタチなんだ。たまには昔みたいな恋人気分もいいんじゃん?」


若干の歴史改竄を加えつつ、ユーリンは気ままに仮説を並べた。


「……中庸を良しとするならば、本命と対抗馬の両輪といったところか。もとより冷気の溜まる構造の地勢に霜妖魔が住み着いたことで、いっそうの寒さが定着したのであろうな」


「ウンチョー、たぶんそれ正解。よくできました! ご褒美に氷を溶かすような熱い夫婦(めおと)のキスを……」


「断る。……すまぬ、キタン殿、見苦しきところをお見せした」


「見苦しい、てなにさ! 泣くよ! ……ったく、硬すぎるのも具合がよろしくない、て知ってる? 折れないばかりが強さじゃないからね。中庸が大切だよ?」


関羽はユーリンを相手せず、霜妖魔キタンに依頼する。


「……ではキタン殿、この先の案内(あない)を委ねたい。カルロ氏が氷を採掘していたところまで進みたい」


「キケッ、キー」


キタンは当然のごとく勝手知ったる足取りで、氷洞に身を進めた。


関羽の素っ気ない調子にユーリンは形式的にむくれて、不満を示した。


「ウンチョーては、キタンさんの前だからて、照れなくても。いつウンチョーの心が変わっても良いように、コツコツとピロートーク(事後の会話)の練習もしておこうよ」


「単に閉口しておるのだ。まったくそなたのその露悪癖だけは収まりがつかぬな」


「キミの締まりの良さは知ってるけどさぁ、締めすぎは考えものだよ。もっと力を抜いて生きなよ、大事なものが()れられなくな———」


訳知りのしたり顔のユーリンをぐいと引き寄せて、関羽は鋭く耳打ちした。


(ユーリンよ、何を予感しておる?)


(え? ナンノコト?)


関羽は、キタンの耳に届かぬように声を落とした。ユーリンは即座に応じつつも、はぐらかす。


関羽の顔が、軍神のものになる。さしものユーリンも、背筋を伸ばした。


(そなたがそこまで執拗な露悪に走るときは、何か緊張が高じておる証左だ。何が起こる? いや、何を()()つもりだ?)


(ふふん、絆を感じるね。ご明察のとおりさ。だけど無茶はしないからさ! どう? 安心した?)


(なんも、じゃが)


(……じらすねぇ)


(逆じゃろ!? 白状せんか。何を目論んでおる? ……改めて言うまでもないが、どのような道でも儂は拒まぬ。だが備えは欠かせぬ。故にそなたの考えを申せ。儂がそなたの道を拓いてみせよう)


(うふふん! 愛を感じるね! でもだからこそさ。……これはボクが拓かなきゃいけない道なんだ。だからウンチョーは何もしないでもらいたい。頼むよ)


(ぬぅ。そなたに頼まれれば、儂は断れぬ。承諾はすることになるだろうが、納得したわけではないぞ。必ず説明はしてもらう)


関羽が言い切ると同時に、氷洞の中からキタンの「キケー?」という声が響いた。足音が後に続かぬことを疑問にしている。


「さ。ボクらも続こうか、ウンチョー。どれだけお口が狭くたって、ボクはこの身を()れるよ。キミも同じだろう? ……キタンさーん、いまいきますねー!」


ユーリンは何事もなかったかのうように、何事もしないかのような様子で、氷洞に入った。


軍神モードの関羽はため息をつきつつも、迷いのない足でユーリンに続いた。





氷洞の゙入り口をくぐると、緩やかな下り坂であった。つややかな岩肌が起伏を成している。その突起を足場として、関羽とユーリンは慎重に足を進める。


足元が徐々に薄暗くなり、先頭を歩む霜妖魔キタンの゙姿が朧になってきた。


いっそうの冷気が身を打ち据える。

しかしユーリンは、冷気ではないものの気配を感じ取っていた。


「うん、すごいマナの密度だ。尋常じゃない。しかも奥に進むほどに強くなってるね。もしかして、霜妖魔は全員魔法が使えるのですか?」


「キケッ」


霜妖魔キタンが、ユーリンの疑問を肯定した。


実際のところ、魔法による戦闘力を有するまでに至る霜妖魔は多くはないのであろう。霜妖魔は、ヒューマン族が害獣として駆除可能な種族である。それこそ、氷の眷族である霜妖魔とは致命的に相性の悪い太陽魔法を行使できるまでの魔道の高みに至るキタンのような個体は、希少であるはずである。


「そっか……羨ましいな」


拗ねるようなユーリンの態度に、霜妖魔キタンは「キー?」と鳴いて疑問を向ける。

最後尾にある関羽が、ユーリンに言った。


「魔法なれば、そなたも扱えるではないか」


「ボクのは紛いものだよ。せいぜいが基礎の四大元素の初級魔法までさ……正直なところ、それすらたまにおぼつかない。たまたま適性があるらしい精神魔法はまだマシなんだけど……生まれ持った自活マナ……魔法の力……筋肉みたいなものが、ほとんど無いんだよ。前に言わなかったっけ?」


「そういえば、以前にもそうこぼしておったな」


「……あんまり再確認はしたくない話題だな」


「すまぬ。たが儂の知るそなたは、いつも上手く魔法を使っておる。強大なものではないのであろうが、己を知るが故の巧みさがある。儂はいつも感服しながら眺めておるのだ……そなたの深奥に触れた言い訳にはならぬのであろうが、そなたがあまり卑屈になるものでもないと思うが……」


「……うん……ありがと……だけとこの話はおしまいでいいよね」


「……承知した」


関羽はユーリンの言を受け入れた。その類の悩みを抱いたことのない関羽が、ユーリンの琴線に触れてはならないと判断したためである。


関羽には、己の武を自在にする筋骨がある。それは融通無碍の武力を行使する、生まれ持った(ちから)の源泉であった。

ユーリンには、それがない。肉体的にも、魔法の゙素養としても、ユーリンには、(ちから)に結びつく基盤となる才能が、生来より欠けている。それはユーリンがさほど長くはないこれまでの生涯において、血の滲む鍛錬を経て、狂おしく希求し、ついぞ手にできなかったものである。神の寵愛を授かった怨敵を屠るに足る武力を求め、狂乱し、身を削り続けたユーリンのさして長くもない半生の結論の亡骸こそが、今のユーリンの侘しい諦念なのであった。


「ごめんなさい、話をそらしてしまった。……ここの洞窟の奥に、カルロさんが氷を採っていた場所があるんだですね。そして、さらに奥まで進むと、霜妖魔の王国がある、と。その理解でよいです?」


「キケッ」


「よし。いきましょ。ワクワクが止まらない」


関羽がユーリンの明るい声に気分を良くして、言った。


「ユーリン、そなた、楽しんでおるな?」


「むろん! 滅多に見れるもんじゃないもん! 氷洞なんで、この創造界(エレバス)でだいぶレアじゃん? 楽しみだなぁ。……と、足元がそろそろつらいので、『炎魔法』で灯りをつくりたいんですが、よろしいです?」


ユーリンが炎魔法の行使の許可をキタンに求めたのは、氷の眷族である霜妖魔の体調に形式的に配慮したものである。太陽の日差しの下で活動できるキタンの身体に害を与える恐れは少なく、ユーリンとしては当然、キタンから承諾の返事が得られるものと予期していた。


しかし、キタンは、薄暗い闇の中で、首を横に振った。


「……あれ?」


ユーリンの素っ頓狂の声があがるのと同時に、キタン得意げな顔が明るく照らされた。


狭い入り口から採れる太陽光が乏しくなり、視界が失われつつあったその瞬間、突如として、まばゆい輝きが一面を満たしたのである。


その光の正体を、関羽とユーリンは、感嘆の声とともに、すぐに理解することになる。


「見事」「すっご」


「キケッ」


薄暗い細道を抜けた先、光に満ちた空間が広がっていた。

霜妖魔キタンの背後には、まるで星辰の瞬きのような煌めきが散りばめられている。目を凝らして見つめてみれば、それは雪と氷の入り混じった大空洞であった。燦然と発光する氷壁が雪化粧をまとって、虹の息吹のような鮮やかな光を放っている。


見渡す限りの雪と氷の空間に、ユーリンが陶酔してつぶやく。


「ぜんぶ、氷? だよね? だよね?」


「キケッ」


「だよねー」


そこは、氷に覆われた広大な間であった。天井は高くはるか頭上にあり、白染められた四方の広がりが、まるで冬の空のように無窮を想わせる。林立する氷柱の群れが鋭い輝きを一面に散らし、広間を彩るオブジェになっていた。


「氷の゙マナが天然自然の氷に宿って、調和発光してるのか! 原資は霜妖魔の排泄した残留マナですね。その発光だけで、まさか、ここまで……」


太陽光の及ばぬ洞穴の奥地において眩く輝く氷の正体について魔術的な分析をしながら、ユーリンはつぶさに氷を鑑賞した。


魔術はからきしの関羽は、ただ即物的な感想を述べる。


「壮観にしても、程度があろう……眼福の限りであるな。この世のものとは思えぬ光景よ」


「これを目の当たりにしたことがあるってだけで、なんだか誇らしげな気持ちになれるね……と、あれは……」


広大な氷の広間を遥かかなたまで横断して、ユーリンは遠方に目を向け、ある一点を指し示した。

その先には、一面の゙氷壁を穿ったような裂け目があり、先に続く道がある。ただしその手前、裂け目の元に、粗末な木の柵が設えられている。遠目に見ても、ヒューマン族の腰程度までの高さしかない、蹴り倒せば崩れおちそうな柵である。


「あれは……境目をつくっているんだね。あの奥が霜妖魔の王国なのかな。魔術的な結界というわけではなく、ケジメとして、内と外をわけているんだね。察するに、あれをこしらえたのが霜妖魔なら、アソコを踏み越えない限りは、ここで氷を採掘しても霜妖魔の王国からは黙認されるってことかな」


「キケッ」


キタンは朗らかに肯定した。


その傍らで、関羽が険しい顔をしている。霜妖魔の王国との国境の安細工な柵を眺め、まるでそれが差し迫る脅威の根源であるかのように油断なく()めつけていた。


怪訝に思ったユーリンが尋ねる。


「ウンチョーどうしたの? 難しい顔して。好みでない(スケ)にうるわしいケツの穴でも狙われてる?」


「……戦場には、死地というものがある。必敗となる状況や地勢を総してそう呼ぶのであるが、あれはまさに死地であるな。尋常ではない……侵入を許さぬ気迫を感じるわい」


軍神モードの関羽が、粗末な木柵を眺めて論評した。


「キケ!? キキー……?」


「ウンチョー……視点が攻め込む側の将軍じゃないか。キタンさんの母国に失礼だろ」


ユーリンがたしなめると、関羽はキタンに向き直って謝罪する。


「不安を与えたのなら詫びるが、そういう意図はない。ただ感嘆しておった。陣容を見れば敵将の力量はわかるものだが、ただの棒きれからそれを感じ取ったのは初めてのことよ。あれを攻める愚かな将はおるまいて。さぞ力量ある武人があの地を墨守(ぼくしゅ)しておるな」


「お。自称軍神のお墨付きかい? キタンさんよかったね、霜妖魔の王国は安泰だよ」


「実際の武力はさておき、そこを守備する者がどういう意図であるかが肝要よ。あそこに敵として足を踏み入れるには、決死の覚悟を要する。よく護っておるな。将帥たるもの、こうでありたいものよ。備えを見せるだけで敵の戦意をくじくことができれば、それが最上である……っと、過言を申した。儂はもう将ではないのであった。ただのスイーツ道楽家よ」


「キー……キー……?」


キタンは募る不安を声音に滲ませた。

自身の言が不穏な気配を含んでいることにようやく気づいた関羽が、あわてて弁解を試みる。


「すまぬ、すまぬ。要はだな、おぬしの国の武人たちに見惚れておったのよ。儂も元武人ゆえにな、感ずるところがあったのだ。おぬしの国には、優れた武人が数多おるのだな。『絶対に戦いたくない』……これは武人が武人に向ける言葉としては、最大の賛辞である。いつか戦場で(まみ)えてみたいものよ……」


見かねたユーリンが、関羽の代理としてキタンに釈明する。


「キタンさん、ウンチョーはクチベタなバカなりにキタンさんの国を褒めたんだよ。ときどき攻め込もうとしちゃっているのは、可愛げの乏しいご愛嬌ということで、どうか聞き流してあげてほしい」


「儂、こと軍事に限っては一家言くらい許されとると思うんじゃが!? 仮にも軍神じゃぞ?」


関羽が『憤然(ふんぜん)しょげ』して、むくれた。

ユーリンは笑いながら聞き流す。


「『自称』ね。あいにくとこの創造界(エレバス)では、神の眷属どもはうじゃつくくらいはびこってるんだ、いずれ嫌でも会うよ」


「自称ではない……らしいんじゃがなぁ……儂の死後のことゆえあまり詳しく語れんのが辛い」


霜妖魔キタンは、落ち込む関羽の背を撫でようとして、手が届かず、結局は腰元を撫でて、関羽を励ました。




関羽は、ロセから依頼されたとおりに氷を採掘するため、あちこちの氷壁をつぶさに観察した。より品質の良い氷を収穫しようという野心によるものである。


「氷に品質の違いなんて、あるのかい?」


「何を申すか!? 明白であるぞ!」「キケッ!? キッキー!」


ユーリンの素朴な疑問に衝撃を受けたように、関羽とキタンが声を揃えた。


「スイーツは香りが肝要。不純物の混じった氷を調理場に持ち込めば、香りが損なわれる。……例えばだ、この氷塊と向こうの氷塊、まるで純度が違うであろう。とくと見よ。氷を成す内に混ざったのであろう、この氷塊には僅かに土の匂いが染みついておる。対して向こうの氷にはそれはないが、代わりに気泡が含まれていて、白濁りしている。見栄えがよろしくない。スイーツ創作においては、場の色調も重要ゆえな。……いやしかし、考えてみれば、あえて白濁した氷を使うこともあろうか。氷中に忍ばせた鮮やかな果実を、時間の経過で少しずつ姿をあらわにさせる演習なども面白いかもしれぬ。余興の場において重宝するやも……」


「そなんだ。信じる。よろしく」


スイーツ道楽家として創意工夫を講じ始めた関羽の勢いを前に、ユーリンは素早く撤退の゙判断を下した。語り足りない関羽としてはもの寂しそうな様子であるが、すぐに夢中になって氷の品定めに没頭する。


採掘用の氷を物色する関羽の背中を見守りながら、ユーリンはキタンに話しかけた。その表情は、真剣そのものである。


「ねぇ、キタンさん。霜妖魔の国について、教えてもらっていいかい? 統治の機構があるんだよね。どんな体制なの? やっぱ王政? どんな人?」


あふれ出る好奇心を隠そうともせず、食いつくように、逃さぬようにキタンに熱い眼差しを送る。

その灼熱の勢いにキタンは一瞬、ひるんだものの、自身の祖国を語る誇りを胸に抱いて、返答した。


「……キケッ! 『キョッコー』」


「教皇? いや、女王かな?」


「キケッ」


「そっか、霜妖魔の国は、女王が治めているんだね」


「キケッ」


「そうか、ありがとう。女王か。……どんな人なんだろ……きっと冬の神を信奉してるんだよね……やっぱり地上の生命を憎んでいるのかな……冬神ムルカルンを退けた聖帝カイロリンを恨んでいるかな……まだ『冬至』の儀式を研究してる? 興味深いな……種族としての悲願と現世の折り合いをどうつけるんだろう……勢力拡大を企図している雰囲気でもなさそうだし……ここまで冬を厭う地上生命が回復した現世において、遠大な目標を掲げたまま種を統率できるのかな……劣勢において外敵の脅威を喧伝することは常道としても、この場合の゙外敵て、イコール、世界じゃん? 成算はあるのかな、だとしたらそれはどこに……」


「キー……キケー?」


キタンの返答を受けて、ユーリンの中で、たちまち思索の天空が広がった。穏やかな微笑を浮かべたまま、心ここにあらずといった様子である。


関羽が気づいて振り返り、慣れた調子で診断した。


「いかん。すっかり耽っておる。こうなると、しばらくは戻ってこんわい。放っておこう、引き際を誤る者ではない」


「キー?」


ユーリンは独りの世界に、沈むように昇ったままである。


「もしもボクなら、もしもボクが自分の゙王国を持っていて、世界の構造そのものを敵にしたとしたら、どうする? ……抗うか? いや、違う気がする、王国の民を破滅の道連れにはできない、ここから霜妖魔たちが悲願成就に至る活路はあるか? いや、ない、不可能だ。崖に巣穴を作る燕が捨て身の体当たりで崖を穿つようなもんだ、聖帝の冬神への防壁は崩せない……ならばどうやって国の体裁を維持する? どこに求心力を見出す……? ボクなら……ボクならば……」


関羽は、そんなユーリンを気にもとめず、ツルハシで砕いた氷の破片を齧っている。


「これは……うまい」


関羽の顔に美食への閃きが走る。


「ただ口に含むだけで喜悦につながる。惜しむらくは硬さか。ほどよく切削してふんわりと盛れば、ただ果汁の風味をつけるだけでも一品のスイーツとして楽しめように……思うに、溶かすのではなく、口の中で溶けるのが肝要である。口当たりのみを追求した工夫も一考よな」


関羽は関羽で自分の世界に没入していた。


「キキキケッッ……?」


霜妖魔キタンは「大丈夫か、こいつら」と言ったが、それはヒューマン族には理解できない言葉であった。


雪と氷に覆われた氷洞の広間において、3人はそれぞれ違う世界を見ていた。


やがてユーリンが現実に帰ってきた。


「うーん、やっぱり女王に会いたい。謁見の許可が欲しい。殺されるかな。殺されそうだな。でもそうさせないくらいのことを成し遂げなきゃ、ボクは先に進めないかな。命の捨てどころかもしれないね。うん、よし……決めた! ……あれ? ウンチョー? おーい、ウンチョー?」


ユーリンは関羽の背中に声をかけたが、関羽は戻ってこない。口中の氷を噛みしめて、堪能している。


「キタン殿の林檎の氷菓子も、歯ごたえが絶妙であったな。噛めばほどけ、舌の上でとろける時間差がある。氷は硬すぎてはそのまま食すには向かぬが、なればこそ細工の余地があるというわけか。冷やすための道具としてのみ用いるのは狭量であるな。氷はそれ自体が食材としての可能性を秘めて―――うっ……ぐっ……キーンときた……なんだこれは、痛みはあるが心地よいっ……」


「戻ってこーい。キミの手元の氷については、ロセさんの『カッサータ』には十分な量じゃないかい? カルロさん愛用の氷箱から早くも溢れんばかりだよ」


ユーリンは身勝手にも関羽の身勝手に呆れながら、現状に即した見解を述べた。

氷長石で内側を舗装したカルロ氏の氷箱は保冷性が高く、山の麓のロセ宅まで氷を運搬できる見込みである。関羽が肩から吊るしたその氷箱は、関羽のお眼鏡に適った品質の氷塊で、すでに満ち足りていた。


ユーリンの呼びかけに、関羽が気づいた。


「うん? おお、ユーリンよ。そなたの思索は終わったたのか?」


「……言っておくけど、キミもたいがいだからね! それでもボクのほうは終わってるのさ、すぐに答えの出ることでもないしね、ボクの長い研究テーマだ。そういうキミはどうだい? 氷との心温まる交流は区切りがついたかな?」


「うむ。この場は引き上げといたそう。一朝一夕に解を成すことでもなし……儂の道である、いずれ納得のいく工夫に至ろうぞ」


関羽とユーリンが2人で顔を見合わせて自己満足する光景をみて、キタンは疲れたような表情をした。




氷洞から這い出た関羽とユーリンは、暖かい夏の陽気を堪能した。太陽の日差しが、あたり一面に恵みの光を降りそそいでいる。霜妖魔のキタンはあまり心地よくはなさそうであるが、とりあえずロセに課された使命の全うを喜んでいた。


関羽の装備である氷箱のうちには、ずっしりと新鮮な氷が満たされている。これをロセに届けてカッサータの作り方を学ばせてもらうことが、関羽とユーリンがフユッソ村を訪れた原初の目的である。その目的に向けての着実な成果を、関羽は肩にかかる重みから感じ取っていた。


ユーリンは天を見上げた。そこは、ユーリンの瞳と同じ色が、無限に広がっている。汚れなき澄み切った蒼である。雲が長く、自由にたなびいていた。


まるで空の流れを読むように、ユーリンはじっと空を見つめている。


「分かれ道だね。五分五分ってところかな。悪けりゃボクは死ぬ。……ウンチョー……とキタンさん、先に山を降りて欲しい。氷が溶けないうちに『カッサータ』を作っておいで」


ユーリンの発言に、キタンは困惑しきりである。

関羽は、ある程度この展開を予期していたようで、平静にユーリンに仔細を尋ねた。


「そなたはどうする?」


「ん。ボクひとりで行ってくるよ、霜妖魔の国へ」


「ユーリン、彼処(あそこ)から先は……」


―――死地である


関羽は神妙な顔つきで、言葉を区切った。

ユーリンは、すべて納得尽くという態度で、頷く。


「わかってる、つもり……だと思うんだけど、改めてキミに断言されると、やっぱ怖いね」


ユーリンの強気に影が差す。ユーリンは、関羽の危地における判断力に全幅の信頼を寄せていた。関羽がたびたび自称する前世の称号『軍神』というのも―――関羽にはそれと明かさないが、内心では『さもありなん』と認めている。その関羽が死地と断定するからには、霜妖魔の国を訪れることは、やはり危険なのであろう。


しかし関羽は、行くな、とは言わないのである。


「なれば儂も供を致そう」


関羽は、ユーリンの運命観に全幅の信頼を寄せている。そして、その器が天下に鳴り響くその時まで、ユーリンを支えて守護すること―――それが関羽が今生において自身に課した天命である。そのユーリンが危険を承知で霜妖魔の国を訪問するべきであると判断したのであれば、それは関羽の天命であると確信できた。


氷洞の入り口で、陽光の下、関羽とユーリンは互いに視線を交わした。多くは語らないが、2人の心意気は足並みを同じくしていると、互いに感じ取った。


それでもユーリンは首を横に振って、きっぱりと関羽の申し出に答えを示す。


「たしかにキミを伴えば、まず間違いなくボクは安全だろうね。……だけもそれはボクの力じゃない。キミの(ちから)ということになってしまう。……それにキミを連れていったら侵略と同じだよ。意図がなくても、それを可能にする能力があるからね」


関羽を信頼しているが故に、ユーリンは関羽の同伴を拒絶した。


「ボクは、ボクの(ちから)だけで、霜妖魔の女王に会いたい。ボクはボクを試したいんだ」


霜妖魔キタンが、明確に反対を示した。震える声で、ユーリンを制止する。


「キー! キー!」


「反対ですよね。ありがとうございます。でも、ボクは往きます」


「……キケッ」


ならば、という顔で霜妖魔キタンがユーリンに同行の意志を伝えた。


「いえ、キタンさんも来ないほうがよいでしょう」


ユーリンはキタンの申し出を拒絶した。

さしもの関羽も口を挟む。


「……キタン殿は伴ったほうがよいと思うが」


「んーボクが殺されちゃった場合、アテンドしたキタンさんも立場がヤバいじゃん? そこまでのご迷惑はおかけしたくないな。ボクはただの個人として霜妖魔の国を見てみたいんだ。キタンさんのことは尊敬しているけど、この際それとこれとは関係がない。尊敬しているからこそ、巻き込みたくないとも言えるけど、要はボクのワガママを通したい」


温かな日差しを浴びて、ユーリンの流麗な銀髪がきらめいた。

決意を秘めた顔である。

関羽は、ユーリンの成長の兆しを予感した。関羽にとって、ユーリンは孫のような存在である。すでに一度、()()を終えた自身よりも大切な、価値あるまばゆき至宝であった。


そのユーリンが自らの意志で、自らの旅路を示したことに、関羽は打ち震えるような感激を覚えたが、それを表にはしなかった。虎の仔が千仭の峡谷に自らの身を投げる決意を止める発想は、関羽にはない。ただ厳かに、ユーリンの意志を受け入れるのみである。


「腹を決めた男の顔であるな。相わかった。儂は征かぬ。……たが忘れるな、ここは『西の山』であるぞ。そなたの見立てでは、何事かの不穏が潜んでいるのであろう? それに、村に打ち捨ててきたセルヒオのこともある。そなたでなくとも、きな臭さを嗅ぎ取れるが」


「うん。だけどたぶん()()も込みなんだ。ボクはここで危険を冒さなくちゃいけない。そういう気がするんだ。それすらできずに何が大望か、てね。ボクの手がどこまで届くのか、知っておきたい」


ユーリンは、大空に向けて手を伸ばした。小さく、か細い腕である。天をつかもうとしても、とても届かない。ユーリンにはそう思える。しかし、それはユーリンの腕のみの話である。


『己の身の丈のみを、そなたの限界と見限ってはならぬ』関羽は以前ユーリンに、人を束ねる器量としてのユーリンの才を告げた。自身のみの能力で物事を成そうとしてはならぬ、との趣意である。ユーリンはその言葉を、己の心の中の神殿に、丁重に奉じていた。


「……あの雲かな」


ユーリンは空を見上げたまま、無限の蒼を泳ぐ、ひとつの雲を選んだ。たなびく長い雲を指して、告げる。


「ウンチョー、あの雲があるうちは、ボクのことは心配いらないと思ってほしい」


そして、甘えるような柔らかさを口元に見せた。


―――ダメなときは、助けにきてね


という意味である。


「……承知した。そなたの器を信じよう」


「キー! キー!」


関羽がユーリンの説得をあっさりと諦めたことに、キタンは猛然と抗議した。当の霜妖魔の王国の住民であるキタンの焦りは、関羽やユーリンとは比べ物にならない。ユーリンの確実な死を予見していた。


関羽としては、キタンの懸念が正しいことを認めるしかない。関羽とユーリンは顔を見合わせる。


「ぬう、やはりキタン殿はそれでも反対であるか。当然よな」


「弱ったな」


「なればキタン殿はココで待ていてくださらぬか。ただし、くれぐれも手出しは無用。ユーリンの決意を尊重してやってほしい」


関羽の言葉を聞いて、霜妖魔キタンは不承ながらも大人しくなった。断固として反対であるが、関羽の言ならば、という態度である。


「儂のみこの氷をロセ殿に急ぎお届けして参る。察するに『カッサータ』の完成には材料を冷やすための待ち時間を要する。その工程に至らば、ここに儂も駆け戻るぞ。そなたの帰還を、この氷洞の入り口で待つつもりである」


ユーリンの意志は尊重してもこの線は譲らない、という関羽の判断である。否とは言わせない雰囲気であった。


「うん、そうしてくれるとうれしい。……それに、ウンチョーは早く『カッサータ』を作ってみたいんでしょ? それでいい。ボクはボクの道を進みたいけど、それでキミの歩みを止めたくない。キミはキミのスイーツ道を駆けるがいいさ。『ナルハヤ』でね」


ユーリンは、関羽は懸命に堪えてはいるが、その実際ではスイーツ作りを始めたくてウズウズしていることを、見抜いていた。


関羽はバツの゙悪そうな顔になる。

ユーリンは楽しそうだった。


「じゃあキミはキミのために。ボクはボクのために……これでいいよね」


ユーリンは、単身で氷洞の中に、再び足を進めた。

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