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スイーツ巡りのぶらり道中  作者: das
ハーピィの娘 ~マンゴー大福~
26/36

(3) ハーピィ族のウルリカ

陽光を遮る木の葉を傘にして木陰に立ち、周囲を見渡して人気(ひとけ)のないこと確認し、首を伸ばすように頭上を見上げ、エリアンは(こずえ)に呼びかけた。


「ウルリカ……? いる……?」


ささやかな木霊(こだま)が風に紛れて散った。散りつもる落ち葉の重なりだけが、その声を受け止めた。

約束の地である。ここで会えるはずであった。


果樹の街アーウィン近郊の森において、少年エリアンはただひとり木々の(いただき)に向かって呼びかける。秘密の邂逅(かいこう)にあたる当然の約束として、エリアンは身辺に入念な警戒をめぐらせたうえでこの森に足を踏み入れた。誰にも見られてはいない。その自信があった。その自信が、控えめに発した初めの呼びかけを力強く反復させた。


「ウルリカ!? きこえたら、へんじをしてッ!」


少年エリアンには常に不安があった。今日こそ、とうとうウルリカの返事が聞こえないのではないか――いつかはその日が訪れる。それは理解している。けれどそれを是として受け入れたことはない。それに抗うための手立てを常に求めていた。それが今日でないことを願い、少年エリアンはそれを確かめる。


「ウルリカッ!? まだ、いるよね!?」


「いるよ。でも呼ばなくてもいい。誰かに見られたらどうする」


森の上空を風が撫で、若葉を巻き付ける突風となって、地に降りた。ウルリカの姿が、そこにあった。少年エリアンは胸をなでおろす。また、今日も、会えた。まだ会える日が続いている。その事実が、ただうれしかった。エリアンはウルリカに駆け寄った。ウルリカは羽毛の心地でエリアンを抱きとめる。エリアンはしばしその柔らかさを堪能した後、努めてたくましい顔つきになった。


「だいじょうぶだよ。ダレもいない。ダレにもみられず、こっそりきたんだ」


「どうだか。ヒューマン族は獰猛で狡猾だ。リザードマンどもと同程度には油断ならない」


ウルリカの野趣あふれる犀利(さいり)な眼が周囲をくまなく見渡した。地に身を降ろした野鳥のごとく、僅かな視覚の異変すらも見逃さない細心の警戒を怠らない。

その迫力に少年エリアンは驚いた。ウルリカの柔らかな胸部から、顔をあげる。


「? どうも……こうか……? ……ウルリカ、すこしこわいね」


「……なんでもない。あたいはエリアンが心配なだけ」


「シンパイなのは、おれもだよ。だから、あいたかった」


「会わなくてもいい。ちゃんと約束のは、ここにかけてある。エリアンが黙って持っていけばそれでおわる」


ウルリカは近くの樹の幹を目線で示した。枝を斬り落とした樹の幹の膨らみに、使い古したカゴがかけてある。カゴの内側には艶やかな紅色の果実がつまっていた。

エリアンは顔を浮かせてその果実を眺めたのち、再びウルリカの胸元に顔をうずめた。それは喜びのあらわれであった。ウルリカの力強い胸の鼓動が、エリアンの頬を打った。


「でも会ってくれた」


「会わないほうが、いい。でもエリアンと会えるのはうれしい」


「うれしいのはおれもだよ、ウルリカ。 ……羽の具合はどう?」


ウルリカは右肩の先を高くかかげて、その健在をあらわにした。白い羽が風に舞った。自信に満ちた声で、エリアンの問いに答える。


「好調よ。つかめないのは天の太陽だけ。あとは雲でも風でも、空にあるならあたいのもの。そういう具合。……だからもう心配はいらない」


「そっか。よかった。ごめんね。ボクのせいで」


「あたいが勝手にしたことだ。それに、そのおかげでエリアンと会えた。あたいの怪我は忘れていい」


「ウルリカが忘れたっておれは忘れないよ。おれを助けてくれた、ウルリカと出会えた! ……忘れたくないし、おれは、おれに忘れさせない。『だんし』だからね。おれの『きょうじ』なんだ」


「……ぷっ。あはははははは!」


「……なんで……わらうの……?」


エリアンは戸惑い、不安にあふれたか細い声で尋ねた。意中の女性の失意を招いたことを恐る焦りである。その情に齢は関係ない。ウルリカの笑声はエリアンの誇りを痛めつけた。エリアンの顔が暗く沈む。


ウルリカは己の失態を悟った。意図せずエリアンの心に傷を負わせたことを理解した。胸の痛みが鼓動の弱まりとなって、エリアンにも伝わる。ウルリカは体毛を寝かせた。


「ごめんね」


ウルリカは言葉にして謝罪を述べた。エリアンの誇りを損ねる意図はなかった。つぼみと思って間近で眺めていたそれが、知らぬ間に熟れて実をつけ始めていた。

空から見下せばおおよそのことは、わかる。けれども触れぬことには、真実はわからない。当たり前のその事実を実感する歓びが高揚となって、ウルリカの陽の気性を刺激し。己の盲目に対する呆れを笑い声に仕立て上げたのである。


「ごめん。うれしかったんだ。エリアンがあたいの思ってるより、ずっと早く、成熟したから。エリアンを笑ったんじゃないよ。エリアンの成長に気づかなかったあたいを笑ったんだ。……あとエリアンは隠し事に向いてない。白状したいことがあるなら、受け止めてあげる。何をしたんだ? 」


「……わかるの?」


エリアンはウルリカの言葉を疑わない。男としての威信の失墜を避けられた安堵感が、エリアンを素直な心境にいざなった。


ウルリカは、エリアンのその反応を愛した。エリアンのあどけない表情を、孵卵(ふらん)の時を迎える母鳥のように、愛した。首を下げてエリアンに寄せる。


「エリアンのことだから。叱られるのが嫌ならあたいが慰める、叱ってほしいならあたいが叱る」


「……名前、教えちゃったんだ、マンゴーの。街で会ったひとに。……ごめん」


エリアンは昨日のできごとを思い返し、摘要を述べた。懺悔ではあるが、悔いはない。

――(いわお)を彫り削ったような屈強な体躯の青年と、天空を閉じ込めたような透きとおる空色の瞳を輝かせる少年の、奇妙な2人組を思い返す。母と自分と、それにウルリカの、大福に惜しみない賛辞を捧げてくれた、あの2人を。


誰でもよかった。誰かには告げてしまいたいと思っていた。けれどその機会がなかった。明かすことが変えることにつながるのならば、それは日の下にさらすべきではない。


だけど、あの2人になら明かしてもいいと思えた。


誰でもよいわけではなかった。だから誰に教えず、偽りの化粧を己に施して、耐えてきた。その良心の息苦しさから逃れるために、エリアンは秘密を打ち捨てた。


だから、あの2人になら明かしてもいいと思えた。


ウルリカは羽を広げてエリアンを包んだ。仔細を知らずとも、己の役割だけはすぐに知れた。


「なんだ。……あたいは採ってきてるだけ。マンゴーはエリアンのもの。あたいに謝るのは筋が違う」


「マンゴーはおれのじゃないよ。ウルリカのだ」


「あたいのものでもないよ。実を(ついば)み手にとっても、樹を自分ものとは考えないわ。それはヒューマン族の発想よ」


「でも、ふたりだけのヒミツだった」


「……そっか。それが苦しかったんだね。エリアンはやさしい子だ。誰かに明かしたかったんだろう? だったらあたいのことは気にしなくていい、どうせあたいはそのうち居なくなる。……ヒューマン族の群れの中でのエリアンの立場を大切にしな」


「やだ」


「……ヒューマン族にも掟や規律があるだろさ。それはわずらわしくても従うべきだ。群れはだいじだ。長生きするにはね」


「ウルリカ、いなくなるなんて、イヤだ! ……ずっと、ずっと友達だよ」


「それは悪くないけどさ、悪いことになるかもしれないんだ。いつかは去るよ。きっと、その風の訪れは遠くない」


「……いかないでよ」


「別れてもずっと友達さ。それでも嫌かい?」


「いやだ。ずっといっしょにいようよ。俺、はやく大人になるから。ウルリカをまもれるくらい強い『だんし』になるから」


「空にかかる虹をつかむような話だね。うれしい言葉だよ。……さ、もうヒューマン族の群れに帰りな。ちゃんとマンゴーを持って。……あたいもアイツのとこに帰るから」


「いつまでサガモアさんところにいるの?」


「納得したら、ね」


「それは、いつ?」


「いずれ、ね。あたいが決める。この身体はあたいのもんだ。雨をよけるも日にさらすにも、天を眺めてあたいが決める。あたいが決めてアイツ……サガモアのところにいるんだ。止まり木を選ぶ自由だけは、風神タリにだって譲らないさ。だから心配しなくていい。あたいが納得して、今がある」


ウルリカは翼をひろげ、空をつかんだ。鉤爪(かぎづめ)が地を離れ、土が舞う。足元にはエリアンの小さな身体が、より小さく見える。


エリアンは頭上を見あげた。天空を背に飛ぶウルリカがいる。空の蒼に流れる雲のように、白い羽根が優雅に踊っている。エリアンはこの光景が好きであった。胸をつく憧憬が叫びとなった。


「またね、ウルリカ! マンゴー、ありがとう!」


「ばいばい、エリアン。あたいのことは心配要らない。エリアンの幸せが、あたいの幸せ」


ウルリカは己の微笑みに身じろぐように羽ばたきをゆるめてわずかに下降しかかったが、それをかき消すように力強く翼を伸ばして空に登った。強風にゆられて森の樹木の葉が渦を巻いて、散る。ウルリカは梢の隙間から、愛しいヒューマン族の少年の姿を見下ろした。


見納め時を求めるように、視野を広げる。眼下には森が、遠くにはヒューマン族の街と果樹園が見えた。多くの彩りが眼を賑わわせたが、エリアンの居所だけがひときわくっきりとウルリカにはよくわかった。ウルリカはたまらず苦悶に顔をゆがめる。己の奥底で脈を打つ生臭い衝動に嫌悪感を抱いた。


(いけない。あたいはまだ縛られている……! これではエリアンの側にいられない。……もっと、自由がほしい。あたいの納得できる、心の自由が……!)


いますぐにでも、エリアンの側に降り立ちたい。そして望みのままに振る舞いたい。本能の手繰る糸に縛られたまま、まるで仕方がなかったかのような顔をして諦めてしまいたい。――欲望の強まり自覚して、ウルリカは戒めるように己の鉤爪を握った。


(……許さない。あたいは、()()()()許さない!)


息を整えて、エリアンを見下ろす。上空の澄んだ風がウルリカの頬をなでる。いまや点景となっても、その姿を見失うことはない。エリアンはまだ森の中にいる。地上に立って自分を見あげている。ウルリカの視力はそれをつぶさに観察できた。


(好きよ、エリアン……だから会いたくない。あたいに会いたいなんて、言わないで……。……!? あれは……)


見下ろす視界の中に、微かな違和感がある。森の中、エリアンのすぐ近く。巧みに隠蔽されているが、樹木のそれではない不自然な揺らぎと膨らみ。陰影の歪み。


(……! まさか!)


ウルリカは鉤爪を伸ばした。

翼が風を裂く音を響かせながら、天を蹴りとばしたように一直線に急降下する。


「エリアン! 伏せて!」


ウルリカはエリアンに呼びかけながら、エリアンではないその気配を強襲した。突風が森の土を飛ばし、木々を打ち据えて葉をゆらす。その奥に、姿を視認した。


(ヒューマン族……見られた……。聞かれていた……)


木陰に潜み隠れる2人のヒューマン族がそこにいた。即座に彼我の戦闘力を目測する。


1人は弱い。翼の一打ちで背骨を砕けるだろう。

もう1人は……


(……勝てない。勝てるはずがない。……それでも殺す。エリアンのためだ。あたいのことを知られてはいけない)


「エリアン! 逃げて! 見ちゃダメだ」


驚きのあまり腰を抜かして倒れ込むエリアンにウルリカは避難を促した。エリアンの安全のためでもあり、己のためでもあった。エリアンの前では決して見せないように心がけてきた己の内に眠る種族としての凶暴を、エリアンには最後まで見せたくなかった。


ヒューマン族の1人が声を発した。弱い方である。


「待って、ウルリカさん」


ウルリカは足先の鉤爪を鳴らした。不快感がこみ上げる。血が(たぎ)り、闘争心が(たかぶ)った。


「あたいの名を呼ぶな! おまえたちに教えた覚えはない」


「非礼はお詫びします! ですが説明させてください」


「釈明には前提がいる。信頼だ。おまえたちにはソレがない。虫の(さえず)りと変わらない」


ウルリカは宙に浮いたまま、大気のマナを身にためた。一身を荒ぶる(やじり)と化し、捨て身の特攻をかける構えである。一帯の風がウルリカをつがえる弓となった。


諸共(もろとも)風塵(ふうじん)に成り果てろ」


その時、ヒューマン族の1人が歩み出て、地に腰を下ろした。とてつもなく強い男の方である。腕を組み、不動の姿勢をとって……エリアンをみた。いままさに乾坤の攻撃を仕掛けんとするウルリカには目もくれず、ただエリアンだけをみていた。


予想だにしないヒューマン族の行動に、ウルリカは目を見張った。

そして、そのヒューマン族の男は無防備な姿勢のまま、あくまでエリアンに言った。


「エリアンよ。儂を殴れ。存分にだ。……申し開きの由もない。……よもや、よもや逢瀬(おうせ)が始まるとは予想だにしておらなんだ!」


男はあからさまに気落ちして泣きださんばかりの形相のまま、自分の頭をゲンコツで殴打している。生木(しょうぼく)すらもたたき割りそうな勢いの(こぶし)を受けても、男の頭にはヒビのひとつも入らない。やがて一向に割れる兆しのない自分の頭骨の頑健さに気がついたと見えて、男は不毛な打擲(ちょうちゃく)の運動をやめた。そして、腰の剣をエリアンに差し出し、地において手放した。ウルリカの見る限り、それはその男の唯一の武装である。男はいきりたつウルリカを全く相手とせず、身をさらして地に座ったままただエリアンだけを見ていた。


「この際、加減は無用。儂の立つ瀬がない。さあ、この剣をつかえ。儂の胸を刺し貫いてもよい。儂は……儂は(おの)が不甲斐なさに耐えきれぬ……っ……くぅぅ……」


弱い方のヒューマン族が、腰をおろしたままの強い方の男に寄って立った。(つがい)のような距離感が嗅ぎ取れる。弱さに似合わぬ自信に満ちた柔和な笑みを浮かながら、エリアンに(さえず)る。


「エリアンくん、どちらかというと刺さないほうがいい。それはさっきボクが予約したし、その腕でこんな胸板を刺そうとしても肘を痛めるだけさ。それよか泥とか砂とかぶつけたほうがいい、口とか鼻とかに」


「待て。そなたも共犯であるはずだが?」


「それは覗き見された被害者の裁定を受け入れよう。ハラスメントのボーダーは関係性で上下左右するもんさ。……エリアンくん、ちょっとボクの目を見てくれるかい? 痛くないから! さきっちょだけでいいから!」


「そなた、卑怯であるぞ! 妖術で罪を逃れようと試みるとは」


弱い方のヒューマン族がエリアンに近寄ろうとするのを、強い方が腕を伸ばして押さえ込む。くんずほぐれつの醜態である。


ウルリカは考えた。


――いまなら蹴散らせる。


ウルリカは覚悟を決めた。この2人を殺し、口を封じて、そして――


「エリアン、さがって。それでも殺す。きっと、よくない。そしてあたいは、さよならする。……さよならエリアン、楽しかった」


「ダメ! ウルリカ、それはいちばんダメだ! それにこの人たちなんだ……マンゴーの話、したんだ」


ウルリカが翼にまとわせた風が、止んだ。

森の木々の静まりが、凪の訪れを告げる。


告解の相手としてエリアンが選択したヒューマン族――それはウルリカにとって重みのあることであった。


ウルリカは翼をたたみ、足の鉤爪で土を噛む。猛禽(もうきん)類のごとき眼光だけが、油断なく辺りを睨んでいた。


不毛なじゃれあいに区切りをつけたらしく、弱い方のヒューマン族が立ち上がり、胡散臭い声を出した。耳に障る嫌な声だ。


「立つ瀬がなくても立ちますとも! ……釈明させていただきたい。エリアンくんの安全を確認したくて、後をつけさせてもらった」


月明かりのような銀髪の、やたら顔の整ったヒューマン族である。こっちの方は、殺すのはたやすい。


しかしその声はウルリカの鼓膜を震わせ、胸をかきむしらせる不快な質のものであった。

不快であるのに、思わず聴き惚れずいられない。その声の(つむ)ぐ言葉が、この世すべての真実であるかのように()()()()()()()――このヒューマン族が虚偽を発することは無いのだろう。

それを否応なしに()()()()()()()


ウルリカの身体が熱くなる。


()()()()()こと。

それはウルリカの最も嫌う、忌まわしき呪いである。

宿業(しゅくごう)を振り払うように、ウルリカは土をにぎる鉤爪に力をこめた。この弱い方だけは確実に殺せる。しかしそれは却ってエリアンを窮地に追いやるであろう。(ゆえ)に、()えた。


弱い方のヒューマン族の、空色の瞳が明滅した――かのようにウルリカは感じた。悪寒が羽毛を逆立たせる。


ウルリカは知っている。


それは大空から地上の獲物を眺める強者のものだ。

獲物からは(はるか)か及ばぬ天の高みにあって、生殺与奪をほしいままにすることを一方的に許された絶対的強者の視点――獲物を狙う側の、獲物を選ぶ側の、捕食者特有の眼光の揺らめきだ。


このヒューマン族は、弱いはずである。

であるのに、ウルリカは恐れを抱いた。


弱いはずのヒューマン族が、選び抜いたように言葉を発した。


「……正直にいうと、ウルリカさん、途中まで貴女(あなた)の、貴女という存在が生まれ属する()()()()()を警戒していた。必要とあらばエリアンくんを()()するために隠れて様子を伺っていたんです」


その言葉はウルリカの急所を的確に突いた。ウルリカは敗北を悟る。


知った上で、様子を見た。

知られた上で、様子を見られた。


生かされた屈辱。

護られた屈辱。

エリアンとの危うい関係を、たたき壊されなかった屈辱。


恥じることはない。

エリアンに対しても、(おのれ)自身に対しても。


ただしそれは、種族としては恥じるべきことなのであろう。

エリアンはヒューマン族であるが、ウルリカは違う。

その厳然たる事実がウルリカの自由の翼を湿らせ、萎えさせた。


弱い方のヒューマン族が、まるでウルリカの心境をいたわるかのよのように、言う。心を見透かすかのような空色の瞳で。


「お2人が……特にウルリカさんがボクたちに敵意を抱くのをボクたちは拒絶できない。けれどボクたちがお2人に害意を抱いているわけではないんです。その一点のみ信じて頂けないでしょうか。もちろん非難の言葉は厳粛に聞きますとも」


簡素な旅装に似合わぬ瀟洒(しょうしゃ)な仕草で、弱い方のヒューマン族は頭を下げて姿勢を正した。審判を厳粛に受け入れる意思表明として。


ウルリカは、エリアンに尋ねた。それはエリアンの意思を知るためではなく、己の意思が誤っていないことを確認するための儀礼であった。


「……エリアン、あたいはヒューマン族を信じない。だけどエリアンは信じる。エリアンが決めて。あたいにどうしてほしい? あたいはそれで納得する」


「なかよくして。おれ、ウルリカとオジサンがケンカするのはイヤだ」


エリアンの純真な眼差しが、懇願するようにウルリカを見つめた。そこに恐れの色がなかったことが、ウルリカを救った。エリアンの前ではひた隠しにしてきた、内に狂暴の片鱗をのぞかせてなお、エリアンはウルリカに対する親愛を失わない。


「あれ? ボク、認識されてない?」「オジ……」と顔を見合わせいる2人のヒューマン族に、ウルリカは言った。


「これからのおまえたちのあらゆるすべてが、エリアンに害をなすことはないと誓えるか?」


「誓う」「無論」


「奉ずる神は?」


「いない。ただ天地と、その狭間にある貴女に誓う」「儂はこの世界の神仏とは気が合わぬ。そも誓いは己に立てるものである」


ウルリカは翼を広げて、ひとなぎした。風のそよぎが円陣を作る。


「この誓いを疾風(はやて)にのせ、ウルリカの名の下、風神タリに届ける。おまえたちがエリアンの味方であり限り、あたいの鉤爪がおまえたちを切り裂くことはない」


この2人の口から、ウルリカとエリアンの関係が漏れれば、エリアンはヒューマン族社会における立場を失うだろう。甘やかな時間も永久に失われる。その危険を抱擁する決意をウルリカは示した。ヒューマン族を信用はしていない。しかしエリアンには殉じることに悔いはない。だからウルリカはこの2人を敵としないことを選んだ。


2人のヒューマン族は首肯し、ウルリカの誓いを受け取った。


「誓約いたす! あいや、名乗らせていただこう。姓は関、名は羽、(あざな)は——」「誓いましょう。ボクはユーリン、コッチはウンチョー。スイーツ巡りでアーウィンの街にきて、エリアンくんに懸想した分際さ。けど横恋慕はしない主義だから安心してほしい。……そしてウルリカさんは、もしかしなくても、ハーピィ族……の方、ですよね」


「地べたを這いずる連中は目が悪い。雷の混じる雨風もないこの晴天で、あたいのこの羽根と鉤爪をいったい他の何と見間違うんだ?」


ウルリカの脚の鉤爪の光が、ウルリカの肩から誇らしげに広がる翼を照らした。


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