(13) 心の仮面
音もなく駆けるユーリンの耳に、キタンの勝利を天に告げる関羽の宣言が届いた。当然の帰結であり、驚きはない。
ユーリンは静かに、場を乱さぬように、完全に気配を消して、キタンとヴェスプの決闘の場に戻った。
ユーリンの帰りに気づいた関羽が頷いて迎えたが、中座の理由を尋ねようとはしない。ユーリンの無事を安堵して、口元を緩めただけであった。
「聞いての通りだ」
「キタンさんがこんなのに負けるはずがない。たとえどれだけ消耗していても」
「数多の魔法を駆使した真に巧みな戦い方であった。武芸は比べるべくもないが、技芸の豊富さはリンゲンとも比べられる。実に驚かされた。儂も学ぶことが多い。……うずくのぉ……と、いかん、いかん。今生は、儂は『おふ』なのであった。武の高みは若い衆同士で競うが良い。儂はスイーツに生きる」
かつて矛を交えた当代の英雄飛将リンゲンになぞらえて、関羽はキタンの戦いぶりを激賞した。ユーリンの知る限りにおいて、関羽にとっての最大級の賛辞である。ユーリンは得意げに同意する。
「飛将は別格としても、キタンさんのセンスは凄いからね。魔術の資質だけならエクロさん並みじゃないかな。ゆくゆくは霜妖魔イチの大魔道」
ユーリンの言葉に、関羽は思い出したように言った。
「おお、エクロ殿と言えば、そなたに伝えるべきことが……」
「お。やっぱ、会ってたんだ」
ユーリンに驚きはなく、得心した調子で関羽に続きを促した。ユーリンがぼんやりと描いていた絵図に沿った展開であった。
「うむ。氷洞前で会って意気投合してな。カッサータの保冷のためにその場で多量の氷を出してくれたのだ。陽射しの暑さをものともせず、だ。堂々たる武人であったな」
「うふふん! ……どうだい? ボクのエクロさんはすごいだろ? 帰りに寄ってお礼を言わなくちゃね」
「……だが、な。なんというか、そのぉ……覚悟が要るやもしれん」
「ウンチョー、キミ、何したのさ。正直に言ってごらん」
「エクロ殿はそなたに『激おこ』であったぞ? 女王陛下の命に背いたということらしいが……」
「うぎゃあ。やっぱりヤッバイ! 」
ユーリンは頭を抱えて、うなだれた。これも織り込み済みの展開であった。
「そなた何をした?」
「だいじょうぶ。命乞いの算段はつけてある。だってボクは背いてないしね! ……あ、あとセルヒオどうなってた?」
「ひとまず死んではおらん……はずだ……儂が駆けつけた時――」
「さすがエクロさん! 信じてた。……さーて、ここからが正念場だな」
「……儂、まだ何も説明しとらんのじゃが? ……まて、正念場とは、いったい? 大方のことは片付いたのでは」
関羽は意外そうに声を落とした。
「そんなの、まさかさ! むしろこれから、ここから! ……付き合ってくれる?」
戦いの場においては無類の武と帥をあわせもつ関羽であるが、この世界の情勢を見通す眼においては、ユーリンに遠く及ばないことを熟知している。ユーリンが選んだのであれば、関羽はそれを常に信じる。そして何が起ころうとも共にある決意であった。
「無論」
「うきゃあ。まさかの告白成功! これからは両想いだね」(恥も外聞もなく、打てる手は、すべて打つ。ベストを尽くし尽くすのがボクの信条だ。無意味に終わるかもしれないけど、そのときは寿ぐ限りだ。滑稽な道化になってやるよ、山賊王。ツケはセルヒオから取り立てる)
さてと、とユーリンはつぶやいて、自分の頬を叩いた。
「ウンチョー、逃げ遅れた残党の処遇は、ボクに一任してくれるかい」
「儂に異存はないが……」
「うん、わかってる。……ごめんね。ボクを嫌わないで」
「何にせよ、好きにせよ」
全てを受け入れる関羽の眼差しを契機として、ユーリンは、心にまとわせていた光の衣を脱ぎ捨てた。
虚ろな欺瞞が精神を侵食する。
ユーリンは、キタンにむけてゆっくりと歩いた。
おおむね死骸のジーノのほかには、逃げ遅れた山賊は4人。多すぎず少なすぎずで好都合。恐れ震えて腰を抜かしている。信じられないだろう。きっとボクだって、ちょっと前までなら信じなかった。ヒューマン族のなかでもひときわ屈強なヤツを、ちっぽけな霜妖魔が真正面から打ち倒せるなんて。
一度、連中を見ておこう。
当事者意識を持ってもらいたいからね。
ボクと目があって、山賊連中はさらに縮こまった。大変よろしい反応だ。扱いやすい。
たかだか狼藉を生業とする程度の賊連中なんて、ボクの下劣さに比べればまだマシな部類だ。ボクが最低な人間だという自覚はある。けれども他の方法をボクは知らない。心を封じて、脅し、惑わし、誘導する。夜道で幼女をさらう強姦魔のようなものだ。刻まれて汚水に溶けて消えるのが末路として相応しい。それでもキミはボクに光を見るというのかい? 暖かいひなたで連れまわせば、いずれ陽の下で生きられるとでも?
……いいよ。試してみよう。どうせボクはこの世界が嫌いだ。失うものなんて元からない。包丁も剣も、同じも同じ、ただ斬るだけの哀れな道具。それでも血に塗れて綻びた剣で食を供されてうれしいかい? やっぱりボクにはない趣味だな。
「キタンさん。その剣、洗いましょう」
キタンさんは自失状態。感無量の喜び……というわけではない。殺しの心理的反動に戸惑っている。やっぱり素敵な人だな。どれほどの憎悪で殺意を固めても、相手の生命を奪うことに抵抗があるらしい。「見ないでくれ」と言っている。ボクに言葉は要らない。だってボクは視ればわかるから。
ここで目を背けることはよくない結果を招く。もちろんそれはボクにとっての。
もしもそうした場合の相手の反応が、なんとなくわかる。だって視えてしまうんだもの。
ボクは――怯えるキタンさんから、目を離さない。逃さない。
床に転がっている酒器を手に取って、刀身に酒をかけて、洗う。
混濁した匂いが昇ってきた。血と酒の匂いだ。
……酒の匂いはやっぱり苦手だ。何度嗅いでもどうしても慣れない。どうしてキミはこれが好きなんだろう。ボクにも力があれば、酒精の酩酊を愉しめるようになれるのかな。
「錆汚れになるんですよ。カルロさんの剣に、そんなものを残したくない」
声音は程よく調整する。まるで相手を労わるように。
難しいことじゃない。相手にしみるように、相手が拒絶を拒絶するように。
ただ耳を傾けてくれさえすればよい。だって音は無形じゃないか。そこかしこにある心の亀裂を狙えばよい。後ろ足をくじいた子犬を捕らえるよりも簡単だ。ただ手を伸ばしてつかみさえすればよい。
「御手も洗いましょう」
キタンさん手をとって、やさしく洗う。自然で適度な肉体的接触は、しびれた心には特によく効く。一度触れることを受け入れたのなら、あとは何度でも受け入れてしまう。心なんて、子供用の細工玩具よりも平易なカラクリだと思う。だって中が透けて視えてしまうんだもの。
神々の無能ぶりがよくわかる。どうしてこんな不完全な造りのままで、創造から手を引いたのだろう。無能以外の納得できる説明がないんだ。これでもボクは一生懸命に探したんだけど。
キタンさんの手はキレイになった。小さな手、細い指。雪のように冷たい。それでも力強い脈動を感じる。貴方に血は必要ないし、似合わない。ありのままが美しい。これを汚さないためになら、ボクだって多少は忌まわしさと向き合える。
だから、ごめんなさい。
貴方の心を蹂躙します。
いつの日か、ボクのことを恨んでください。けれど、できればボクを恨まないでください。だからボクは最低なんです。
キタンさんは落ち着きを取り戻した。手についた血の汚れが薄れことで、安堵したらしい。
吐き気を堪える。やはり最低だと自分でも思う。
それでもキミが望むのなら、試してみるのも悪くないとけっこう本気で思ってるんだ。
「キタンさん、どうします? 残りの連中も始末します? もしも貴方が望むのなら、山狩りにも付き合いますよ」
言葉の冷気を叩きつける。その寒さに、キタンさんの心が震えているのがわかる。
キタンさんの驚いた顔を見るのは、やっぱり辛い。……脇で何やらわめき散らしている山賊連中のことは別にどうでもいいんだけど。
演出として、飾り物の剣を抜た。切っ先を、離れた山賊どもに向ける。静かになった。おとなしく聴いてもらいたい。
誰が悪いかと問われれば、それはボクに間違いない。
キタンさんの反応がここまでボクにとって都合が良いとはさすがに予想していなかった。
無念を贖った結末として望外の傷心に苦しむ善良な存在を、ボクはとことんまで利用する。
良心の呵責が鞭のようにボクを痛めつける。それがもはや逆に心地よい。キミみたいな光の立場からは、きっと理解できないことだろうね。
「全員は無理でも、貴方の気の済むまで追い回しますか? ……血の潤いで、涙の泉が満たされるまで……」
キタンさんは首を横に振る。当然だ。再び血にまみれろ——と迫られて応諾できる心裡状態ではない。ようやく呼吸が落ち着いてきたところで、さらに突き落とされることを望めるはずがない。
之を奪わんと将欲すれば必ず固く之を与う――キミの祖国の言葉だね。ロウシだっけ? またいろいろお話しようね。ボクはキミの祖国の話がすごく好きなんだ。
ボクには世界を創造する力はない。
あり方を変える力もない。
いまあるものを、少しだけ、ボクの好みに合うように並べ替える……これならできる。精いっぱいやれば、だけど。
勝手に並べ替えられる側の心情なんて……よくわかっちゃうけども、尊重なんてしていられない。
つくづくボクは最低だ。
「その高潔さに感服します。カルロさんを直接手にかけたヴェスプの命のみで、無念の刃を収めるのですね」
本当にごめんなさい。舞台装置として、貴方のその態度が欲しかった。
これで本命を崩せます。本当にごめんなさい。ありがとう。
次は本命である腰抜け賊徒どもの相手だ。こんな連中のために手間暇をかけなきゃいけないのかとボクの気がますます沈み込むようなツラで、哀れっぽく泣きべそをかいていやがる。
声音をまた変えよう。なるべく怖く、できるだけ恐ろしく、絶対にこの瞬間を忘れられないように、呪いをかけるために。
言葉で飾りたてた、飾り物の剣を突きつける。ボクに身をすくませるなよ。少なくとも、お前たちはボクよりは強いだろ?
「お前たちはどうするつもりだ? ヴェスプの弔いのため、血の贖いを求めるか?」
暗い洞窟の底から掘り出した太古の呪術具の鐘の音のように、聴き手の心に不吉な死の気配を連想させる声を出した。
ゴミどもの反応は完全に予想通り。——ま、まさか! とんでもない! 誰があんなヤツのために。ヴェスプの命令には逆らえなかったんだ。悪かった! 許してくれぇ——などと弁解とも謝罪ともつかぬたわごとを羞恥心なく叫んでいる。ヴェスプに対する忠誠心など無いとわかっていたけども、ここまでさっぱりだと逆に気味が善い。
細工は流々、仕上げとしてトドメを刺す。
心の扉を開けさせたければ、まずはめいっぱいに閉ざさせる——心にとって最善の閂は、死への恐怖だ。惜しむような生き方をしていなくても、自分の生命だけは惜しいらしい。図々しい。けど図々しいから山賊なんてやれるのか。
ボクは手を伸ばす。いまなお這いつくばってどういうわけか被害者ヅラで涙を垂らす連中を、脅かすように。
心の緊張の糸に触れた気がする。これをキリキリと引き絞る。はち切れそうな張りをつかんだ。……ここだ。
「……皆さんも大変でしたね。ヴェスプの命令に従わされて」
さて誰を選ぼうか。4匹を見比べて、比較的マシな強度の心を持つヤツを選んだ。クソの中ではいっとうキレイなクソだ。
ボクは剣を鞘に収めて、空いた手を伸ばして、ソイツの手をとった。……嫌だ、触りたくない。後でこっそり手を洗って、山を降りたら入念に洗おう。
「もう大丈夫です。ヴェスプは死にました。争いは終わりにしましょう」
ボクの内側で嫌な亀裂音がした気がする。冥界で誰かが歯ぎしりしたんだ。こんな奴らを許すな、と。たぶんコイツらを恨みながら散った誰かの怨嗟に違いない。きっと、そうだ。
「少しだけ、ボクと仲良くなりませんか?」
張り詰めていた緊張がほつれる。クズどもの恐怖がゆっくりと疑念に変わるのを確認する。自然な仕草だから仕方ないとわりきるけども、やっぱダニ芥どもからの視線は不快だな。ボクを見るのは、1人だけでいいのに。
「お話しをしましょう。いろいろ知りたいことがありますし、ボクのことも知ってもらいたい。どうせ夜が明けるまではここで過ごすしかないんです。お酒でも楽しみながら、いっしょにお食事、いかがです?」
ボクの言葉を測りかねて、ツラの中にマヌケ模様が走る。手のかかるヤツらだ。まだ欲しがるか。……仕方ない。
「……もしかして、ご迷惑でしょうか」
声の成分を変える。悲哀の色調。脳髄の罪悪感をつつくように。山賊どもの罪悪感をくすぶらせるなら、コイツらのこれまでの所業と向き合わせるのが本来だろう。あいにくとボクは宣教師じゃない。火付け先はボクの都合で選ぶ。
表情も変える。口元と、あとは目だな。 ボクは自分の目が好きじゃない。海色の瞳なんて忌々しいだけだ。特に、潤んだ自分の瞳が嫌いだ。風にざわめく海のようで、不吉の象徴じゃないか。……なんでどいつもこいつもこの目に魅入られるんだ? 得体が知れない。心の動線は視てわかるんだけど、その理由がわからない。不気味に思う。……そういえばキミもこの瞳を褒めてくれたよね。キミが好きなものなら、ボクも好きになりたいんだけど、あいにくとこればかりは仕方がない。きっとこれはボクが何かを間違えているんだろう。
ボクの悲し気な懇願は、質はともかくとして人の心があるのなら、とりあえず誰にでもある程度は通用する。ぽつりぽつりとぼやくように、山賊どもは――迷惑ってわけじゃねぇんだ。そういうことなら。いいのかよ。ま、やることもねぇしな――と遠慮がちな言葉を垂れながら、ボクの提案を呑んだ。
死ね。
当然のように、のうのうと生き残ることを選ぶな。
賊徒としてのこれまでの所業、重ねた罪を恥じて自害しろ。
「よかった! ケンカ別れなんてさみしいですからね。これが良き出会いの日となりますように」
華やかな歓喜を散らす。
声は、心を弾ませたかのよう。
顔は、喜びに溢れるかのよう。
「ささ。座ってないで、こちらへどうぞ。散らかってますが、どうせ明日には引き払うでしょう? 今夜は気にせず楽しく過ごしましょう!」
背中に感じるキタンさんの視線が、ボクの心に沁みる。苦しい。ごめんなさい。
ダメだ。後ろを見れない。キタンさんを、見ることができない。いまどんな顔でボクを見ているのだろう。知りたくないけど、気になる。痛い。ごめんなさい。
それでもボクは、このベストを尽くし尽くす。これが本当に必要なのかは、わからない。けれども、いまやれる全てを、いまはやる。
山賊王の内側に、緩やかなボクの味方を置いておきたい。いつかきっと役に立つ。
地上の染みのようなクズども……どうかボクに心酔してくれ。一晩あれば十分だ。客を求める酌婦のように媚びを売り、王侯のように威厳をもってお前たちの忠誠を買いあげてやる。狂え。
いつの日か、お前たちを活用する時が来るかもしれない。……来ないでほしいけど、もしもの時のための備えはしておく。そのために使えるものは何でも使うし、できることは何でもする。ボクのようなのは、とにかく布石をたくさん投げるしかないんだ。
ボクはキタンさんには、もう会えない。その資格を放り棄てた。ボクは貴方を本当に尊敬しているんです。でも、いまはコレを選びます。だから、明日になったら、お別れです。二度とお会いすることがないように心がけます。だけどどうか信じてください。ヒューマン族はボクのような人間ばかりじゃないんです。カルロさんとロセさんとだけは、これからも……。
ボクは最後までキタンさんを振り返らない。悄然は心の内側に。表向きには、太陽のように燦然と、明るく振舞おう。
足取りはゆっくりと。実は逃げるような心で、戻り、ささやき声で報告する。
「やっ。おまた。聞いてのとおりにしちゃった」
「……彼奴ら山賊一味の噂は巷間でしばしば耳にしてきたが、それほどまでに用心せねばならぬ連中であると、そなたは観たのだな」
いつもそうだ。
キミだけは、わかってくれる。だからボクはつい甘えちゃうんだ。わかったうえで、許してくれるて。
「うん。ものすごく手ごわい予感がするんだ。関わりたくないんだけど、どうしても避けられない気がする」
「よくぞ堪えた。儂の誇りだ」
「……うん」
まずい。本当に泣きそうだ。だけど、泣かない。ボクは泣いてる自分がすごく嫌いだけど、泣いてる自分をキミに見せるのはもっと嫌いだ。
ボクはきっと、さみしそうな顔をしたんだと思う。気が抜けちゃって、自分の顔がわからない。けどもキミの反応で、わかるんだ。ボクはきっと、本当に悲しんでいるんだろう。
誤魔化すつもりじゃないけれど。
罪を一等減じたいだけだけれど。
いちばん大切なことを任せたい。
「それでその、お願いがあるんだけど……」
「うむ。もとよりそのつもりだ。キタン殿のことは請け負おう」
やっぱりお見通しか。実はキミの度量にボクはいつも感服してるんだ。
「ごめん。ありがとう。頼りにしてる」
「儂には、一廉の武人としての経験がある。武の滾りの末の茫失も戦場で多く目にしてきた。矛を収める無念もな。語らう時が必要だ。連中の残した酒がある。杯を経て、共に吐き出してこよう」
「飲みすぎないでね。てかキタンさんお酒飲めるのかな」
「案ずるな。酒精は肝要ではない。……それに、あまり悲観するな」
ボクは不思議そうな顔をしたはずだ。だってキミがボクを安心させるように言ったからね。
「儂を信じよ」
信じるよ。ボクはキミだけは最後まで信じると決めているんだ。
頭部に心地よい感触。キミはボクを褒めるときに、いつも頭を撫でてくれるね。ボクはそれがたまらなくうれしいんだ。髪を洗っておけばよかったな。
だけど違うよ、ウンチョー。キミはきっと誤解をしている。無理をして仮面をかぶったんじゃない。かぶっていた仮面を外しただけなんだ。暖かい衣を身にまとい続ければ、冷たい氷もいずれ氷のまま暖かくなれるって? キミはそう信じているんだね。じゃあボクも付き合うよ。ボクにとっては、その幻想だけでも嬉しいんだ。光の衣はボクには似合わないんだ。
……そりゃあ、案外に着心地が悪くないのは認めるけどさ。