第3章「偽物の鏡とホンマの覚悟」
その日、神殿の奥で鏡を拭いてたときや。
「ん……? これ、模様……なんかおかしない?」
昨日、卑弥呼さんが「これは魏の使者にもろたやつや」って見せてくれた銅鏡。
それと──今目の前にあるこれ、模様が微妙にちゃう。
いや、見間違いやない。こっちは模様が雑やし、なんか違和感すごい。
「……まさか、偽物?」
なんか嫌な予感がして、その晩、こっそり神殿をのぞきに行った。
そしたら、闇に紛れて怪しげな男たちが──
「鏡をすり替えるって……それ、神の権威を乗っ取るってことやん!? クーデターやん!?」
体が冷えていく感覚。震える手。けど、逃げられへん。
次の日、思い切って卑弥呼さんに言いに行った。
「……あの、鏡、偽物が混ざってると思います」
沈黙。
一瞬、空気が止まったような気がした。
けど──
「……そやろな。気づくと思っとった」
「──え⁉ 気づいてたん⁉」
思わず声が裏返る。卑弥呼さんは、ふっと笑った。
「信じるって、な。人を信じるだけやない。“見抜く覚悟”を持って、初めてホンマに信じられるんや」
その言葉、じわっと胸に染みていく。
逃げんかった自分を、ちょっとだけ誇らしく思えた。
──その夕方、村人たちが神前に集められた。
「お清めの儀」と称して、偽物の鏡は回収された。
「神罰が下った」と、村人たちに告げられたけど──誰もそれを疑わへんかった。
ほんまは、“うちが見つけた”なんて、誰も知らん。
けど、鏡の前でうちははっきり感じてた。
──これが、神の側に立つってことなんや。
表で笑って、裏で戦うこと。
信じられるためには、自分がまず“目をそらさへんこと”。
「ミユ、よう見抜いたな」
卑弥呼さんが、ぽん、と頭を撫でてくれた。
その手、あったかくて、あの夜の震えを溶かしてくれた。
「……うち、まだ神ちゃうけどな」
「うん。でも、神に近づいとるわ」
──この日が、きっと“第一歩”やった。
目ぇそらしたくなるもんを、しっかり見て、伝えるってこと。
それが「信じられる人」への道なんかもしれんって、初めて思えたんや。