第2章「神様ってほんまにおるん?」
卑弥呼さんの住んでるとこ──ていうか“神殿”──は、めっちゃ広かった。
藁ぶき屋根に木の床、柱のあいだから風が通り抜けて、そこら中で香炉から煙がふわっと立ちのぼってる。ああ、これはたしかに“神秘っぽい”ってやつやな……って思った、その瞬間。
「よっしゃー! お湯、沸いたで!」
って、でっかい桶を嬉しそうに指差す卑弥呼さん。
──ぶち壊しや。雰囲気、一瞬で終了。
「いや神殿で銭湯始めるなや!」って、心の中で即ツッコミ。
それでも笑いながらうちに桶を指さすその人は、やっぱり“神”ってより、“近所の元気な姉ちゃん”って感じやった。
「神託の準備せなあかんから、その前に腹ごしらえやな。焼き芋あるで」
──また芋やん。てか、神託って“おやつタイム”から始まるもんなん?
けど、その神託が──まじですごかった。
夜、神殿の奥。しん……とした空気の中に、祈りの音が響いてくる。香の煙がもくもく立ちこめる中、卑弥呼さんが静かに立ち上がる。
目を閉じて、空に向かって何かを“聞いてる”みたいな仕草。まるで、さっきまでの芋おばちゃんとは別人みたいや。
「……西のムラが、雨を欲しがっとる。でも、山の神は怒っとる……」
──その声。ゾワッときた。空気がビリビリ震えて、背中がひやっとする。
あんなにくだけた人やのに、“その瞬間だけは”確かに神様に見えた。
──儀式が終わって、戻ってきた卑弥呼さん。
「ふー……今日はちょっと長かったな。芋、残っとる?」
……戻ってきた。芋神が。
思わずツッコんでもうた。
「なんでそんな切り替えできるんですか!?」
そしたら、卑弥呼さん、ちょっと遠くを見るような目ぇして、
「……“信じてほしい人”がおるからやろな」って。
「神様ってな、誰かが“おってほしい”って思ったときに生まれるもんやねん」
──その言葉、ズンって胸に刺さった。
ここに来てまだ数日。でも、うちはだんだん分かってきた。
この人は、ほんまの神ちゃう。でも、“神であってくれる人”なんや。
そして、たぶん──
うちも、いつかそういうふうに、“誰かの信じる何か”にならなあかん気がしてきた。
まだ方法は分からん。けど、今はただ、
この人のそばで、もっと見ていたいって思った。




