第1章「目が覚めたら弥生時代」
「卑弥呼ってほんまにおったんかなあ……」
──授業中。睡魔と戦うふりして、ふと口からこぼれたその言葉。
前の黒板には「邪馬台国と弥生文化」って文字。テスト前やのに、うちはちっとも頭に入らんかった。けど、卑弥呼って名前だけは、なんかずっと引っかかってたんよ。変な名前やのに、不思議とカッコええというか──どこか気になる存在。
放課後、帰り道にふらっと立ち寄った神社。テスト勉強から逃げる言い訳にちょうどよかった。
境内の片隅に、やたら古そうな銅鏡が置かれてた。
「えっ……屋外に!? 雨ざらし!? ええん!?」
驚きつつも、つい手を伸ばしたその瞬間──
ぴかーん!
──光った、と思った次の瞬間。
「……は?」
気づいたら、森の中。制服は消え失せ、体には変な布が巻かれてる。足元は土。風は生ぬるいし、虫の声がやたらリアル。
「え、うそやろ? タイムスリップ……!?」
パニックで叫んだら、どこからともなく現れた知らんおっちゃんらに囲まれた。
「よそ者やーっ!」
ええ!? 何この展開!? RPGかいな!
ほんの数秒で捕まって、縄でぐるぐる巻き。説明ゼロで、見知らぬ村へ連行コース確定。
──そんで、現れたのがこの人。
「その子、乱暴にしたらあかん。神のお導きかもしれへんやろ」
低くて落ち着いた声に、場がピタッと静まった。
見れば、巫女っぽい装束をまとった女の人。堂々たる雰囲気、キリッとした目。
──まさかの、“卑弥呼”ご本人。
「……え、ウソやろ。しかも、なんで大阪弁?」
あの神秘の象徴やったはずの卑弥呼が、うちをジロッと見て、にっこり笑う。
「アンタ、ちょっと変わっとるけど……おもろいなぁ」
──評価軽っ!でも、ちょっとだけ安心した。
戸惑いだらけの異世界(?)スタート。けど、この人の目が、あったかくて、不思議と怖くなかった。
神託? 儀式? わけわからんことばっかりやけど、団子食べながら「今日も神せなあかんのか」ってぼやくこの人、ちょっと好きかもしれん。
こうして、うちの【神時代体験コース】が──いま、始まった。