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キャンドルに火をつけろ

作者: 小野遠里

 その日、僕はパリにいた。エッフェル塔から見るパリの夜景は美しい

 テーブルを挟んで前にいる金髪の女性とデートの最中である

 ワインを片手に見つめ合う。これから彼女の家に泊まりに行く予定である。をを花のパリ、僕は幸せの絶頂にいた

 その時である。彼女の携帯が鳴った

 何か話している。仏語だから全然わからん。必死な感じである。

 電話を終えて、教えてくれる

「巨大隕石が地球にぶつかるんだそうです。太陽の方から来たので分かりませんでしたって。あと七日で人類は終わりだと言ってます」

 彼女、アリシアと云うのだが、流暢な日本語で教えてくれた

「あと七日です。二人で楽しみましょう。最期だから」

「いや」と僕は言った「帰らなきゃ、日本の田舎の僕の家に」

「なぜ? 愛しているのなら、最後まで一緒にいましょう」

「神は七日で世界を作った。しかし、七日で世界を終わらせるわけにはいかない。僕は日本に帰って、世界を救わなくてはならないのだ」

 アリシアが一瞬天を仰いだ

「嘘。嘘。嘘。日本にいる奥さんの処に帰るのでしょう。私を愛してますって言ったのに、もう別れるって言っていたのに。最後は奥さんといたいのね」

 そう言って泣き崩れた

 周りの、世界の終わりも、僕らの話もまだ何も知らない人々が、興味深そうに見ていた

「違うんだ。君だけを愛している。だからという訳ではないが帰らねばならない。止めてくださるな、アリシア殿、事情があるんだ」

「どんな事情があるのですか?」

「うん、世界を救わねばならないのだ」

「嘘、嘘、嘘。あなたにそんな事出来るわけがないわ」

「いや、僕にしか出来ないのだ。僕だけが世界を救える。その為には、日本に帰らねばならぬのだ」

「嘘!」

「本当だってば」

「どうするのよ、あなた」

「うん、二十年ほど前のことだ。僕はまだ中学の一年だった。ある夜、両親が出掛けていてひとりぼっちの時に、玄関のベルが鳴った。出てみると、緑色の宇宙人だったんだ。宇宙船が故障して、寒いから泊めてくれ、修理するのにこれこれの物が要るから揃えてくれ、というんだ。それほど難しい物はなかったから、一晩泊めて、朝から、金物屋やスーパーを走り回って集めたよ。宇宙人が感謝してくれて、クリスマスキャンドルみたいなのをくれて、『なにか困った事があれば、これに火をつけなさい。どんなことでも解決してやるから』と言ったんだ。そのキャンドルは日本の僕の実家にある。だから、キャンドルに火をつけに帰らなくては」

「嘘」

 とアリシアが呟いた

「本当だ。一緒に来てくれ。パスポートはまだいけるだろう?」


 そういう訳で僕らは朝一の飛行機でド・ゴール空港を飛び立った

 成田から、関空へ、レンタカーで実家へ走った

 実家にはなにも言っていなかったので、金髪の彼女を連れて帰ったのに、両親が驚いていた

 もしあの日、両親が家に居たなら、地球の命運は変わっていたかもしれない

 実家にまだある僕の部屋の押し入れの奥からキャンドルを出して、部屋の真ん中に置き、火をつけた

 アリシアが半信半疑でというか、全然信じていない感じで見ている

 炎の中から、サンタクロースが現れた

 なんでサンタさんなんだと思うが、この際どっちでいいだろう

「おお友よ。前にはお世話になった。ありがとう。キャンドルに火を付けたという事は何か困り事があるのだな? なんでも言ってくれ。サンタは子供の頃の幻ではないのだ」

 なんか、よく分からないユーモア感覚が宇宙人にあるようだ

 まあいい

「隕石がぶつかるとかで地球の危機なんです。なんとかして下さい」

「おお、友よ、お安い御用だ。ちょっとそのままで待機しててくれ」

 と、サンタさんが消えて、一時間ほど経ってから、

「おお友よ、軌道を変えたからもう問題はない。安心してくれ。友よ、さらばだ。なを、そのキャンドルの残りは自動的に消滅する」

 サンタさんの姿が消えると、キャンドルはいつか聞いた事があるような音楽と共にシューと消えてしまった


 アリシアが言う

「なにか、変な夢を見た気分ですわ」

「夢なら夢でいいけど、隕石はどうなったかなあ」

 テレビをつけて数時間後に

「隕石は、信じられない事でありますし、有り得ない事でもありますが、軌道を九十度右に曲がげて、もう地球にぶつかる事がなくなりました」

 と言った

「やったね」

 と僕は叫んだ

「あなたが地球を救いました、ですね」

「そうだ」

「でも、誰も知らない」

「そうだ。しかし・・・あっ、わかったぞ」

「なにが?」

「宇宙人がサンタさんだった理由がね

 クリスマスなんだ」


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