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公爵邸

94 公爵邸






 公爵邸は敷地も広大で、さすがに邸宅全体を「結界」の魔法の盾で囲むことは出来なかった。

 

 無理をすれば出来るかもしれないが、あくまで目的は逃走防止。

 

 中に入れば、戦闘にも魔法を使うのだ。魔法の盾一つだけを維持していれば済むという訳ではない。

 

 今回は、取りこぼしは諦めて、時間と魔力を優先する。

 

 ギルバートは飛行したまま「念動」の魔法の腕を装備すると、二階の窓の一つを選び、窓枠を掴んで引き抜く。窓枠がへし折れ、嵌められていた硝子が砕け散った。

 

 ぽっかり空いたその穴から、ギルバートとケルは侵入し、公爵邸の中心部を目指して飛んだ。

 

 アドリアーノ公の行いや風聞から、何となくだが彼の部屋は中央にある気がしていた。当然、部屋も一番大きく立派で、扉もきっと無駄に豪奢な造りだろう。

 

 次々とそれらしい扉をぶち抜いて部屋の中を覗いていくと、一際大きい部屋を発見した。

 

 その部屋の中央から奥は一段高くなっており、御簾が掛けられていた。

 

 

「き、貴様、何者だっ!?」


「賊だ!即刻、取り押さえろっ!」


「ここまで賊の侵入を許すとは、何たる失態!」


「早く兵共を呼ぶのだ!」



 いくつもの指示や叫び声が交錯する。

 

「……ここは当たりっぽい」


『そのようだな』


「偉そうなやつは殺さないで。話を聞きたい」


『了解だ』


 ギルバートは歩きながらケルと一つ二つ言葉を交わし、「念動」の魔法の腕で部屋の中央にかかっている御簾を引き千切った。

 

 御簾の奥の一段高くなっていたエリアは、寝所と応接室と娯楽室が同居しているような広々とした空間だった。

 

 そして持ち主の趣味をうかがわせるように、何処も彼処も下品なほど金のかかった、豪華すぎるほど豪華で煌びやかな造りだった。



 ギルバートとケルは襲い掛かってくる兵達を、「念動」の魔法の腕で片っ端から捕らえ、仕分けし、只の兵士と隊長格と思われる兵士を別々の壁に投げつけて行った。

 

 それらしい者が誰もいなかった時、隊長格の兵士を締め上げるためだ。

 

 兵士たちは豪華な装飾品や調度品の中に頭から飛び込み、次々と豪奢な室内を破壊してゆく。


 やがてギルバートは、御簾の奥側エリアの一番奥で硬直している、いかにも側近、もしくは執事らしき人物を捕まえた。

 

「ひっ!?」


「……あなたはこの屋敷の執事か何かだな?アドリアーノ公はどこです?」


「わ、私は留守を預かる家令です!公爵様は、現在王都に滞在中で、こちらには居られません!」


 顔面蒼白な壮年の男は、家令と言う割にはペラペラと喋り出した。公爵に対する忠誠心は皆無のようだ。

 

 話が早いのは良いのだが、こうまで簡単に喋られると、逆に疑わしく思えてしまう。公爵から危険を逸らす為、あるいはギルバートを罠にかける為に、偽情報を喋っているという可能性はあるだろうか?


 だが、尋問に時間を掛けてはいられない。

 

「……分かりました。王都でアドリアーノ公をお訪ねするので、王都の公爵邸の場所や警備状況を話してください」


「わ、私は王都の事は……っ!」


 怯えながらも、今度は言いよどむ家令。

 

「時間がありません。今すぐ、知っていることを速やかにお願いします」


 そう言って、ギルバートは「重力視」の魔法を発動し、家令を締め上げる。

 

「ぐうぅぅっ!?」


 その間にも、なんとか立ち上がった兵達が、再三、斬りかかってくるが、その度にケルが「念動」の魔法の腕で捕まえ、壁にぶん投げる。

 

 やがて、再び立ち上がってくる者は居なくなった。だが、今にも外の兵達が駆けつけて来るかもしれない。

 

「さあ、早く!」


「はな……話すから、や、やめてくれぇ……!」 


 ギルバートがそんな家令を見ながら嘆息し、少し「重力視」の圧力を緩めると、家令は脂汗を流しながら、屋敷の位置や特徴を話し始めた。警備の人数などは本当にあまり詳しくないらしく、あやふやだった。

 

 家令の忠誠心や行動を見ても、大してアドリアーノ公から信頼されていないらしいのは明らかで、王都の公爵邸については殆ど何も知らなかった。


「分かりました。もう結構。あなたの話が真実かどうか、今すぐ確かめる術もありませんから、オレは行きますが、嘘と分かったら戻ってきます」


「う、嘘じゃない!本当だ!も、もう早く出て行ってくれ!」


 確かに嘘じゃなさそうだったし、嘘だとしてもわざわざこの男を探すことは無いだろうな、とギルバートは思った。


 入口の方から、新たに複数の足音が響いて来る。

 

 ギルバートは「飛行」の魔法で瞬時に窓際まで飛ぶと、「念動」の魔法の腕で窓枠を掴んで引き抜く。高価そうな板硝子の窓が砕け散り、窓枠はへし折れて床に転がった。

 

 すると、狙い通り壁に大きな空間が開いたので、ギルバートはその大穴から飛び出して、猛スピードで上空へ舞い上がった。



 上空から地上を見ると、公爵邸の門は兵士によって閉鎖され、邸内に続々と兵士が突入して行くところだった。

 

 結構、ギリギリだったようだ。あの兵達全部を相手にすると、魔力消費的にキツかったかもしれない。

 

 巨大猿の群れなどより、個々は弱いが数が圧倒的に多い。

 

 どの程度、魔力を消費するかは、一度やってみないと分からないが、そんな機会は、出来れば無い方が良い、とギルバートは思った。



 さあ、今度はこの情報が伝わる前に、王都の公爵邸を制圧しなければならない。

 

 家令に聞いたところによれば、王都の公爵邸はそこまで大きくないらしい。と言っても、リオーリアの公爵邸に比べれば、ではあるが。


 とりあえず、魔力は大して消費していない。傷も疲れもない。王都に向って高速で飛行しながら、ギルバートは自分の状態を診断する。

 

 

 ……大丈夫、まだまだ全然行ける!




 ギルバートは、出来る限り一気に、速攻で片を付けようと、改めて気合を入れなおしたのであった。



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本日、1話目。3話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「公爵邸2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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