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出撃

93 出撃






 その翌日、練習もかねてギルバート達はリンドヴァーン東部の森林地帯と、リオーリア東部の森林地帯にも同じような隠れ家を設置した。ただ、内装や物資搬入は行わなかった。

 

 それぞれの地元、リオーリアやリンドヴァーンで物資を調達すると目立ちすぎる為だが、リンドヴァーン領とリオール領の間の移動時間という、物理的な負担が大きかった為でもあった。

  

 そうして、ついにギルバートは出撃準備を終えた。

 

 朝と昼は街で買ったご飯を食べたが、夜は最初に作った、グレイヴァル付近の森の隠れ家で過ごす事にして魔獣を狩り、エリーが魔獣肉を焼いて挟みパンを作ってくれた。

 

 ギルバート達は三人で夕食を食べると、主にエリーについて、最終的な申し合わせを行った。

 

 

 ・ギルバートとケルが帰るまで、この隠れ家で待つこと。

 

 ・出来るだけ外には出ないこと。

 

 ・もしこの隠れ家が見つかって、侵入行動や破壊行動を受けた場合、地下通路から脱出しグレイヴァルのアンナおばさんを頼ること。

 

 

 本当は、それに加えて、ギルバートとケルが返ってこない場合についても、実家かご領主様かアンナおばさんを頼るように言いたかったが、縁起が悪いので言わなかった。

 

 その場合は、エリーが自分で判断するだろう。


 

 短い打ち合わせを終えると、ギルバートとエリーは真新しいベッドに入り、就寝した。




 翌朝、ギルバートと共に、スッと起床したエリーがギルバートの「火」の魔法を断って火をおこし、魔獣肉の残りを焼いて朝食にした。

 

 

 

「……じゃあ、気を付けて」


「うん。エリーもね」



 ギルバートはエリーと出発の挨拶をかわし、エリーを軽く抱きしめると、三階層の窓から森の上空へ舞い上がった。

 

 そして、もう一度、窓辺に佇むエリーに手を振ると、エリーが手を振り返すのを見届けてからリオール領の領都リオーリアに向けて飛び立ち、高度を上げた。

 

 ギルバートはそのまま、グレイヴァルと王都を隔てる山岳地帯を右手に睨みながら飛行し、スピードをグングンとあげていくが、さすがと言うべきか、ケルは苦もなさげに自分の翼で飛行してついてくる。

 

 

 ギルバートは、シルバートゥースの連中が言っていた言葉を思い出す。


 彼らのボスの男は、アドリアーノ公から、何が何でもギルバートを連れて来い、と命令されていたという。

 

 

 ……何が何でも?

 

 ……連れて来いって?

 

 

 その瞬間、ギルバートの目が据わった。

 

 

 ……だったら、此方から行ってやるさ!


 

『……ギル、落ち着け』


 ギルバートの並々ならぬ気合を感じ取ったのか、ケルがギルバートに話しかけてきた。

 

「落ち着いてる、と思うけど」


『いや、少々、入れ込み過ぎておる。視野狭窄に陥ると、思わぬ窮地に陥る事にもなりかねんぞ?』


 

 正直、ギルバートは自分はちゃんと冷静だと思った。

 

 だが、同時にギルバートはケルを信頼している。ケルがそう言うならどこか普段と違うのかもしれない。

 

 実際、状況からして普段とは違うのだ。

 

 

「……分かった。何とか冷静に戻す努力をするよ」


『うむ。それで良い』


 それ以降は、特に会話もしなかった。話し合いは終わっている。やることも決まっている。

 

 エリーが連れ去られた方向からギルバート達は、当初、敵は王都に居ると推測していたが、敵の首魁がアドリアーノ公であるなら、奴の本拠地であるリオーリアに居る可能性が高いだろう、という事になった。

 

 そこで、ギルバート達はリオーリアのアドリアーノ公の邸宅を一気に急襲し、身柄を確保する事にした。

 

 もし、アドリアーノ公が居なかった場合、邸宅中の人間を締め上げて居場所を吐かせる予定だ。その後は出たとこ勝負になる。

 

 頼りない作戦だが、アドリアーノ公の周辺を嗅ぎまわったりすればすぐに露見するだろう。貴族として、組織として格が違い過ぎるのだ。

 

 しかし、だからと言って、ギルバートには退くという選択肢はなかった。

 

 退いたところでアドリアーノ公は今まで通り手を伸ばして来るだろう。

 

 第一、エリーが狙われた時点で、既にギルバートにとって、アドリアーノ公は不倶戴天の敵となっているのだ。

 

 

 ゆえに、とにかくアドリアーノ公に連絡が行くまでに本人を捕まえたいのだが、シルバートゥースのボスを始末してから既に丸二日過ぎている。


 彼らが見張られていたとすれば、既にアドリアーノ公の知るところとなっているだろう。


 状況は良いとは言えないが、それでもギルバートは出来る限り、アドリアーノ公が迎撃準備を整える前に、叩きたかった。



 そんなことを考えながら、ほぼ全速力での飛行を続けていると、前方に小さく、リオーリアの街が見えてきた。

 

 シルバートゥースの連中の話では、貴族街で一番大きい邸宅がアドリアーノ公の住処だという。


 それは、空から見れば一目瞭然に判別できた。全ての邸宅が平民街の家々より遥かに大きい貴族街にあっても、なお格別に大きな邸宅があったのだ。

 

 アドリアーノ公はこのリオール領の領主でもあるが、領主の城にはほとんど戻らず、この大邸宅を拠点に動くらしい。




 ギルバートは地上の大邸宅を睨み、気合を入れなおすと、ケルに合図し、一気に降下して行ったであった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「公爵邸」

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