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城を辞す2

87 城を辞す2






 執務室を出ると、ギルバートはリンドヴァーン伯爵の側近であるゼファンの案内で、応接室にエリーを迎えに行った。

 

 エリーは先ほどの美少女と話をしていたが、挨拶もそこそこにエリーとケルを回収すると、ギルバート達はさっさと城を後にした。

 

 空を見れば時刻は既に夕方頃だと思われた。

 

 正直、ギルバートはすっかり腹を立てていたし、リンドヴァーンでの用件は全て済んだので、今すぐグレイヴァルに帰っても良かった。

 

 空を飛ぶなら、朝晩はまだ少し寒いが、躊躇するほどでもない程度だ。

 

 だが、見ればエリーは何やらぐったりしているし、斯く言うギルバートも精神的にかなり消耗していた。

 

 海賊みたいなおっさんの無茶ぶりや、手練れの護衛達による無言の圧力に晒され続けていたせいだ。

 

 結局、言葉少なにギルバート達は宿に戻った。そして、ギルバートとエリーは、帰るのは明日で良いか、という事で一致し、お互いに自分のベッドに倒れ込んだ。

  

 ちなみにケルはと言えば、城を出てすぐ、先ほど見せられた魔法石を何処にどう保管しているかを確認してくると言って、「認識阻害」の魔法と「消音」の魔法を発動し、城内に引き返して行った。

 

 

 動くのも億劫だったギルバートはそのままベッドでぐったりと突っ伏していたが、エリーは暫くすると起き出し、自分用の魔法石収納袋を作り始めた。

 

 と言ってもエリー用の魔法石はまだ二つしかないので、エリーは首飾りのように首から吊るすことにしたらしい。

 

 あっという間に小さい袋を二つ縫いあげると、その二つを縫い合わせ、首から吊るす為の紐を縫い付けた。そして嬉しそうに首にかけると、袋の部分を服の下に仕舞った。

 

 そのまま魔法石を首から吊った状態で、エリーはギルバートやベッドに「集塵」の魔法をかける練習をした。

 

 エリーも魔法の才能はなかなかのようで、何回か試すと、問題なく「集塵」の魔法と「水」の魔法を使い分けられるようになっていた。

 

 そして床にばらまいた水も自分で「集塵」の魔法を使って綺麗にした。

 

 

「……『集塵』の魔法は、オレも持っておきたいから、帰りに獲りに行ってもいいかな?」 

 

「もちろん、いいわよ♪……でも、同じのは獲れないんじゃなかった?」


「確かに昨日ケルはそう言ってたけど、『集塵』の魔法を獲った時は、何処にでもいるって言ってたと思うんだ。念のため、前獲った所とは違う森の清流に行けば良いと思う」


「へぇー、魔法石も色々なのね」

 

 エリーはそう言いながら、服の上から魔法石を触る。

 

 エリーに初めて『集塵』の魔法石を見せた時は、見た目があまり気に入らず、反応が良くなかったのを思い出して、ギルバートは少し可笑しくなった。

 

 そのままギルバートは、ゆっくり目を閉じる。自分が感じていた以上に疲れていたらしく、自然と瞼が下がっていった。突っ伏したままの姿勢も一因だろう。

 

 いつの間にかギルバートは眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

「起きろ。……おい、起きろ!」 

 

 

 知らない声に起こされてギルバートは目を覚ました。

 

 

「……はっ!冒険者のくせに、ぐうすか寝コケやがって。そんなんで良く今まで生きてたもんだ」


 ……誰だ……?

 

 ……エリーッ!?

 

 ……誰だこいつら!?エリーはどうした!?

 

 

 ボーっとしていた頭が急激にハッキリする。


「おーっと、動くな!何もするなよ魔法使い。ちょっとでも暴れたら、テメェの嫁がどうなるか分かるな!?」 

 

 気づけば、首に鋭い痛みを感じた。いつの間にか左右から拘束され、首に刃物を押し付けられている。どうやら、起き上がろうとして少し斬られてしまったようだ。

 

「……どうしたオラッ!聞けよ!嫁はどこにやった!?ってな!」 

 

 ……そんなこと、聞いてもしょうがない。攫われたのは今のこの状況でわかる

 

 ……ケルが帰って無いって事は、まだそんなに時間は経っていないはず……

 

 ギルバートは考えた。即座にこいつらを制圧して大丈夫だろうか。今は時間が命だ。何処に攫われたにせよ、すぐに追いかければ間に合うはずだ。

 

 だが、見張りや連絡係が居れば……確実にいるだろうが、制圧した瞬間、報復でエリーが害される可能性を否定できない。

 

 ……マズい、動けないぞ!

 

 ギルバートは急激に、焦燥感に苛まれ始めた。

 

 このまま時間が過ぎれば、エリーがどこへ連れていかれようと、最早、探し出すことは出来なくなるだろう。今すぐ動かなくてはならない。それなのに……!

 

 最低限、エリーの居場所が分かっていなければ、動いたところでエリーへ報復が行くだけだ。だが、動かなくてもこのままでは、いずれエリーは死んだほうがましな目に遭わされることになる。

 

 ……そんな事、絶対にダメだ!

 

 ギルバートはグッと歯を食いしばった。

 

 どうやらギルバートが動けない、動かないのを確認して、さっきから一人だけしゃべっている賊の男が口を笑みの形に歪ませる。

 

「そおぉ~だ、えらいぞ坊や!そうして大人しくしていれば、お前の大事な嫁さんは死にはしない」

 

 そして、さらに男の声は感極まったように上ずっていく。

 

「ま~あぁ!?次に会った時には、嫁さんの感じが普段と、ちょおぉ~っとばかし、違うかもしれねぇが、な?」 

 

 そう言うと男は「ギャハハハ」と馬鹿笑いした。周囲の男達も追随する。

 

 何故だか分からないが、物凄く憎まれているらしい。このリーダー格の男の目つきや行動から、自分への強い憎悪を感じた。同時に言い知れない恐怖に飲み込まれそうになる。

 

 ……ついにエリーを巻き込んでしまった。恐れていたことが起きてしまった

 

 ……とにかくエリーだけは、何が何でも無事に助けなければ!

 

 ……エリー!無事でいてくれ!

 

 ……エリー!

 

 ……エリーーッ!

 

 ギルバートは藁をも掴む思いで、「念話」の魔法を発動し、エリーに念話を送ったが、エリーからの返事は無かった。

 

 やはり一度眠りに落ちたため、繋いでいた「念話」の魔法が外れてしまっているようだった。

 

 ギルバートはいつの間にか、滝のような汗を流していた。

 

 こうなれば、もう、頼れるのはたった一人だ。

 

 ……ケル!

 

 ……ケルッ!

 

 ……ケルッ!エリーが攫われた!頼む、エリーを助けてくれっ!

 

 ……ケルッ!

 

 

 

 だが、ギルバートがいくら呼んでも、ケルから念話が返ってくることは無かったのだった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「偶然と追跡」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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