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条件

86 条件






 一方、エリーが美少女と二人で行ってしまったあと、ギルバートはリンドヴァーン伯爵と二人で残された。

 

 もちろん、壁際には護衛やゼファンという側近もいるので本当の二人きりではなかったが。

 

 念のため、ケルはエリーについて行ってもらった。

 

『任せろ』


 そして、今のところ、ケルの念話は問題なく届いている。

 

 ギルバートの「念話」の魔法も二人に繋いであるが、距離も安定度もケルの方が圧倒的に上なので、自分の方は念のための保険、くらいのものだった。

 

 

「それで、条件とは何でしょう?」


 ギルバートは単刀直入に聞いた。面倒な交渉は苦手なのだ。さっさと終わらせたい。

 

 それにもう、魔法石を見ることは出来たのだ。ケルの目的は果たされたのだから、正直、早く帰りたい。 

 

「……腹芸は苦手と見えるな。ならば、こちらも余計な言葉は省略しよう」


 リンドヴァーン伯爵がそう言うのを聞いて、ギルバートは内心、拍手喝采した。なかなか、話の分かる御仁だ、と。

 

 リンドヴァーン伯爵は、ジッとギルバートの目を見ると、少し溜めてからズバリ言い放った。

 


「……今の奥方と離縁して、ベルファームを嫁にしないか。それで、この魔法石は貴殿の物だ」

 

「お断りします」 

 

 ギルバートはすっかりドン引きしていた。直前まで、少し好感を感じ始めていたが、きれいさっぱり無くなった。

 

「話は以上ですね。ではオレはこれでお暇します」


 ギルバートがサッと立ち上がるとリンドヴァーン伯爵の護衛達がピクリと反応する。

 

 だが、両者をリンドヴァーン伯爵が制止する。

 

「まあまて、グレイマギウス伯爵。まずは私の希望を述べただけであろう?そのように短気では交渉になるまい」

 

「申し訳ありません、リンドヴァーン伯爵。そう言うお話でしたら、交渉の余地はありません」 

 

「いやはや、なんとも頑ななことだ。それほど奥方が大事かね?」


「当然でしょう?リンドヴァーン伯爵は奥様が大事ではないのですか?」


 ギルバートは困惑で眉を寄せ、軽く首を傾げる。 

 

「私なら、内実はどうであろうと、そのように露骨に感情を露わにはしない。自分の泣き所を自ら「攻めてくれ」と言っているようなものだからな」 

 

 リンドヴァーン伯爵がそう言って口角を上げる。そんな表情をすると、もはや海賊の首領にしか見えなかった。

  

 だが、ギルバートの目も据わる。

 

 一応、リンドヴァーン伯爵を格上として立てるよう振舞っていたが、今、その目は、いつでも「る」と言っていた。 

  

 気が付けば、いつの間にかリンドヴァーン伯爵の護衛達も全員、剣を抜いていた。彼らはモータル子爵の私兵や、これまでギルバートが撃退してきた賊とはハッキリと格が違った。 

  

『ギル、やめておけ。伯爵の護衛達は侮れんぞ。それに伯爵自身もただの老人ではないようだ』  

  

 一触即発の張りつめた空気が充満する中、ケルの念話がギルバートを制止する。

  

  

「……良い殺気だ。どうやら少し私が不躾過ぎたようだな」


 誰もがピクリとも動けない中、リンドヴァーン伯爵がそう言って両手を広げた。

 

 それを合図に、護衛達が剣を収め、壁際に下がる。いつの間にか、ギルバートはあと一歩の間合いまで詰められていたのに気が付かなかった。全員が恐るべき手練れのようだ。気づけば背中に冷たい汗が流れている。 

 

『アレは一応、伯爵の謝罪だ。ギルも一応、謝っておけ』 

 

 ……あれが謝罪?

 

 ギルバートは納得いかなかったが、リンドヴァーン伯爵のほうから引いてもらったのは間違いないと感じていたので、不承不承ではあるが、ケルに従う事にした。

 

「……失礼しました。伯爵のお言葉が受け入れ難いものでしたので、つい」

  

「ふっ。良い良い。お互い様だ」  

 

 リンドヴァーン伯爵は打って変わって、悪戯っぽく笑う。

 

「グレイマギウス伯爵が奥方を大変、大事にしているのは良く分かった。ならばそちらには口を出さん。代わりに二人目の妻にどうだ?アレは我が娘ながら顔も身体も格別に美しかろう?」

 

「いや、ですからオレはそう言ったお話は一切お受けできません」 

 

「何故だ。奥方にもベルファームにも愛情を注いでやれば良いだけではないか」 

 

「オレはエリー一人で十分なんです!」 

 

「今は良くても飽きが来るときはあるぞ?……いや、お互いに、だ」 

 

 ギルバートがまた剣呑な目になるのを敏感に察知し、リンドヴァーン伯爵が慌てて言葉を足した。

 

「エリーがオレに飽きることはあっても、オレがエリーに飽きることはないですよ!」 

 

「何故だ。若い時は、女が何人いようと持て余す事などあるまい?」 

 

「……恐れながら、伯爵様。今はもう、そのあたりで……」 

 

 

 何処まで行っても平行線なリンドヴァーン伯爵とギルバートを見るに見かね、リンドヴァーン伯爵の側近のゼファンが声をかけた。

 

 リンドヴァーン伯爵は納得いかないという顔をしていたが、腹心の部下の諫言には従った。

 

「……そうか、まあよい。グレイマギウス伯爵。この話はいずれまたとしよう」 

 

 リンドヴァーン伯爵はそう言ったが、ギルバートはもう二度とここには来ないと心に誓った。だが、言葉にはせず黙って頭を下げた。

 

「では、失礼します」


「ああ。息災でな。気が変わったらいつでも来ると良い」 

 

 

 

 ギルバートはその言葉を聞き流し、黙って踵を返したのであった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「城を辞す2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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