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魔法石

84 魔法石






 エリザベスは、ギルの背中に隠れながら、恐る恐るリンドヴァーン伯爵を見ていた。

 

 ……どう見てもアレ、ギルを威圧してるよね?

 

 感じが悪いなんてもんじゃなかった。エリザベスは、伯爵が今にも殴りかかってくるんじゃないか、と思ったほどだ。

 

 

「お初にお目にかかります。ギルバート・フォルダー・グレイマギウス伯爵です。よろしくお見知り置きを願います」 

 

 だが、ギルは伯爵の、そんな剣呑な視線など意にも介さないように挨拶を返すと、エリザベスを自分の隣に引き寄せた。

 

「彼女は妻のエリザベス・アローズ・グレイマギウスです。そして、この大きい鳥は魔獣で、私の従魔です」


「……エリザベス・アローズ・グレイマギウスと申します。よろしくお願いいたします」


「ケェエエエエエエエエエッ!」


 エリザベスが、紹介を受けて挨拶すると、ケルが鳥っぽい声で豪快に鳴いた。ケルは鳥型魔獣を演じるようだ。


 リンドヴァーン伯爵は、それからしばらくギルを睨め付けていたが、フッと眼力を和らげた。とは言えその双眸は変わらず鋭かったが。

 

「……ふむ。グレイマギウス伯爵はなかなか鍛えが入っているようだな」 

 

「はぁ。一応、鍛錬は行っております。ほぼ自己流ですが」 

 

 ギルは良く分からないといった表情で答えている。リンドヴァーン伯爵の威圧などどこ吹く風、それどころか威圧されたとも思っていないようにも見える。

 

 そんなギルを、エリザベスは常々頼りになると感じていた。

 

 元々ギルはあまり動じない。他人に対しては特に。

 

 ギルが慌てた顔をしている時は、大抵、エリザベスを心配している時だ。そう思うと、悪いと感じるし、もっとしっかりしたい、役に立ちたいと思うのだった。

 

 

 リンドヴァーン伯爵の視線が、エリザベスを捉える。一瞬、緊張感が高まったが、伯爵はすぐにケルに視線を移した。

 

「……大きいな」

 

 リンドヴァーン伯爵はケルを見上げて、小さく笑みを浮かべる。口元が少し変化しただけだったが、その顔は驚くほど優しげだった。

 

 ……リンドヴァーン伯爵も、不思議な人ね

 

 エリザベスは、今度は少しだけ興味深くリンドヴァーン伯爵を観察した。

 

 顔に刻まれた深い皺や傷、鋭い目つきとがっしりした体格のせいで、非常に恐ろしく感じたが、意外に愛嬌のあるおじさんではないか?とも感じて始めたエリザベスだった。

 

 

「……それで、リンドヴァーン伯爵、早速ですが、手紙に書いてあった魔法石を拝見したいのですが」 

 

 ギルが、色々すっ飛ばして、用件をズバッとぶつけた。ギルはさっさと帰りたいようだ。そう顔に書いてある。

 

 リンドヴァーン伯爵は、ケルから視線を外すと、フッと笑った。

 

「まあ、そう焦らずとも良いではないか。無論、魔法石はお見せしよう。ゼファン!」


「は。只今」


 リンドヴァーン伯爵が指示を出すと、ここまでエリザベス達を案内してくれた男が一礼し、執務室を出て行った。

 

「まあ、掛け給え。今、茶など進ぜようほどに。無論、魔法石も今、持ってくるのでな」

 

 そう言われては、座るよりほかになく、エリザベスはギルと共に、豪奢なソファーに腰を下ろした。

 

 すぐにお茶とお菓子が振舞われ、二人は遠慮なく頂いた。

 

 流通の盛んな港湾都市らしく、見たこともない華やかな装飾のお菓子は、味も申し分なく、お茶もお菓子によく合っていて、美味しかった。

 

 リンドヴァーン伯爵はケルがお気に召したらしく、惚れ惚れと眺めている。ギルもお茶とお菓子を食べ終えたあとはジッとして微動だにしないので、特に会話もなく、静かな時間が過ぎて行った。

 

 こういう時、自分が話を振れば良いのかもしれない、と思ったが、そう言うのは正直、あまり得意ではないので、エリザベスも無理はしなかった。

 

 

 暫くして、執務室の扉が開き、煌びやかな宝石箱を抱えた美女が、ゼファンと呼ばれた男に案内されて入室してきた。

 

 良く見れば、美女、というより美少女かもしれない。ともかくその女は、宝石箱と同じくらい豪華なドレスを纏い、そのドレスにも負けないほど美しい顔と体形を備えていた。

 

 ……うひゃーっ!ブリュンヒルデ様とどっちが綺麗かしら!?

 

 ……さすが上級貴族のお嬢様だわ!

 

 エリザベスが思わず気後れしてしまった時、美少女が自分をみて優し気に微笑んだ。

 

 思わず笑みを返したが、エリザベスは依然、落ち着かなかった。

 

 

「さあ、グレイマギウス伯爵様、手に取ってご覧下さいませ」 

 

 エリザベスが気後れしている間に、美少女が宝石箱を開け、小さな台座ごと魔法石を取り出す。そしてそのままギルに向って差し出した。

 

 ギルが確認するようにリンドヴァーン伯爵を見ると、リンドヴァーン伯爵は小さく頷く。

 

 それを受けてギルは金色に輝く透明な魔法石を手に取った。

 

 ……ケル、どうだ?なんの魔法石か分かるか?

 

 その瞬間、ギルの声が頭に響いた。どうやら念話が繋がっていたらしい。

 

 という事は、さっき頭の中でバカ騒ぎしてたのも、伝わってしまったのではないだろうか?

 

 と言うか、これまではどうだっただろう?くだらない考えや恥ずかしい妄想までダダ洩れになってやしなかっただろうか?

 

 そう考えると、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 

 成る程、ギルはずっとこんな感じだったのか、とエリザベスは初めて少し前までのギルの気持ちを実感した。 

 

『うむ……これは懐かしい魔法石を見た。もちろん分かる。これは「木魂」の魔法石だ』 

 

 ……えっ!?

 

 ケルの声が告げた内容に、ギルが激しく動揺した。

 

 ギルの動揺は顔にも少し漏れだした。それはリンドヴァーン伯爵にも伝わったようで、片眉が僅かにピクリと持ち上がった。

 

 

 そんなに凄い魔法石だったのだろうか。とは言え魔法石は、どの魔法石も凄く希少で貴重ではあるのだが。

 

 

 その時、リンドヴァーン伯爵がギルを見ながら口を開いた。

  

「……ふむ、どうかね。グレイマギウス伯爵。その魔法石を己の物にしたいとは、思わないかね?」

 

「えっ?」

 

 他人に対して、あまり動じないギルが今、激しく動揺している。どうやら相当、貴重な魔法石だったようだ。

 

 だが、そうであればあるほど、そんな簡単に貰えるはずはないのはエリザベスにもわかる。


 


 エリザベスは急激に、嫌な予感に苛まれ始めたのだった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「ベルファーム」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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