配分2
82 配分2
「……ねえ。二人は全部使えるっぽいし、あと一つずつ同じの獲ったら良いんじゃない?」
魔法石の配分を考えていると、エリーがふと、そんなことを言う。
『エリーよ、それは、ほぼ無理なのだ』
すかさず、ケルが答えた。
「なんで?」
『左様。それは同じエリアに、同じ魔法石を持つ魔獣同士は共存しないことが殆どだからだ。同じ魔法を持つ魔獣は、ほぼ同種の魔獣だが、普通なら同種の魔獣は縄張りを分け合うので繁殖期くらいしか接触しない』
「ふむふむ?」
ケルが解説を始めると、いつも通り、エリーがすかさず聞く態勢になった。
『ところが魔法石を持っている魔獣が、同じく魔法石を持つ魔獣の存在を察知すると、魔法石を奪って取り込むため、命がけの戦いになる事が多い。特に同種の魔法石を持つもの同士では確実に戦いになる』
『それは、同種の魔法石を取り込むと、魔獣は一気に数段階、強く成れるのを知っている為かもしれんし、単に同じ力を持つ不倶戴天の敵同士だからかもしれん』
「なるほどねー」
エリーがケルの解説に、ほーほーと頷いている。
『つまり、今から同じ狩場を巡ったところで魔法石は手に入らぬし、時間が経っても、同じ魔法石を持つ魔獣が、同じ狩場を縄張りとするかどうかは分からないのだよ』
「そうかー残念」
ケルが解説を終え、エリーは残念そうにため息を吐いた。
そんなこんなで、ギルバートとケルはお互い、サクッと希望を出し合い、ギルバートが「土」「硬化」「念話」を、ケルが「消音」「暗視」「認識阻害」を持つことになった。
まあ「持つ」と言っても、ケルの場合、早速魔法石を食べ、さっさと体内の魔法石に吸収してしまったので、ギルバートが必要な時、ちょっと借りる、などという事は出来ないわけだが。
「……それで、次は何の魔法石を獲りに行くの?」
「グシックトから情報を買ったダンジョンは、今日で全部回り終わったんだよ」
「そうなの。じゃあまた明日買いに行く?」
「先日、あるだけ買ったからな。まだ持ってると良いけど」
そう。グシックトが知っているダンジョンの内、魔法石を持っていそうな魔獣が棲息しているダンジョンの情報は全部買った。
グシックトが隠してるダンジョンでもない限り、この辺りではもう魔法石は獲れないだろう。
「……まあ、念のため聞きに行ってみようか。ついでにリオーリア周辺のダンジョン情報もあればあるだけ買っとこう」
「えー……でも……あっちは『あの』森があるからな……」
そう言って、エリーが渋い顔をした。領都リオーリアの、西の大森林地帯の古戦場跡で、「念動」の魔法を獲った時、エリーは死ぬほど怖がっていた。
あれ以来、トラウマになっているらしく、エリーは、リオール領方面へはあまり行きたがらないのだ。
「まあ、目標のダンジョンがあの森にあるとは限らないし」
ギルバートは極力、エリーを刺激しないよう、出来るかぎり何でもない風を装って言ってみる。
「……それに、また何か使える魔法が増えるかもしれないよ?」
だが、その言葉は、ギルバートの予想以上にエリーを強く刺激した。
「そうか、そうよね!……わたしももっと、こう、ばーん!と攻撃できるのとか、みんなを守れる感じのやつが欲しいわ!」
一転、エリーの憂いは消え去り、希望(物欲?)で輝き始めた。
だが確かに、エリーが自分の身を守れる感じの魔法を使えると、ギルバートも安心出来る。
「よし、そうと決まれば、明日またグシックトから情報を買いに行くか」
「決まりー!」
『了解だ』
そうして、配分会議も終了し、ギルバートとエリーは就寝した。
あちこち飛び回り、おいしい料理をたっぷり食べていたので、二人とも、あっという間に眠りに落ちた。
一方ケルは、眠っているのかいないのか。ベッドの柱の天辺に留まり、目を瞑っていたのだった。
☆
そのころ、シルバートゥースの本部で、ガルムは荒れに荒れていた。
長年かけて集めた、小洒落た家具や調度品を次々と剣で斬り付け、蹴りつけ、投げ飛ばした。
簡単で実入りの多い、おいしい商売だったはずだった。
魔法使いと言った所で、たかが成人前後のガキ一匹だ。そいつの女を攫って調教してしまえば、あとはその女を餌に、魔法使いを如何様にも操れる筈だった。
たかがそれしきのことで、大金が手に入る。魔法使いと女をセットで売る事になっても、やはり唸る程の金が入るし、女だけ売れ残ったとしても、無駄にはならない。
どう転んでも損のない商売であるはずだった。
それが、今、現実にはグレイヴァルの支部を丸ごと潰され、大口の客の信頼を失いかけている。
アドリアーノ公の信頼を失わない為、次の注文は確実にこなさなくてはならない。
だが、あの魔法使いは非常に厄介だった。
一応の本拠地と目される屋敷は、いつも留守。
罠は仕掛けられるかもしれないが、商品を殺してしまうわけにもいかないし、さりとて非殺傷の罠が、魔法使いにどこまで効くか分からない。
そして一度失敗すると次の機会は難しいだろう。
今回の事で、魔法使いを警戒させてしまったため、女に手を出すのも難しくなった。
と言って、魔法使い本人を殺すような仕掛けはやはり出来ない上、常に移動しているらしく、居場所がさっぱりつかめないため女をあてがうことも難しい。
そしてグレイヴァルの街の警戒度が増した。一見しただけでは分からないが、警備がかなり厳重になっており、グレイヴァルの街では動きにくくなってしまった。
……それでも、やるしかない
ガルムは顔を上げ、乱れる呼吸を沈めながら虚空を睨みつけた。
その時、部下が駆け込んで来て、ガルムが怒鳴りだす前に報告を始める。
「魔法使いの目撃情報が入りました!数日前から、リンドヴァーンにいるようです!」
ガルムは、カッ!と目を見開いた。
「動ける奴を集めろ!今すぐだ!」
「へいっ!」
報告に来た部下が、すぐに部屋を飛び出して行く。ガルムは部下が出て行った後も、そのまま扉を睨みつけていた。
その双眸には、視線だけで人を殺せそうな凄絶な光を宿していたのであった。
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本日、3話目、ラストです。明日からは毎日1話ずつ更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「リンドヴァーン伯爵」
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