ダンジョン巡り2
80 ダンジョン巡り2
「水」の魔法石を得たギルバート達は、一旦、リンドヴァーンに戻って宿を取り、魔石を売ると、ダンジョン巡りを続行した。
グシックトから買ったダンジョン情報は、リンドヴァーンから日帰りで行けるモノばかりだったが、それはあくまでギルバート達であれば、という但し書きが付く。
「飛行」の魔法がなければ、一番近い、巨大蛭がいた巨木の森のダンジョンですら、日帰りなど望むべくもなかった。
普通の下級、中級冒険者が不眠不休で歩き続けると仮定した場合。早朝に出発し、翌日の早朝までに往復して帰って来られれば御の字と言った所だろう。もちろん、ダンジョンに潜る時間は考慮せずに、である。
ギルバート達が、毎日精力的にダンジョンを巡り始めて七日ほど経った頃、三人の手元には新しい魔法石が、「水」の魔法石を含めて七つ集まっていた。
・「水」の魔法石
一番近い巨木の森のダンジョンで、巨大蛭から獲得。薄い水色の透明な魔法石。
素材は、大小の魔石を多数獲得。良い値で売れた。魔法具を持つ貴族が大量に買うらしい。
・「土」の魔法石
北の山岳地帯で、岩に擬態する巨大貝から獲得。琥珀色の透明な魔法石。
この魔獣は、自分が擬態する岩の傍で足を止めた獣や冒険者を、「土」の魔法で捕らえて生き埋めにした後、じわじわと養分を吸い取って捕食する。
ケルが擬態を見破り、ギルバートが一気に火で炙って焼き貝にした。
素材は採れず。焼いてしまったので肉は自分達で食す。当然の如く美味だった。
・「硬化」の魔法石
やや遠いが、東の森林地帯の奥地、巨木の森にある水辺のダンジョンで巨大蛙から獲得。灰色の透明な魔法石。
この魔獣は水辺に潜み、水面から顔を出すと、口から細い水流を噴射し、「硬化」の魔法で水流を硬化させ、獲物を串刺しにする。
恐ろしい魔獣ではあるが、ギルバートが「結界」の魔法の盾で防御を担当し、ケルが「念動」の魔法で捕らえ、頭を捻り潰すコンビネーションで撃破。
素材は脚肉のみ採取。グレイヴァルより都会なだけあって、かなりの高額で売れた。
・「認識阻害」の魔法石
海辺のダンジョンに現れる霧の魔物から獲得。銀色の透明な魔法石。
ダンジョンに迷い込んだ獣、人間、種別を構わず纏わりつき、犠牲者が気付かない間に、体内に浸透し徐々に養分を吸い取る。
普通の人間では認識するのはほぼ不可能だが、ケルが微かな魔力の動きで察知。ギルバートが「火」の魔法で蒸発させた。
素材は採れず。
・「消音」の魔法石
海辺のダンジョンに現れる巨大蝙蝠の魔獣から獲得。通称「吸血鬼」。乳白色の不透明な魔法石。
音もなく飛び掛かり、獲物を包み込むと同時に牙を突き刺し、瞬時に即効力のある強力な麻酔液を送り込んで自由を奪った後、血液を飲む。
普通の人間が接近を察知するのは難しいが、ケルが微かな魔力の動きで察知。ギルバートが「結界」の魔法の盾で防御。ケルが「念動」の魔法で捕らえ、頭を捻り潰すコンビネーションで撃破。
素材は翼の皮膜と魔獣肉。高額で売却。
・「暗視」の魔法石
海辺のダンジョンに現れる巨大海蛇の魔獣から獲得。暗灰色の不透明な魔法石。
住処は海にあるが、狩りでは海辺の洞窟に迷い込んだ獣や冒険者を狙う。水際に潜み、近づいた生物に一気に飛びついて丸呑みにする。
ケルが察知してしまえば、大きいだけで、ギルバートにとっては怖い魔獣ではなかった。「身体強化」の魔法で強化し、飛びついて来たところで首を一刀両断にした。
素材は大量の海蛇の皮と魔獣肉。一度に運べないのでぶつ切りにし、ギルバートが数度に分けて往復した。持ち帰った皮と魔獣肉はまとめて冒険者ギルドに持ち込んだ。意外に高額で売却。
・「念話」の魔法石
そしてついに、西の森林地帯の間にある平原で、一角馬から入手した。緑の透明な魔法石。
あまり好戦的ではない魔獣で、発見してもすぐ逃げてしまったが、「飛行」の魔法で空から追跡。一気に接近して「身体強化」の魔法で首を一刀両断にした。群れで動く魔獣であるが、「念話」の魔法石を持っているのは群れのリーダーのみらしく、リーダーが死ぬと、また別の個体に魔法石が生れるという。
素材は角と皮、魔獣肉。超高額で売れた。
ギルバートが「身体強化」の魔法に慣れてきた事もあり、今までより数段危険で難度の高い魔獣や魔物からも魔法石を獲る事が出来るようになってきた。
その上、ケルと分離してから魔法使い二人で協力出来るようになったのはとても大きな変化で、ギルバート達の戦力は大幅に向上していたのだった。
この七日ほどで随分と儲かったのでギルバート達は、その日、素材を売却した後、冒険者ギルドが魔獣肉を卸しているという高級料亭で、たっぷりと魔獣肉の料理を堪能したのだが、食後、店を出る時に少しだけひと悶着あった。
最近、短期間で大量の魔獣肉を売却していたので、冒険者として、リンドヴァーンでも多少、名が売れ始めたらしく、ギルバートは生れてはじめて「お代は結構です」などと言われてしまったのだ。
ギルバートは一瞬、どうすれば良いか迷ったが、ケルが『只より高い物はない』という念話をよこしたので、一応、丁重にお断りした。
だが結局、多少の押し問答の末、最終的に半額ほどになってしまったが、頑なに断るのも感じが悪いので、ギルバートはそのあたりで手を打った。
食事を終え、借りている宿の部屋に戻ると、ギルバートのベッドの上に三人で集まり、ここ最近で入手した魔法石をずらりと並べた。
「……壮観だねぇ♪」
「本当に……」
『ギルもエリーも、よく頑張っていたからな』
「うーん、正直わたしはついて回っただけだったけどねー」
エリーが少し残念そうにそんなことを言ったので、ギルバートはここぞとばかりにアピールする。
「エリーが居てくれるだけで、オレは心強いよ!」
ここ最近の気まずい感じが、やっと薄れてきているので、ギルバートの目には告白した時以来の熱が籠っており、顔も耳も真っ赤になっていた。
「そ、そう?だったら良いんだけどね」
エリーも確実にその熱を感じ、顔を赤くしたが、残念ながら今はタイミングが悪かった。
『……二人とも、某も邪魔はしたくないのだがな、今はより重要な案件があるのではないか?』
「ご、ごめん!」
「そ、そんなつもりは……」
エリーとギルバートが、アタフタと慌てて居住まいを正す。
『事が落ち着いたら、某は夜は狩りにでも出ている事にしよう。それゆえ、二人とも、しばらく辛抱してくれ』
「いやいやいや!」
「そ、そ、そんな気遣いは、い、いらないからっ!」
ケルの空気を読んだのか読まないのか分からない発言を、ギルバートとエリーは二人して真っ赤になり、慌てて否定した。
そんな二人の慌てっぷりなど、見てもいないと言わんばかりにスルーすると、ケルは淡々と本題の会話を進行していく。
『では、まずは……』
「う、うん、まずはエリーの適性判定からだ!」
「り、了解です!」
二人はぎこちなく言い合ったが、ようやく集中力を取り戻してきた。
「はぁ……前回は『集塵』の魔法石だけだったんだよね」
『それでも奇跡的だと思うぞ、エリーよ。ギルの連れ合いが偶然、魔法使いである可能性など、計算するまでもなく、ほぼ有り得ない確率だ』
「……そう言われると運命的なものを感じるな」
『そう言った所で、決して大げさではないな。ギルよ。それ程の有り得なさだ』
三人は改めて交互に顔を見合わせた。
「じゃあ、一つずついくよ」
「うん」
『了解』
そう言って一度だけ深呼吸すると、エリーは、魔法石に一つ一つ、触れていくのだった。
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本日、1話目。3話更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。
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次回予定「配分」
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