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ダンジョン巡り

79 ダンジョン巡り






 領都リンドヴァーンの屋台で早めの昼食を済ませたギルバートとエリーは、さっそくグシックトから買い込んだ情報を基に、片っ端からダンジョンを巡って行った。

 

 グシックトは腕利きのダンジョンシーカーのようで、彼の情報は新鮮なものが多い、とギルバートは感じていた。

 

 その証拠に、グシックトの寄越す情報で訪うダンジョンは、出来てからあまり年月が経っていない若いダンジョンが多く、その分、詳細情報は少ないが、内部構造が単純で、魔法石が目的のギルバート達にはとても都合が良かった。

 

 

「ここは、何の魔法石が獲れるの?」


「ここは、待望の『水』の魔法石だよ。水蛭っていう巨大蛭がいるらしい。かなり危険な奴だから離れないで」 



 とりあえず、三人は、グシックトから得た情報の中で、リンドヴァーンの街から一番近い、森林地帯の巨木の森のダンジョンに来ていた。

 

 この巨木の森で発生した初のダンジョン、というわけではないため、地形は過去のダンジョンの興亡によって起伏に富んでいる。

 

 そんな起伏の途中にポッカリと、ダンジョンが口を開けていた。

 

 このダンジョンもグシックトから買った情報のご多分に漏れず、若いダンジョンで、枝分かれした支道はすぐに行き止まりになっており、実質、やや上りの一本道だった。

 

 火蜥蜴がいたダンジョンと違い、壁も天井も地面も鋭い岩肌に覆われており、少し転んだだけでも傷だらけになりそうだった。

 

 ダンジョンの一番奥はやはり少し大きい空間が広がっており、壁や天井の岩肌にはいくつもの大きな裂け目があった。

 

『来た』


「任せろ!」


 ケルの合図で、ギルバートが「結界」の魔法を発動し、三人の周囲を瞬時に大きめの魔法の盾で覆った。

 

 魔法の盾は半球形をしており、このダンジョンの最奥の空間いっぱいに広がった。

 

 その魔法の盾の外側に巨大な蛭と、大小の無数の蛭達が落ちて来る。咄嗟に発動したせいで魔法の盾の属性が反射ではなく、ただ攻撃を止める防御になっていたため、蛭達はどんどん魔法の盾にへばりついて、表面で蠢きだした。

 

「うぇ……き、気持ち悪い……」 

 

 うねうねと蠢く蛭達を見て、エリーの顔が真っ青になっている。早く始末しないと、エリーが「吐いて」しまうかもしれない。そうなると大惨事だ。

 

「ケル、オレが始末するから、エリーを頼む!」


『了解!』 


 ギルバートはケルの返答を聞くや否や、魔法の盾の内側ギリギリに、僅かに小さい魔法の盾を成型した。属性はもちろん反射だ。

 

 それから外側の魔法の盾を消すと、蛭達は内側の魔法の盾の上に落ち、反射属性に弾かれてダンジョンの壁と魔法の盾の隙間にボトボトと落ちて積み重なっていった。

 

 ギルバートは魔法の盾を消すと、「火」の魔法を発動し、扇状に噴射する火柱でどんどん蛭達を焼却処分していく。

 

 声にならない悲鳴のように、蛭達が身体を激しくくねらせ、焼けて縮んでいき、後には黒くなった燃えカスと、大小の薄い水色の魔石が山の様に転がっていた。

 

 

『ギル!上だ!』



 ケルの叫び声で上を見ると、巨大な蛭が天井に張り付いた状態で、魔法を発動しようとしていた。巨大蛭の周囲にいくつもの水の玉が浮かんでおり、その表面は細かく波立っている。

 

『結界を!』


 ギルバートはケルの声に従い、即座に魔法の盾を成型しなおす。

 

 次の瞬間、数本の水柱が魔法の盾にぶつかって表面を濁流となって流れ落ち、あっという間にダンジョンを満たしていった。

 

 危ないところだった。気づかないでいれば、あの濁流に飲まれて溺れるか、水柱に圧し潰されるか、いずれにせよ命が危なかっただろう。

 

 

『……若い個体にしては、大した魔力だ』 

 

 ケルが冷静に巨大蛭を品評する。だが、この状況はマズいのではないだろうか。このままでは直ぐに空気が薄くなる。

 

 そうしている間に、ダンジョンはすっかり天井まで水で埋まり、ギルバート達は完全に水没してしまった。

 

「おい、ケル、このままじゃ、そのうち、息が……」

 

 ギルバートが焦り気味にそう言いかけたが、それに対しケルの答えは簡潔だった。

 

「任せろ」


 

 ケルは翼を広げるとバッサバッサと天井付近まで飛び上がり、魔法の結界の内側ぎりぎりで滞空し、魔法を発動した。

 

 次の瞬間、巨大蛭が天井から剥がれ落ち、水の中をフワフワと下降すると、魔法の盾に接触して弾かれた。

 

 

「……どうなった?」



 ギルバートがそう言ってケルを見ると、ケルの鳥型の頭の横には薄い水色の魔石が浮かんでいる。

 

 

『無事、獲得した』



 そう言って、ケルは二人の元に飛んで戻ってきた。

 

「え、それ魔法石?蛭は?」


『無論、魔法石を抜いたのだ。死亡しておるよ』


 エリーの質問に、ケルが淡々と答えている。

 

 その答えを聞いて、ギルバートが改めて巨大蛭を見ると、巨大蛭は自分が生み出した水の水流で、ダンジョン入口の方へフワフワと流されていた。


 

 聞けばケルは、「念動」の魔法の腕で、生きたまま、魔法石を抜き取ったらしい。

 

「ケル、すごいね」 

 

『造作もないことだ。攻撃に専念できたのでな』


「おー!」 



 ケルとエリーが話をしている間も、どんどん水が引いていく。ダンジョンの外に流れ出て行くようだ。

 

 壁や天井を見れば、小さな蛭がたくさん張り付いている。全部殺したかと思ったが、そうでもなかったようだ。

 

 

「……とりあえず、魔石を拾って外に出るか」


「そうだね」


『了解だ』



 ギルバートはかなり水位が下がったところで「結界」の魔法を解除した。

 

 そして三人は大小様々なサイズの、薄い水色の魔石をさっさと拾い集め、ダンジョンを脱出した。ギルバートとエリーはザブザブと水をかき分けながら、ケルはちゃっかりギルバートの肩に留まって。

 

 ダンジョンの外に戻ってくると、小さな川の様に、まだ水がちょろちょろと流れている。

 

 そしてその水の通り道は、少し森の地面が抉れており、周辺には獣の骨と一緒に、人骨と思しき骨が幾つも転がっていた。このダンジョンで蛭達の犠牲になった獣や冒険者のものだろう。

 

 三人は一応、身元が分かりそうな物を探してみたが、そもそも骨以外は何もなく、その骨すら全部そろっているわけでもないので、それ以上の捜索は中止した。

 

 

 その後、ケルと相談して、とりあえず有用な魔法石をどんどん獲って行き、配分はあとで相談しよう、という事になった。

 

 

「……じゃ、次行こう!」 

 

 

 

 ギルバートの号令で、三人は次の目的地に向かって、空へ舞い上がったのだった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「ダンジョン巡り2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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