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急襲3

74 急襲3






 そこは平民街では数少ない、高級住宅が立ち並ぶ一角だった。

 

 アンナおばさんの家も庭付きで、平民街としてはかなり大きいが、この一角は桁が違った。

 

 貴族街ほどではないが、ギルバートやエリーの実家とは比較にならないほどの豪邸が立ち並んでいる。

 

 その中の一軒の豪邸の上空で、ギルバートとケルが待機し、突入前の軽い申し合わせを行っていた。

 

 

「……何か、聞いてたよりかなり数が多いな」 

 

 

 さすがに自分達が悪行を行っていると自覚しているらしく、目標の豪邸は警備が厳重だった。

 

『おそらく、奴が白状したのは隊長クラスの名前だろう。当然、それぞれに部下を持っているということだな』


 なるほど。だが、逆に言えばそいつらは上さえ潰せば、ただのチンピラだということだ。


「……まあいい。一気にいくぞ」


『了解だ』



 ケルの心強い応えを受け、ギルバートは豪邸を「結界」の魔法の盾で丸ごと覆った。属性は反射で。ただし、盾の効力は内部に向かうイメージで成型した。もちろん、誰も逃がさない為だ。


 いつもは自分とエリーを囲う程度の魔法の盾しか作った事は無かったが、豪邸を丸ごと囲うほどの巨大な魔法の盾を、ギルバートは初めてでも、一回で成型することに成功した。

 

『見事だな。これ程大きくとも、しっかり安定している。ギルの魔法の腕はもともと確かだが、ますます上達しているようだ』 


「ありがとう。これでも大して魔力を消費してないんだ。本当に腕が上がったかもな」


『何事も、熟練次第だからな。これからも習練を怠らないことだ』


「もちろん」


 ギルバートと鳥型魔獣はニヤリと笑いあうと、魔法の盾の内部へと降下した。

 

「なっ……!?て、敵襲っ!」


「敵襲だーーーーーーっ!一班、取り押さえろ!その他各班、後詰に回れ!貴様は上に報告を!」


 警備の兵たちは、ギルバートに誰何することもなく、即座に戦闘態勢に入った。 

 

 数名が直ちにギルバートに駆け寄ってくる。

 

 ……きびきびとした良い動きだが、巨大猿共に比べたら欠伸が出るなっ!

 

 ギルバートは切り札である「身体強化」の魔法石に魔力を注ぐ。すると魔力は魔法石を通して全身に薄く広がり、ギルバートはあっけなく人間を凌駕していく。

 

 やっとギルバートの許にたどり着いた最初の警備兵が、防具ごと胸骨をバキバキに粉砕されて吹き飛んだのを皮切りに、一班と呼ばれた第一波の者達は、各々一発ずつ殴られ、意識不明の重体、戦闘不能状態に陥った。


 その間、ギルバートはその場からあまり動いていないが、両の拳は警備兵たちの目に、人数分の残像を焼き付けた。


「怯むな!二班三班も掛か…………!?」 

 隊長らしい男が続けて指示を出すのと同時に、ギルバートは「身体強化」の魔法石にさらに魔力を注ぎ込むと、その隊長らしい男に一気に近づき、彼の顎を下から拳で突き上げる。


「カシュッ!」という軽い打撃音。感触はほとんど感じない。だが、その一撃で隊長らしい男の顎は砕け、血と折れた歯を噴き上げていた。


 その後、現場の最高責任者を欠いた残りの二つの班の隊員達にも一撃ずつ喰らわせてゆき、二十人ほどの警備兵全員を戦闘不能にするのに一分も掛からなかった。


「……やっぱり人間相手に『身体強化』の魔法は使いづらいな。殺さない様に加減するのが難しいくらいだ。完全に対魔獣用だな、これ」


『ギルが元々、身体を鍛え上げているせいだな。某が使ってもこれほどの結果にはならんよ』


 という事は、「身体強化」の魔法を使う者が強ければ強い程、「身体強化」の魔法によって強化される割合が大きいということか。


「……ってことは『身体強化』の魔法なら、オレはケルに勝ってるってことか?」


『圧倒的に勝るな』


 ……おおーーーーーっ!何か嬉しいぞ♪



 ケルより勝る部分が一つでもあったことに、ギルバートは驚きと、喜びを隠せなかった。


 ケルが分離してから、ギルバートは薄々感じていた。事あるごとにケルの有能っぷりを見るにつけ、ケルは自分より遥か上位の存在だったんじゃないか、と。


 そう思った根拠は、ケルと魔力回路で繋がっていた時、ケルはギルバートの思考をほぼ完全に読むことが出来たのに対し、逆にギルバートがケルの思考を読むことは全く出来なかった事だ。


 実は、ケルが言っていた「優先順位」の話も、本当はケルのほうが優先順位上位だったのではないか、と思う事もあった。


 ケルが良い奴じゃなかったら、ギルバートは鳥型魔獣の代わりに、ケルの憑依のための依り代だったかもしれない。そう思うと、ちょっと……かなり恐ろしい。

 

 ……本当に、ケルが良い奴で良かった

 

 

 ギルバートはそんな思考を中断するとまず、庭にあった小屋の中に誰も居ないのを確認し、「火」の魔法で燃やして、狼煙のろし代わりにした。これでじきに、領主様の警備兵が来るだろう。

 

 次にギルバートが豪邸の正面玄関の大扉の前に立つと、ケルが「念動」の魔法の腕で、大扉を建物内部に向って吹き飛ばした。


 内部に待機していた残りの警備兵たちが一斉に矢を放つが、ギルバートの小規模な魔法の盾に当たって、全ての矢がはじけ飛んだ。


 ギルバートとケルが移動するにつれて、警備兵たちが立っている場所から引っこ抜かれ、対面する壁に高速で激突していく。

 

 警備兵たちには見えないが、もちろんケルの「念動」の魔法の腕による所業だった。

 

 二人の魔法使いは通り抜けざま破壊の限りを尽くし、彼らが通った後に、まだ動ける人間は一人たりとも存在しなかったのだった。



 そしてギルバートは玄関ホール正面の豪華な階段をゆっくりとあがり、二階ホール正面の、一番大きくて豪奢な大扉の前にたどり着いた。中からは人の騒めく気配がしている。


 ギルバートは大扉を開けて、躊躇なく室内に乗り込んで行く。そして中に居た、どう見ても裕福そうで偉そうで悪そうな人間達を、「重力視」の魔法で一気に限界直前まで圧迫する。

 

 床に押さえつけられた支部の支配層の人間達を縄での拘束に切り替えるため、ギルバートが一歩二歩と近づくと、大きく開いた大扉の陰に隠れていた二人の人間が、背後から剣で斬りかかってくる。


 だが、鳥型魔獣の視界はほぼ全周、三六〇度だ。襲撃者が剣を振り下ろす前に、ケルが「念動」の魔法の腕で捕まえ、さっさと壁に投げつけて、戦闘不能にした。



「……こんにちは。オレは君たちに妻を狙われた者です」



 ギルバートは重力に喘いでいる、シルバートゥースの支配層の人間達に、そのまま話しかける。


「君たちのような人間が反省し、心を入れ替えることは無いと思っています。何故なら、君たちのような酷い行いをした者が心を入れ替えてしまうと、それまでの自分の行った罪の重さに耐えられず、死をもって償うしかなくなるからです。君たちが今生きているという事は反省していないという事。だからオレが生きている君たちを許すこともありません」


 シルバートゥースの支配層の人間達は、聞いているのか聞いていないのか、ただ苦痛の呻き声を上げ続けていた。

 

「君たちに選べる選択肢は三つ。拷問の末、何も喋らず死亡する道、洗いざらい知っている事を喋って、領主さまに裁かれる道」


 ギルバートは一息入れて、更に続ける。

 

「もう一つは、洗いざらい話してみたら、やはり許せない事実が発覚し、死亡する道……どれを選ぶにせよ、屋敷のほうは領主様が何とかしてくれるだろうから、君たちはまず、オレと一緒に空を飛ぼうか」 


 ギルバートがそういうと、ケルが「念動」の魔法の腕で部屋の壁を吹き飛ばし、ぽっかりと大きく、外への出口が開いた。


 そのまま、声にならない悲鳴を上げるシルバートゥースの支配層の人間達は、ギルバートの「重力視」の魔法から解放された瞬間、「念動」の魔法の腕に再び拘束され、ギルバートの両端に浮かんだまま、一緒に空に舞い上がった。



 その後、イシュティの直属のボスを「解放」したのと同じ、南の山岳地帯上空まで来ると、ギルバートは一人ずつに魔法の拷問を加え、聞けることを聞き出していった。


 結果、大した話は聞けなかったが、全員が、スケコマシ部門が女を売って得た利益を得ていることは確認できた。

 

 女を売って利益を得ている常習者なら、エリーにも同じことをしようとした命令者の一人であるのは間違いないので、全員を「解放」した。

 

 殆どの者は悲鳴を上げたが、許しを乞うたり反省を叫ぶ者はいなかった。中には、「解放」した瞬間、罵声を発した者もいた。

 

 

 イシュティの直属のボスとは違い、上の者達は、クズはクズなりに、根性だけはあったという事だろうか。

 

 


 なんにせよ、ギルバートは、やはりこの類の者達が反省する事など無いのだ、と再確認したのだった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「報告2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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