表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/130

急襲2

73 急襲2






「……何、ギルバートが?」 

 

 グレイヴァル領の領主、シャルロット・グレイヴァル女伯爵は、午後の時間を気に入りの温室でのんびりと過ごしていたが、そこへ腹心の側近である、側仕えのセリオ子爵から報告があった。

 

「はい。奥方が狙われたようで、今から急ぎ、平民街の一部を大掃除したいと。必要なら後で証拠を提出するとのことです」 

 

「対象は?」


「伯爵の話からすると、シルバートゥースかと」


「アレか。厄介だね……奴らは他領にもいくらか浸透していたはずだ」


「ええ。ですから長年放置されていましたが、伯爵が恨みと厄介事を引き受けて下さるならグレイヴァルとしては助かります」


「……付き合いは短いとは言え、ギルバートは友達なんだが」


 シャルロットは渋い顔をした。

 

「伯爵の魔法であれば、平民の無頼の者など、相手にもならないでしょう。しかも、向こうから手を出してきたわけですし、狙われたのは愛する奥方です。黙って見過ごす方ではないでしょう」 

 

 セリオがしれっと、そんな事を言うのを受けて、シャルロットはため息を吐いた。

 

「……十分気を付けるように、出来るだけは協力する、と伝えなさい。それと暫くの間、各街門の出入検査、特に出る方を厳しくしなさい」 

 

「は。只今」


 セリオは頭を下げると、すぐに踵を返し、温室を出て行った。セリオの足音が徐々に遠ざかっていく。

 

「……次から次から、ギルバートも大変だね。魔法には確かに心躍るものがあるが、こうまで面倒を呼び込むとなると、さすがに考えさせられるよ」 




 シャルロットは独り言ちると、再び彼女の愛する温室へと心を戻したのだった。




 ☆




 イシュティ達の拠点への襲撃は速やかに、あっけなく完了した。

 

 拠点となっていた店舗はイシュティ達が入ってから特に施錠もされていなかった為、ギルバート達はスッと侵入した。

 

 中は大して広くなく、すぐに見咎められたが、彼らが慌てて逃げようとした時には、既に一緒に入ったケルが裏口を「念動」の魔法の腕で塞いでいた。


 三人を「念動」の魔法の左腕でまとめて拘束し、絞りあげると、彼らは自分達の直属のボスの事を簡単に喋った。

 

 裏社会の人間として、そんな事で大丈夫なのか、と一瞬思ったが、どうでもいい事なので、ギルバートはすぐにそれ以上、その事について考えるのをやめた。


 三人を引きずったまま、店舗の奥の扉を「念動」の魔法の右腕で強引に引くと、脆い鍵がすぐに悲鳴を上げて砕け、扉は全開になった。


 恐怖と焦りで引きつった顔で、三十代ほどと思われる男が、「こんなことをしてボスが黙ってないぞ」とか、「黙って逃がしてくれたら今日の事はなかった事にする」とか散々喚き散らしたが、手応えがないと感じたのか「貴様の嫁がどうなるか……」などと言い始めたことで、彼の命運は決まってしまった。


 ただでさえ神経質になっているギルバートに対して、それだけは言ってはいけないことだったのだが、彼がそれを理解することは永久になかった。


 ギルバートはケルを連れ、三人のスケコマシ要員と、名も知らぬ彼らの直属のボスを「念動」の魔法の腕で掴んだまま、西の森の上空を飛び、巨木の森の上空を越え、南の山岳地帯の上空までやって来た。


 そして四人の内、三人の拘束をケルに任せると、一人ずつ個別に、上空高くから地上に向って投げ落とした。

 

 もし事情を知り得る誰かがこの光景を見れば、「紐なしバンジー」だと言ったかもしれないし、言わないかもしれない。


 ギルバートは一人ずつ、念入りに叩き落しては、山肌すれすれで回収し、再び、上空へ戻って放り投げた。知っている事を喋れば解放すると約束して。

 

 そして上空に戻る度、組織について質問した。組織名、ボス、構成員の名前、数、普段行っている犯罪行為の詳細、犯罪に関わる人質等の監禁場所、街の者から巻き上げた金や価値ある財産の隠し場所等々、特に今回エリーを狙った事に関する詳細な情報。


 下っ端であるイシュティ他二名は、大したことは何も知らなかったので、ただただ悲鳴を上げ、失禁し、失神し、それでもシルバートゥースという組織名と、遥か上の方からの命令である事、出会いのきっかけである窃盗事件もシルバートゥースの自作自演である事を告白した。


 彼らの直属のボスはこの無限昇降運動では口を割らなかった。悲鳴を上げ、殺せと叫んだだけだった。それほどまでに彼らを縛る組織の恐怖は凄まじいという事だろう。

 

 だが、今日のギルバートはそれで済ますほど甘くはなかった。


 ギルバートは「念動」の魔法の腕で、イシュティ達の直属のボスの両足を持ち、逆さづりにすると、その両足を左右にどんどん引っ張って広げていく。

 

 すぐに自分が何をされるか気づいたイシュティ達の直属のボスは顔面を蒼白にし、脂汗をかき始めた。


 やがて極大の激痛と共に、肉が裂け始めると、イシュティ達の直属のボスは一転、涙を流して絶叫しながらギルバートに許しを乞うた。


 ギルバートは拷問を中断し、シルバートゥースについて引き出せる情報は全て引き出した。と言っても、グレイヴァル支部のボスの名前と支部の場所、支部の財産保管庫代わりの部屋の場所、グレイヴァル支部の主要な構成員の名前、「エリーを攫って漬けろ」という命令が本部からきたことくらいだった。



 ギルバートは全てを記憶すると、イシュティ達の直属のボスを「解放」した。



 そして今度は、地上スレスレで回収することは無かった。

 

 

「君たちとの約束も必ず守る。次、君たちを見かけたら必ず殺すから、領主様の牢から出ないほうが良いかもね?」


  

 ギルバートは、顔面蒼白を通り越して真っ白になっているイシュティ達に向って言った。

 

 そして、そのまま領主の城まで一気に飛ぶと、門番に事情を説明し、拷問で得た組織の情報を全て話すと、三人を引き渡した。

 

 既に上から事情を聞いているらしく、門番はすんなりと三人を引き取ってくれた。

 

 

 

 その後、ギルバートは今度はボスに対処するべく、聞き出した住所へ向って、直ちに空に舞い上がったのであった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ちなみに、門番達に引き渡された三人は涙と鼻水と涎まみれの顔で、「牢に入れて出さないでくれ!」と懇願し、門番達を困らせたという。 



************************************************

本日、3話目、ラストです。明日からは毎日1話ずつ更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


************************************************

次回予定「急襲3」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ