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急襲

72 急襲






 ほんのちょっと前まで、後悔と絶望で極限まで萎れていたギルバートは、今、猛烈な怒りに震えていた。

 

 ケルの報告により、どこかの誰かによる、エリーを狙った計画的な犯行だと判明したからだ。

 

 怖い顔をしていたエリーも同時にケルの報告をうけて、こちらは逆に唖然としていた。

 

 エリーはおっとりしているせいか、まさか自分が標的になるとは思いもしなかったようだ。

 

 だが、いくら貧乏でも貴族である以上、元々、金銭や身分目当ての犯罪の標的になる可能性は少なからずある。何より、エリーは美人なうえに可愛い。エリー本人を狙う変態の標的になる可能性など腐るほどあるのだ。

 

 その上、今はギルバートの妻として、ギルバート目当ての犯罪の為に利用される可能性もあるのだ。

 

 犯行は未然に防げたし、その上で、エリーがそう言った可能性を考えるきっかけになるなら、今回の事は不幸中の幸いだったと言えるかもしれない。……言えるかもしれないが、ギルバートは、とてもそれで済ませる気持ちにはなれなかった。

 


「……悪い、エリー。話はまた後で……今回は、アンナさんのところで待っててくれないか?」


「……ギルはどうするの?」


 エリーはそう聞いたが、聞く前から答えは分かっているようだった。


「当然、連中の雇い主とキッチリ話をつけてくるよ」


「わたしも行きたいって言ったら?」


「悪いけど却下かな。エリーにちょっとでも何かあったらオレ、歯止めが利かなくなりそうだから」


 ギルバートがそう言うとエリーは、心当たりがありそうな苦い顔をした。

 

 当然、ついさっき、ギルバートが打ち立てた実績を思い出していることだろう。



「……分かったわ。ギル、気を付けてね」


「ありがとう。気を付けるよ」


 ギルバートは、最近ようやく二人の習慣になってきた「抱きしめる」を実行しようとして、ためらった。

 

 まだはっきり許されていない。どさくさ紛れに抱きしめたりすると、余計怒らせるかもしれない。そう思うと、伸ばしかけた手は、自然とまた降ろされた。

 

 だが、振り返ろうとした時、エリーの方から抱きしめられた。ギルバートはホッとして抱きしめ返すと、しばらくして抱擁を解き、空へと舞い上がった。

 

 


「ケル、状況は?」


『今のところ変化はない。建物の出入り口は表と裏の二か所と、上層階の窓だが、誰も出入りしていない』


「奴らはまだ中か」


『そのようだ。イシュティと二人の仲間はグダグダと悩んだり、時折愚痴をこぼしているだけだ。奴らに指示をしている者が居るはずだが、その者も建物から出た様子はない』


 ケルと合流したギルバートは、すぐさまケルから報告を受けた。

 

 ケルが念話を利用して探った内容によれば、イシュティ他二名は、グレイヴァルの街に巣食う犯罪組織の中では一番大きいグループの、所謂、スケコマシ部門の一員らしい。

 

 普段は裕福な女を狙って、綺麗な顔と美辞麗句を操り、夢中にさせて金品を貢がせる役割を担っている。また、裕福でなくとも、惚れさせた女を売春宿やその他の顧客に売り払ったりもしているようだ。

 

 ただ、エリーが標的になったのは、どうも上からの命令であるようだ。連中がそんな話をしているらしいので、ギルバートがらみの話かもしれない。

 

 そう思うと、ギルバートは幾重にも落ち込まずにはいられなかった。

 

 ギルバートはエリーと結婚し、目的を果たせたから良い。だが、そのせいで、エリーはギルバートが原因の危機に巻き込まれてしまっている。

 

 そしてこれからも同様の危機を呼び込む可能性が高いのに、ギルバートは完全には防げない。

 

 その上、それが分かっていながらエリーを手放す気もない。我ながら呆れ果てるほど自分勝手だと思った。

 

 だが、ギルバートにとってエリー無しの人生などあり得ない。そうであるなら悩んでいる暇など無い筈だ。ギルバートはそう考えて開き直った。

 


 ……オレがこの「自分勝手」を貫いても、エリーを危険に晒さないだけの「強さ」が必要だ

 


 そこまで考えて、ギルバートは顔を上げる。

 


「よし、行こう!」


『いや、待て、ギル』


「何故!?オレの覚悟は決まっている。一度でもエリーを狙った連中を野放しにはしておけない!」


 ギルバートは思わず一瞬、激高するが、ケルはどこまでも冷静だった。

 

『ギル、この手の犯罪集団と事を構えるのは大変な危険を伴う』


 だからと言って、放置できない!とギルバートが反論しようとすると、ケルが身振りで遮った。


『よいかギル、しっかりと準備するのだ。そして、やるときは一気に、速やかに、徹底的に、だ』


 ギルバートが準備なんか、と考えた時、ケルが言い足した。

  

『今回の場合であれば、領主に話を通しておくべきだろう。後の面倒が少なくて済む』




 それは、確かにそうかもしれない。そう考えたギルバートは、ケルにこの場の見張りの継続を任せると、即座に領主の城に向って飛んだのであった。



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本日、2話目です。念のため


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次回予定「急襲2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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