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アンナおばさん

70 アンナおばさん






「ついにやったか!」


 エリザベスを家の中に招き入れた鍛冶屋の老婦人、アンナおばさんは、昼の残りのスープを温めて、エリザベスに振る舞いながら、大笑いした。

 

「アンナおばさん、わたしは全然可笑しくなんてないわよ!?」


 エリザベスはアンナおばさんと対照的に、プリプリと怒っていた。 

 

 アンナおばさんは、エリザベスを見ると軽く溜息を吐いた。

 

「……アンタたち、結婚して半年ちょっとだろ?」 

 

「……ええ、昨年の秋だったからそんなものだと思うわ」 

 

「それで、今まで何回ケンカしたんだい?」 

 

「……ギルとケンカなんてしたことないわ。多分、これが生れてはじめてのケンカと言う事になるのかしらね」 

 

 エリザベスは改めて思い返してみたが、やはり記憶の片隅にさえ、ギルとケンカした思い出は発見できなかった。

 

「生れてからずっと一緒で、姉弟みたいに育ったのに、今まで一度も、だろ?それって普通じゃないと思わないかい?」 

 

「……どういう事?」


 エリザベスは、アンナおばさんが何を言おうとしているか、全く分からなかった。

 

「分からないかい?姉弟なんてもんは、いっつもいっつも、暇さえあればケンカばっかりしているもんさ」  

 

 そう言われても、そんな感じじゃない姉弟もいるのでは?と、エリザベスは反抗的な気分で考えた。

 

「つまり、アンタたちがケンカにならなかったのは、ギルがアンタを怒らせないように用心してたからってことさ。要するにベタ惚れしてるってことだよ。なのに今日はケンカになったってことは、ギルに余裕がなかったんだろうね」

 

 言われてみれば、確かにエリザベスにも心当たりはあった。だが、そうだとしても今日のギルの行動はとても許せるようなものではなかった。正直、常軌を逸していた。

 

 エリザベスはアンナおばさんに、先ほど起こった出来事をつぶさに語った。

 

 アンナおばさんは、成る程、それはちょっと酷いね、とか、アンタの気持ちは良く分かるよ、などとエリザベスを宥めながら余すところなく話を聞くと、大変だったねとエリザベスに同情してくれた。

 

 そして、エリザベスが少し落ち着いてから、アンナおばさんは言った。

 

「……それで、エリーはどうしたいんだい?」 

 

 そう言われて、エリザベスは考える。

 

 自分はギルにケンカしないで欲しかったのだろうか?それとも仲良くしてほしかったのだろうか?そう思ってみれば、それは何か微妙に違う気がした。

 

「……多分、もっと落ち着いて、冷静に?スマートに?大人の対応をして欲しかったのかも……?」 

 

 アンナおばさんは小さく笑った。

 

「この手の事で、大人の対応が出来る奴なんてのは普通はいないとしたもんだ。出来るとすればそいつはよほど枯れてるか、他にもっと執着するものがあるか、だね」 


「……」

 

 エリザベスが黙り込む。アンナおばさんは構わず続けた。

 

「男ってのは何かに執着するもんさ。それが人か、物かは分からないけどね。それが嫌ならそもそも付き合うべきじゃない。それに、アンタに執着しないってことは別の誰か、もしくは別の何かに執着するって事だ。それでも良いのかい?」


「……」

 

 エリザベスは、それはもちろんイヤだと思った。だが、それとこれとは違う気もしていた。だから返事が出来なかった。

 

「……長く夫婦でやっていくコツはね、相手に満点を求めないことだよ。それで、自分は相手にとって満点かどうかを、常に自分に問うてみれば、戒めになるってもんさ」


「……わたしだって、ギルがただの焼きもちであんな事をしたとは思わないわ。だけど、ギルの用心も分かるけど、あれじゃ友達も出来ないし、ギルは全然それでも良いと思ってそうだし……」


 エリザベスはだんだん混乱してきた。

 

 ギルの事は大好きだが、さっきの行動はやはり受け入れ難い。じゃあ、ギルとの関係を終わりにするのかと言えば、そんな事は考えられない。直してほしいのかと言えば、ある程度そうかもしれないが、完全にそうとも言い切れない。エリザベスは今のギルが好きなのであって、別に違うギルになって欲しいわけではないのだ。

 

 アンナおばさんが、そんなエリザベスの頭をちょっと撫でる。エリザベスはビックリしてちょっと肩を竦めるが、何だか急にホッとして、力を抜いて身をゆだねた。


「要するに、アンタはちょっとびっくりしたのさ。それだけのことだ。帰ってギルにドーンとぶつかって、抱きしめてやりなよ。きっと今頃、死ぬほど落ち込んでるさ」


 アンナおばさんはそう言うと、大笑いした。

 

 エリザベスも、何だかアンナおばさんが言うようなギルの姿が想像できる気がした。


「……そうね、一度帰ります。またケンカしたら、またきていい?」


「もちろんさ!いつまでもグズグズ言うようなら、私がガツーンと言ってやるよ!」




 そんなアンナおばさんの言葉を聞いて、エリザベスはにっこり笑うと、自分達の屋敷へ戻って行ったのだった。



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今日はちょっと少な目です。今、第三部で完結させる予定で書いてます。

それが終わったら、一日二話更新にしたいと思っています。


楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「黒」


読んでくれて、ありがとうございました♪

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