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再会

69 再会






 エリザベスは困惑していた。目の前には先日、スリから巾着袋を取り返してくれた超美形の男がいる。

 

 彼はイシュティと名乗り、偶然の再会を喜んだ。

 

 イシュティは、今日は友人だという男を二人つれていたが、その二人も随分と見目の良い男達で、人当たりが良いのでクリスとモニカがすっかりご機嫌になっていた。

 

 イシュティは、自分は料理人だと名乗り、今から友達に自分が腕を振るう食事会をするから、良かったら店に来ないかと三人を誘う。

 

「ああ!そこ聞いた事があるわ♪最近出来た綺麗なお店よね」


「私も♪」 

 

 場所をきけば、目抜き通りから脇道に入ってすぐの、人通りの多い場所に店を構えているとの事で、クリスとモニカが知っている店だったこともあり、二人と男達の間ですぐに話はまとまった。

 

 エリザベスとしてはいくら恩人とは言え、ほとんど初対面の相手と食事をするのは気詰まりだったし、クリスとモニカと三人だけで居たかった。

 

 だが、二人が乗り気になってしまい、イシュティから、料理で使える小技を色々お教えしますよ、と言われて少しだけ心が動いてしまった。

 

 エリザベスは、ギルに自分が料理をすると言っていたにも拘らず、最近、あまり料理をしていないのを、少し気にしていた。

 

 それに、ギルは文句を言わないが、自分がそれほど料理が上手くないのは自覚していた。

 

 結局、エリザベスは仕方なく首を縦にふった。

 

 じゃあ早速、とばかりに全員で移動を始めた瞬間、空から何かが降ってきた。

 

 エリザベスとクリスとモニカ、それと三人の男達の前に、細めの吊り目を、今や限界まで細くしているギルが立っていた。口元には少しの笑みもない。

 

 何故かは分からないが、エリザベスには、ギルがメチャクチャ怒っているのが分かった。

 

 そんな表情をしていると、ギルは結構、迫力があるかもしれない、とエリザベスは初めて思った。

 

 

 

「おぉーーーーー!アンタが噂の魔法使いか♪」


「俺、初めて見たよ~♪」


「なあ、アンタ、俺たちこれからパーティなんだ!良かったらアンタも来ないか?」


 イシュティの友人という二人の男がギルに近寄り、肩に手を伸ばしたが、その直後、彼らの身体は挙手の姿勢で、ピンッと一直線に伸ばした状態のまま固まった。


「ぐぇっ!?」


「はぉっ!?」


「?」


「?」


 クリスとモニカは頭に疑問符を浮かべて、首を傾げているが、エリザベスは当然、何が起きているか正確に理解していた。

 

「ちょっと、ギル!いったい、何をするの!?」 

 

 エリザベスがギルを詰問するが、ギルはそれには答えず近づいてくる。

 

 だが、ギルの視線はエリザベスではなく隣にいるイシュティに向いていた。

 

「あ、あの……?」


 イシュティが戸惑うような声を出す。当然だ。何が起きているか、エリザベス以外、誰にも分かるはずがない。

 

  

「……君が手を触れているのは、オレの妻だ。死にたくなければ今すぐにその手を離せ」 


 その瞬間、目を丸くしたイシュティが万歳をするように、凄い勢いで両手を天高く掲げた。


 そう、今から店に行こう、という流れでイシュティがエリザベス達の背を軽くおして、向かう方向へ誘っていた瞬間だったため、今は殆ど彼の手は触れていなかったが、形としては肩か背中を抱いているようにも見える形だった。


「ち、違うのギル、誤解だと思うわ!」


「エリー、話はあとでしよう」


 ギルはいつもなら絶対しない形で、エリザベスとの会話を打ち切った。

 

 

「ぐっ……うぅ……っ!?」


 それから、イシュティが地面に膝をつき、両手をつき、そのまま身体ごと崩れ落ちた。


 直立したまま動かないで呻いている二人も、地面に倒れてピクピクしているイシュティも、どちらの反応もエリザベスは見たことがある。

 

 間違いなく、ギルの魔法によるものだった。

 

「ギル、だめよ!」


「エリー、話はあとだ」


 慌てて止めようとするが、ギルは全く応じてくれない。

 

 いつの間にか騒ぎを聞きつけたらしく、周囲の人々が遠巻きにこちらを伺っている。 

 こんな状況で人を傷つけてしまったら、ギルの名に傷がついてしまう。それだけは避けなければいけない。

 

 そう思うが、ギルは全く取り合ってくれないし、エリザベスは何と言えばいいか、さっぱり分からなかった。

 

 

 そうしている間にも、ギルがイシュティに近づいていく。

 

 エリザベスは一瞬、ギルがイシュティを魔法でぺしゃんこに潰してしまうという、最悪の状況を想像してしまったが、頭を振って振り払う。

 

 焼きもちなんて、そんな下らない理由で、ギルがそんな事をするはずはない。……無いとは思うが、エリザベスには自信もなかった。


 エリザベスがアタフタしている間に、ギルがイシュティの傍らに膝をつき、倒れている彼の顔をまっすぐ見て言った。


「……次に、エリーの傍で君を見る事があれば、問答無用で殺す。二言はない」


「ヒィ……ッ!?」


 イシュティが恐怖で血走った目を見開き、声にならない悲鳴を上げている。


 エリザベスは、「ああ、いつものやつだ」と思った。しかもいつもより「余裕」がない。今回の宣告は完全に最後通告だった。非常に困ったことになったと思った。

 

 昔からギルは、一度言ったことは曲げない。確実に実行するのだ。

 

 間違いなく、たまたま偶然会ってしまっただけだとしても、関係なくギルは宣言した内容を遂行するだろう。だが、エリザベスはこんな事で、ギルに人を殺してほしくはなかった。


 この周囲だけ誰一人、しゃべる者もなく、シンと静まり返っていた。

 

 

「……はぁっ!……はぁっ!……はぁっ!」

 

 

 そんな中、ギルが振り返るとイシュティがまるで長い間、水に潜っていたかのように激しく呼吸した。

 

 同時に、挙手の姿勢で固まっていた二人も力尽きたように地面に倒れ込む。

 

 

 ギルはエリザベスの傍らに戻ってくると、エリザベスの手を取り、小さく呟いた。


「飛ぶよ」


 その言葉に、エリザベスが返答を返す前に、エリザベスとギルは空へ舞い上がっていた。

 

 屋敷に向かって一直線で飛んだギルは、着地するとすぐに扉をあけて中に入ってしまった。

 

 屋敷の扉は鍵も掛かっていなかったらしく、ギルが軽く引いただけで開いた。よほど慌てて飛んできたらしい。

 

 多分、ギルはエリザベスの事を、メチャクチャ心配したんだと思う。それは分かる。

 

 

 だが、さすがにこれはやりすぎだ。酷すぎる。


 エリザベスにだって言い分はあるし、イシュティ達は別に何もしていないのだ。

 

 エリザベスに触れたと言うのもほぼ誤解だ。実際には一瞬、背中に触れた程度だろう。


 そして、とんでもないところを友達に見せてしまった。きっと、クリスとモニカの中で、ギルの評価は最悪になっている事だろう。

 

 エリザベスはキッと顔を上げると、屋敷に戻らず、坂を歩いて下って行った。

 

 

 

 そして、鍛冶屋のアンナおばさんの家の戸を叩いたのであった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「アンナおばさん」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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