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実験2

68 実験2






 ギルバートは悩んでいた。

 

 あれ以降、ギルバートは何度か領主の城を訪い、ブリュンヒルデから手紙の返信作業を指導してもらっていた。

 

 今日も何通かの手紙を処理して屋敷に戻る途中だったが、ギルバートはここの所、ずっとある悩みを抱えていた。

 

 男として、貴族として、重大かつ真剣な悩みだった。

 

 それは、「エリーとの仲をもっと進展させたい」という、超難題だった。

 

 

 モータル子爵という「厄介事」からエリーを守る、という大義名分のもと、ギルバートは自分としては考えられないほど積極的に行動し、結婚までこぎつける事が出来た。

 

 その後の結婚生活でも努力を重ね、多少、仲は深まった。

 

 だが、これ以上どうすれば良いのかが分からない。……いや、どうすれば良いかは分かっているが、どうすれば「そこ」にたどり着けるかが分からないのだった。

  

  

 そしてそんなギルバートとエリーの生活にも、また新たな変化が訪れていた。

 

 時折、エリーの友達が屋敷を訪ねてくるようになったのだ。

 

 ギルバートはエリーとの時間を邪魔されたくはなかったが、エリーにとっては大事な友達だ。自分のそんな気持ちは微塵も表に出せない。出してはいけない。

 

 それは友達がおらず、欲しいと思った事もないギルバートにもさすがに分かるので、極力、笑顔で対応するようにがんばっていた。

 

 こんな時、少し前ならケルが勝手に思考を読んで、話しかけてきた。

 

 それは無粋な事とも言えるが、いつの間にかギルバートは、ケルとの脳内会話を頼りにするようになっていた。

 

 ところがギルバートからケルが分離した今、相談したければこちらから話を振る必要があった。

  

 だが、三人でいる時は個人的な相談などできない。二人で念話していてエリーが気付かないはずがないからだ。

 

 最近では、ギルバートとエリーが離れる時には、ケルが用心のためエリーについてくれているので、エリーとケルが二人でいる機会は増えたが、逆にギルバートとケルが二人でいる機会はほぼ、無くなった。

 

 それが今、妙に心細いギルバートだった。


 ケルに相談すれば、考えを纏めたり気持ちを整理したりして、簡単に心をすっきりさせられるのだが。



 屋敷に戻り、扉を開けて中に入ろうとした時、わいわいきゃーきゃーと女の子たちの声が聞こえたと思うと、エリーとその友達が屋敷から飛び出してきた。

 


「あ、ギル、ちょっとみんなで街にいってくるわね♪」


「ギルバート様、奥様をお借りしますわ♪」


「失礼いたします、伯爵様」


 三人は楽しそうに笑いながらそう言うと、目抜き通りへの坂を下って行った。

 

 あまりに楽しそうで、ギルバートは、挨拶どころか一言、声をかける事すらできなかった。

 

 ギルバートは思わず苦笑しながら、ケルに手を振った。

 

『……どうしたギル、何か問題か?』

 

 ……いや、時々でいいから念話を送ってくれるか?ついでだから念話距離の実験をしたい。出来れば念話した場所も覚えておいてくれると助かる

 

『分かった。とりあえず中央広場まで行くだろうから、そこまでに何度か念話を送る。その後は結果次第としよう』 

 

 ……ありがとう、頼むよ

 

 

 ケルとの念話を終えて、ギルバートはホッと一息ついた。

 

 この「念話」も、今はケルに頼り切りの状態だ。出来れば一刻も早く、ギルバートも「念話」の魔法石が欲しいと思っていた。

 

 それに、色々と面倒を言って来る貴族が多くなってきたので、ギルバートは戦うための魔法石だけでなく、ケルから聞いた便利そうな魔法石を、あれもこれも手に入れておきたかった。

 

 そんな事を考えている間にも、ケルから念話が飛んでくる。

 

『今、坂を下り切り、目抜き通りに合流した』

  

 ……お。結構届くんだな

 

『多分、中央広場からでも届くと思う。ただ、やはり慣れと言うものがあるのでな。ギルが「念話」を使うときも同じ効果が出せるとは限らんぞ?』 

  

 ……まあ、それはしょうがないよ。それでも一応は計測しておきたいんだ。悪いけど、頼む

 

『それは構わん。某もこんな風に実験したことは無かったからな。結構楽しいぞ』 

  

 

 そんな風に、意外にも若干、ケルの楽しそうな声の念話を受け、ギルバートは笑った。

 

「ケルも楽しいなら何よりだ」 

  

 ギルバートはそう口に出して言うと、リンドヴァーン行きについてどうするか考えながら、屋敷を掃除し始めた。

 

 とは言え、普段からそこそこまめに行っているので、そんなに汚れていないのだが、汚れを剥ぎ取る度、新品だった頃にに近づいていくようで、意外に楽しいのだ。

 

 もちろん、既に経年劣化であちこち老朽化してはいるのだが、元がしっかりした造りだったため暮らしに不自由するような問題はなく、今やどこもかしこもピカピカだった。

  

「……はぁ。にしても、どうするかな」


 リンドヴァーンからの手紙は、今までに送られてきた手紙の中では一番、身分確かな差出人からのものであり、内容も極軽いお誘いに見える。

 

 正直ギルバートは、これが唯一、普通にお断りしても問題ないのでは?と思っていた。  

  

 ギルバートも両親から、貴族の言葉は常に裏を読まねばならないと教わっている。

 

 だが、この手紙の内容で、裏などあるのだろうか?魔法石があるから見に来いと言っているだけだ。対して「はい」か「いいえ」と返答するだけではないのか。

 

 

 そんな風に、ギルバートが悩みながら屋敷内部の掃除を進めていると、また、ケルからの念話が送られてきた。

 

『……ギル、今、中央広場だが、問題発生、かもしれない』 


 ……何があった!?エリーは無事!?

 

 ギルバートは即座に戦闘モードに入り、とるものもとりあえず屋敷を飛び出した。

 

『もちろん、無事だ。今、エリーとその友達に男が近づこうとしているのだが、一応、相手は最近知り合った者ではあるのだ。ただどうやら男は一人ではないようなのでな』


 ……知り合い?暴漢とかスリじゃなく?

 

 ギルバートは坂道を走り下りながら念話で疑問をぶつけた。そして、飛ぶことを失念していることに気づいて一気に空へ舞い上がった。 

 

『逆だ。エリーがスリに遭ったところ、巾着袋を取り返してもらったのだがな。ただ、一度会ったきりであるし……』

 

 ケルが何やら言いよどんでいるのは気になるが、それよりも気になったのは、エリーがスリに遭ったと言う話だ。

 

 ……エリーがスリに遭ったとか、聞いてないぞ!?

 

『まあ、小分けにして持っていた小銭を盗られかけただけで、しかも盗られなかったわけだからな』

 

 それでも報告してほしかったと思うギルバートだったが、それ以上は言わなかった。

 

 ……とにかく、すぐ行く!

 

 そう言って、中央広場を目指して飛んでいると、ケルが飛んでいるのを視認した。

 

「あそこか!」


 ギルバートが一気に近づくと、ケルの旋回している地点直下の地上に、エリーとその友達がいて、何やら複数の男と話しをしているのが見えた。

 

 

 

 ギルバートは焦る気持ちを抑えつつ、一気に地上へ降下するのであった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「再会」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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