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ブリュンヒルデ2

66 ブリュンヒルデ2






 早速、ギルバートとエリーは、ブリュンヒルデに案内され、彼女に与えられている個人の執務室へ案内された。

 

 さすがに領主の姪だけあって、将来の重臣候補なのか、もしかしたら既に重臣なのかもしれないな、などと考えながら、ギルバートはぼんやりと広い執務室を見回した。

 

 執務室の壁には大きな書棚が並び、たくさんの本が所狭しと収納されている。

 

 執務室の中央にはテーブルとソファーが置いてあり、そして、壁際には立派な執務机が置かれ、その周囲には数人の文官らしき男女が並んで立っていた。

 

 

「さあ、グレイマギウス伯爵、伯爵夫人も、おかけください。今、お茶をお出しいたしますので」


 ブリュンヒルデがソファーを指して二人を誘う。

 

「いや、オレ達はすぐにお暇しますので」

 

「まあ、そうおっしゃらずに。先ほどのお話、後日の実作業の為に、差支えのない範囲で詳しくお伺いしたいですわ」


 ブリュンヒルデがにこやかに笑いながらギルバートを引き留める。

 

 そう言われてしまうと、頼んだのは自分の方なので、ギルバートはそれでも帰るとは言えず、やむなくソファーに腰を下ろした。

 

 すると、すぐに二人の前にお茶とお茶菓子が用意され、ますます席を立ち難くなっていった。


 ギルバートはエリー以外の女に全く興味は無かったが、そうは言っても、男であるギルバートにとって、目の前の美女の圧は無視できないほど凄かった。

 

 元々、自身の容貌に軽い劣等感を持っていたギルバートは、あまりにも整った容貌の美女に、無意識に気圧されてしまっていた。

 

 結局、ブリュンヒルデに求められるまま、シャルロットにしたのと同じ話を繰り返すことになった。

 

 

「なるほど、良く分かりました。では、今後はいつでも伯爵のご都合のよろしい時に、この執務室まで手紙をお持ちください。一つずつ、返信を作成いたしましょう。万が一、わたくしが対応できない場合でも、わたくしの部下の誰かが対応させていただきますので、ご安心くださいませ」 


「助かります。ご面倒をおかけします」


「いえいえ、お気になさらず。伯母上からのご命令ですし、わたくしとしても、魔法使い伯爵のお役に立てるのは望外の喜びというものですわ」


 その後も、ブリュンヒルデとその部下たちは、興味本位だと言いながら、魔法やギルバートに関する話を聞きたがった。

 

 ギルバートは一応、無礼にならない程度に適当に返事を返した。

 

 

 

 それから暫くして、ようやく席を立つことが出来た。

 



 ☆

 

 

 

 ギルと共にブリュンヒルデの執務室を出ると、見送りだと言ってブリュンヒルデとその部下が城の入口までついて来た。

 

 いつもなら、二人でのんびり屋敷まで歩くところだが、居た堪れなかったのか、ギルはエリザベスの手を取り、さっさと空へ舞い上がった。

 

 地上では、ブリュンヒルデとその部下たちの歓声が響いていた。

 

 

 そのブリュンヒルデと部下たちを横目で見ながらエリザベスは少々憤慨していた。

 

 なぜなら、彼女の部下は一人を除いて全員女だったからだ。しかも、全員、ブリュンヒルデほどではないが、それでもかなり美しかった。

 

 そして、執務室に居る間、ブリュンヒルデを筆頭に、全員、明らかにギルに興味津々の視線を送っていたからだ。

 

 

 ……手紙が来るたびに、ギルがあの部屋に行くなんて

 

 正直、何の冗談だろう、と思ったほどだ。だが、当然、冗談でも何でもない。

 

 ご領主様の紹介でわざわざ手配してもらったのだから、行かないと言う選択肢はギルにはない。

 

 ギルが浮気なんてするわけがない。それは間違いないと思う。

 

 だが、ギルがこれまでにちゃんと関わった女は、多分、自分ひとりだ。毎日ギルを見ていたから割と自信を持って言える。

 

 つまり、全くと言っていい程、女に対して免疫がない筈だ。

 

 そこへ、あの超絶美女と部下の美女軍団に囲まれ、妙なちょっかいをかけられたら、ギルだって男だ。絶対、何もない、とは言い切れないのではないだろうか。



 あっという間に屋敷に着いたギルとエリザベスはさっさと屋敷に入り、寝室に駆け込んでベッドに倒れた。

 

 ちなみに、一切発言は無かったが常にケルも一緒だったし、今もベッドの柱に留まっている。


「……ああぁ~~~~~っ……憂鬱だ。でも放置できないんだよな……?」


 ギルは随分疲れたらしく、いつもよりぐったりしている。だが、そう思うエリザベスも同じくぐったりしていた。


『無論、放置して、何か起こってから対処するのも一つの選択ではあるが、お勧めは出来ないな』


 ケルが生真面目に、ギルの愚痴に返答している。

 

 ただの愚痴なので、多分、ギルは返答を求めていないのだが、そういう所がケルらしい真面目さであり、ギルが信頼している理由の一つなのだろう。

 

 二人は、付き合いは短いのに、まるで兄弟か親子のようだった。



 ……負けていられないわ!

 

 

 突如、エリザベスの心に対抗心という火が灯った。

 

 付き合いなら自分が一番長いのだ。ギルの事だって、一番分かっている筈だ。

 

 

 ……ギルを信じよう!

 

 

 エリザベスは、そう決めた。ついさっきまでは、ギルが城に行く時、毎回ついて行こうか、とも考えていたがやめる事にした。

 

 

 

 そして改めてギルとの間に、ケルにも負けない信頼関係を築いていこうと心に誓うのだった。




 ☆




「……さて、我が姪の首尾はどうだと思う?」


「さあ、わたくしごときには分かりかねますが……」


 シャルロット・グレイヴァル女伯爵がいつもの落ち着いた態度より、やや自信なさげに呟いた。

 

 彼女の腹心の側近である、セリオ子爵は思う所もないではなかったが、言葉を濁した。


「別に私は、無理にねじ込もうなどとは、全く考えていないよ?」


「もちろんです。シャルロット様がそのような事をなさる筈がございません」


 シャルロットの少し言い訳じみた発言に、セリオ子爵が当たり前の顔で応じる。



「ただ……ブリュンヒルデが望むなら、機会の一つくらいは作ってやりたいと思ったんだ」



 機会。それがあったとして……果たして彼らの間に割り込む隙などあるのだろうか。



 ……おそらく、グレイマギウス伯爵は、奥方以外に目を向ける人間ではないだろう

 

 

 セリオ子爵は、件の魔法使い伯爵の振る舞いを思い浮かべ、そう思った。

 

 だが、口に出しては己の主であるシャルロットを慮り、違う事を言った。

 

 

「……ブリュンヒルデ様であれば、あるいは望みを叶えられるかもしれませんね。何しろ、あれほどの美貌と才智をお持ちなのですから」



「そうであれば、喜ばしいのだがね……」


 

 

 女傑と呼ばれたシャルロット・グレイヴァル女伯爵も、姪の事となると、まるでただの老女のように精彩を欠いていたのだった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「エリザベスの友達」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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