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ブリュンヒルデ

65 ブリュンヒルデ






 数日後、ギルバートとエリーとケルは領主の城の応接室に通されていた。

 

 

 手紙の件でケルの助言を受けてすぐ、城を訪い、ご領主様に目通りを願う申請をし、今日の約束を取り付けたのだ。

 

 ケルの事は従魔と言う事になっているので、そう説明すると、連れてゆく許可が出た。

 

 ダメなら念話で何とか協力してもらう事になっていたが、その必要が無くなってギルバートはホッとした。

 

 どの程度の距離まで念話が届くか、遮蔽物などの環境にどの程度影響を受けるか、など、まだ全然、実験不足だったからだ。

 

 

「……やあ、ギルバート、久しぶりだな。元気にしていたか?」


 ギルバートとエリーが供されたお茶を飲んで待っていると、やがて応接室に側近や護衛と共に姿を現したグレイヴァル領主、シャルロット・グレイヴァル女伯爵は柔和な笑顔を見せ、そう切り出した。 


 ギルバートとエリーが慌てて立ち上がると、シャルロットが二人の向かいのソファーに座り、側近と護衛が周りを固める。

 

「ご無沙汰しております。シャルロット様」

 

 ギルバートが頭を下げ、エリーがそれにならう。

 

 軽く挨拶を交わした後、ギルバートはエリーとケルを紹介した。と言っても、ケルについては「従魔です」としか言えなかったが。

 

「おぉ、あなたがギルバートの奥方か。常々、お会いしたいと思っていたよ」


「お初にお目にかかります、ご領主様。ギルバートの妻のエリザベス・アローズ・グレイマギウスでございます。どうかお見知り置きくださいませ」 

 

 国王陛下にもお目通りを許されたエリーだったが、やはり自分の暮らす領地のご領主様に会うと言うので、物凄く緊張していた。

 

「エリザベス、と呼んでも良いかな?……エリザベス、そんなに緊張しなくてもよい。私とギルバートは友達だ。良ければあなたとも友達になりたいと思っているよ」

 

「も、もったいないお言葉、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」 


 シャルロットがエリーにまで気を使ってくれたおかげで随分と場が和む。エリーもまだまだ緊張はしていたが、少しホッとした様子だった。

 

 

「……それで、ギルバート、今日はどういう用件で訪ねて来てくれたんだ?」 

 

 

 ギルバートとエリーが再びソファーに腰を下ろすと、シャルロットが再び問いかけた。

 

「シャルロット様、実は……」


 

 ギルバートは腹芸など全く出来ないので、素直にお願いに来た事とその内容を告げた。黙って頷きながら聞いていたシャルロットは、全て聞き終わると側仕えのセリオ子爵に耳打ちし、ギルバートに向き直った。


「成る程、話は分かった。今を時めく魔法使い伯爵ともなると、そういった事態もある程度織り込み済みであるべきだが……まあ、君の事情を考えるとそう言ってしまうのは少々、気の毒でもあるな」


 シャルロットはそう言って苦笑した。

 

「それで、私のところに来たと言う事は、何か腹案があるのだろう?まどろっこしいのは嫌いだ。私が力になれることなら、何とかしてあげるから、言ってみるといい」 

 そう話すシャルロットの言葉を聞いて、ギルバートは正直、驚いた。

 

 直接会ったのは、今回を除けば一度きり。友達になろうと言ってもらったが、当然、社交辞令だと思っていた。

 

 だがそれにしては明らかに、態度や言葉の端々から親身になってもらっていると感じる。

 

 ギルバートはもっとビジネスライクな交渉を想定していたので戸惑い気味で応じた。

 

「シャルロット様の文官を一人、貸していただきたいのです。お願いしたい仕事は手紙への返信代行作業です」 

 

 そう言って、ギルバートは考えてきた内容を説明する。

 

 それは、様々な要求に対して、貴族式の礼儀に則った形でお断りの返信の代筆をしてもらい、発送作業の代行をしてもらいたい。当然、依頼料も払う、というものだった。

 

 シャルロットは困った子供を見るように、少し笑ってため息をついた。

 

「……ギルバート、分かっているだろうが、それは本来、君が覚えなくてはならない事だよ?もちろん、私が面倒だから言っているわけじゃない。そういった話は機密情報だからだ。他人に任せる事によって、君の家の事情や、手紙を送ってきた相手の事情まで筒抜けになるんだよ」


「それはもちろん、おっしゃる通りですが、オレ達だけで対応して、何か問題が有ったとしても、その事にすら気づけない可能性が高いので……」


 ギルバートが苦々しい表情で言葉を濁す。

 

「まあ、気持ちは分からなくもない。……そうだな。ではギルバート、手紙が届いたとき、君が城に持って来なさい。そしてその都度、返信について必要な作法を教わりながら自ら返信を作成する。そうすれば後はこちらで送っておこう。そうやって少しずつ覚えてゆけばよい」


「はい。助かります。有難うございます。それでよろしくお願いします」


 ギルバートは了承し、頭を下げた。

 

 ホントの事を言えば、全部、文官にやって欲しかったのだが、シャルロットの提案は実に理にかなっているし、非常に親切で親身な申し出だった。

 

 これを断ったり、更に要求する事は非常に無礼であり、忘恩というものだ。


「よし、話がまとまって良かった。その事に関してついでに一人、紹介しておく者がいる。ブリュンヒルデ、ここにおいで」


「はい、ご領主様」 


 シャルロットが応接室の入口の方を向いて声をかけると、若い声で応えがあった。

 

 ギルバートとエリーが声の方へ視線を向けると、美しいドレスを纏った、若い女がこちらへ近づいてくるところだった。


 その女は身にまとっているドレスや装身具、今ここに居てシャルロットから名前を呼ばれている事からも、間違いなく貴族だった。

 

「ギルバート、これは私の姪でブリュンヒルデという。君に手紙の書き方他、ちょっとした儀礼を教えることが出来る私の文官だ。ブリュンヒルデ、こちらが我が友、ギルバート・フォルダー・グレイマギウス伯爵だよ」 


「お初にお目にかかります、グレイマギウス伯爵。只今、伯母上からご紹介にあずかりました、ブリュンヒルデ・グレイヴァルでございます。以後、お見知りおき下さいませ」


 ブリュンヒルデはそう言って、優美なお辞儀を披露すると、身に纏った美しいドレスよりも遥かに美しい容貌で、ギルバートに向かい笑って見せる。


「こ、こちらこそ、よろしくおねがいします。ギルバート・フォルダー・グレイマギウスです」


 さすがに、エリーにしか興味のないギルバートでさえ、その美しさには驚嘆せずにはいられず、ちょっと動揺してしまった。

 

 

 

 だが、そのほんのちょっとの動揺を受けて、ほんのちょっとだけ、エリーが不機嫌になった事に、ギルバートは気が付かなかったのだった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「ブリュンヒルデ2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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