表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/130

古戦場跡デート?

63 古戦場跡デート?






「きゃあああああああああぁっ!?」 

 

 

 夜の森に、若い女の悲鳴が響き渡った。

 

 

「だ、大丈夫、何でもないよ。ほら、木の枝だって!」 

 

 

 負けじと、それを宥める若い男の声が響き渡る。

 

 ここは、グレイヴァルの遥か北西、リオール領の領都リオーリアからさらに西に行ったところにある大森林地帯だ。

 

 この広大な大森林地帯を西に抜けると、そこは隣国ヒュンフメア王国の領土になる。

 

 大森林地帯は謂わば両国の、国境代わりの緩衝地帯でもあった。

 

 そして、過去には度々、両国の間で戦が起こり、この大森林地帯では局地戦によりたくさんの人間が命を落としたという。まさに森全体が古戦場跡のようなものだった。

  

 何故、そんな物騒な夜の森に若い男女が居るのかと言えば、彼らが冒険者であり、目的の獲物を求めてやって来たからだった。

 

 

 若い男女、ギルバートとエリーは、今回の目標である霊系統の魔物、所謂いわゆる幽霊を探して、夜の森の中、古戦場跡を彷徨っていた。

 

 前日の夜、エリーがまさかの魔法の才能を発揮し、ギルバートとエリー、それにこの時ばかりは常に冷静なケルですら呆然となった。

 

 さすがにエリーは、ギルバートほど簡単に魔法を習得できなかったが、夜を徹して「集塵」の魔法を練習し、夜が明けるころには何とか身につけた。

 

 ギルバートが普段から、割とまめに「集塵」の魔法をかけているベッドに、エリーも繰り返し「集塵」の魔法をかけまくったため、マットがほぼ新品というほど輝いていた。

 

 エリーは待望だった、自分の身体に対する「集塵」魔法の行使をトイレで行い、剥がした汚れはトイレの穴に投下処理した。

 

 トイレを出てきたエリーの肌は、赤ちゃんの素肌もかくやと言う程、艶っつやに輝いていた。

 

 それからギルバートとエリーの二人は昼過ぎまで眠り、起きると、やる気全開のエリーと話し合って、もっと魔法石を集めていこうという事になった。

 

 とりあえず、既に獲る事が決まっていたギルバートの「念動」の魔法石についてケルに聞くと、霊系統の魔物が集まりやすい場所というものがあり、一番確実なのが古戦場跡だという。

 

 古戦場跡に行けば良いとは教えられたものの、ケルの知る古戦場跡はかなり古く、狩場としては枯れている可能性がある場所だったり、今のギルバートには危険過ぎる場所だったりした。

 

 そこで火蜥蜴のダンジョンを教えてくれた、リオーリアのダンジョンシーカーを再び訪ね、彼からこの、大森林地帯の古戦場跡の情報を買った。

 

 金になりそうな装備などは回収されて全く残ってはいなかったが、時折、人骨らしき骨や、元々が何だったか分からないボロボロの布の切れ端などが散見される、比較的、フレッシュな古戦場跡だった。

 

「確実に出るって分かってるんだから、タダの標的でしょ?獲物だよ。魔獣と同じ。僕ら冒険者なんだから!」 


 ギルバートがエリーを必死で宥めるが、エリーはギルバートの腕にしがみついて、ガタガタと震えていた。

 

「か、か、確実に出る、から、こ、怖いんじゃない!」


 エリーは先ほどから歯の根が合わない様子で、頻りに周囲をキョロキョロと見回していた。


「いや、出ないと困るんだよ。……エリー、一旦、帰ろうか?オレ一人でもう一度、改めて来るよ?」


 それは、本当のことを言えば、ギルバートも本意ではない。その間、エリーはケルにまかせておけば大丈夫だとは思うが、やはり心配は心配だった。

 

 だが、この状態のエリーを連れていては逆に危ない。両者を比較すれば、断腸の思いだが、やはり一人で来る方に軍配が上がる。


「だ、だ、だめっ!ひ、一人で、なんて、ギルがあ、危ないわっ!」


 確かに、ケルのサポートには常に助けられている。一人で来るのは、ギルバートとしても不安ではあった。だがしかし……。


『ギル、エリー、そんなに心配しなくとも、レイス……幽霊は見つければあっという間に方が付く。火の魔法であれば一瞬で蒸発してしまうのでな』


「で、でも、ギル、一人じゃふ、不意をつかれる、かも!」


「確かに、その点はケルが居れば安心だな」


「し、しかも、ほ、他の魔獣だ、だって、いる、かも!」


 メチャクチャ怖がって震えている割に、エリーはしっかり考えて反対していたらしい。


『成る程、一理ある。では、さっさと見つけて帰るとしよう』


 ケルもエリーの説得を諦め、エリーに追随するようだ。こうなると二対一。ギルバートも大人しく従う事にした。


 ケルが魔力の揺らぎを探知しながら先導し、ヒィヒィ言いながら怯えて腕に縋りつくエリーを、ギルバートは半ば引きずるようにして古戦場跡を歩き回った。


 飛んで移動出来れば楽だったが、森の内部は暗くて危ない上に、ゆっくり進まないと幽霊が出てこないと言われたからだ。


 夫婦となった今でも、エリーに接近するのにはそれなりに緊張感を伴ってしまうギルバートにとって、自然にぴったりと寄り添える今の状況は嬉しい筈だったが、さすがにエリーが怯えすぎていて、あまり色っぽい雰囲気にはならなかった。


 その後、二人にとってはかなりの長時間、夜の森の古戦場跡を練り歩き、ようやく湧いて出た幽霊を、ギルバートが「火」の魔法石を発動し、一瞬で蒸発させた。

 

 ギルバートはその場に落ちた、青くて透明な魔法石を拾うと、すぐさまエリーを連れて木々を突き抜け、森の上空へ飛び上がり、グレイヴァルの自宅屋敷へ向けて高速で飛行した。ケルも自前の翼で飛行し、楽々とついて来た。

 

 春の夜は、まだ寒い日もあったが、この夜は幸い温かく、休憩なしで一気に自宅屋敷まで飛びきることが出来た。

 

 

 エリーは帰宅するなり、ベッドに倒れ込み、薄布を体に巻き付けて眠ってしまった。よほど怖かったらしい。

 

 ギルバートも一人で起きていても仕方がないので、隣のベッドで横たわり、眠りにつく。

 



 こうして、夜の森の古戦場デート?は幕を閉じたのであった。



************************************************

本日、2話目です。念のため


************************************************

次回予定「言伝」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ