ダンジョン5
61 ダンジョン5
「……まさか、こいつを殺したことで、ダンジョンが崩壊するってことは……?」
ギルバートはふと、気になってケルに聞いてみた。
『もちろん、大丈夫だ。そいつはただの、火蜥蜴だ。この洞窟で一番大きい個体ではあるだろうが、それだけだ』
「じゃあ、ダンジョンの核はどこにあるの?」
明らかに行き止まりの空間を見回しながら、今度はエリーが聞いた。手には一本のスプーンのような形に描き上がったマップを持っていて、やや寂しそうに見えた。
『一説には、ダンジョンが成長し、ある程度自信をつけるまで、核は地中深くに隠されるという。ゆえに、生まれたばかりの小さいダンジョンが崩落することは、基本的に無いとされている』
「へぇ~!」
ケルの返答にエリーが感心しているのを横目に見ながら、ギルバートは解体用のナイフを抜いた。「念動」が無いので自分の手で解体しなくてはならない。
だが、最近では魔法の腕を使っての解体しかして来なかったので、ギルバートはちょっとしり込みしてしまった。
だが、そのままジッとしているわけにもいかないので、思い切って火蜥蜴の大きな死体をひっくり返し、首元から腹までを裂いて開いていく。
元は普通に自分の手で解体していたと言うのに、久しぶりの感触が妙に気持ち悪い。
「念動」の魔法の腕なら触りたくないものにも平気で触れるのに、と思うとギルバートはますます「念動」の魔法石が欲しいと思った。
胸を開いてみると、火蜥蜴も、おおよそ身体の中心に魔法石を持っていた。
取り出してすぐさま「集塵」の魔法を使い、手と一緒に汚れを剥がすと、濃い橙色をした透明の魔法石が出てきた。
待望の「火」の魔法石だった。
もちろん、手に入れた目的の第一は、霊系統の魔物を倒すためだったが、便利そうで、前からずっと欲しいと思っていたのだ。
「ケル、これを使うときのイメージとか注意点は?」
すぐにも使いたいが、火は危なそうなので念のため、ギルバートはケルに助言を求めた。
『普通に魔力を注げば、前面に向って火柱を噴射する。その後、炎はやや上に向かって途切れる。燃えやすい空気の層がある場合、引火して一瞬で燃え広がったり爆発することがある。個体、液体、気体を問わず可燃物の近くで使うときは要注意だ。さらに言えば、空気の流れのない密閉空間で多用すると呼吸できなくなる恐れがあるな』
予想はしていたが、やはりなかなか、危なそうな魔法だった。
「了解、じゃ、ちょっとだけ使ってみるよ」
「気を付けて」
『控えめにな』
二人の声を受けて、ギルバートは火蜥蜴が居た穴の方へ自然と手のひらを向けた。
「っ!」
気合を入れ、魔力を注入すると、手のひらの少し先の空間から火柱が噴き出した。
火柱は火蜥蜴が使った時とは違い、放射状に薄く広がり、洞窟の壁を焦がした。
ギルバートが火蜥蜴の火柱を思い出しながらイメージを調整すると、火柱は一直線の火の柱と化して穴の中へ噴き込んでいく。
そしてギルバートが魔力の注入を止めると火柱はスッと消えた。
『相変わらず見事だな、ギル。当たり前のように適正、相性ともに良好。ただの一度でほぼ完ぺきに使いこなしている』
「何となく、こうかな?っていう感覚はあるよ」
『うむ。得難い才能だ』
「いやー……それほどでも♪」
真正面から賞賛され、ギルバートは照れて頭をかく。
そんな二人を見て、エリーが少し頬を膨らました。
「……ギル。妻の前でおじいさんとイチャイチャするのはどうなのかしら?」
「ぶっ!?」
『……っ!?』
そんなエリーの言葉に、ギルバートは思わず吹いてしまった。鳥型魔獣も口をガパッと空けて愕然としている。
「……いや、エリー?ケルとイチャイチャとか、ちょっと気持ち悪いよ?ケルは男だよ?オスだよ?」
「でも、そんな風に見えましたけど!?」
「いや、違うでしょ?何をそんなに怒ってるのさ?」
「え~~?そうですかぁ~?」
「エリー、どうして突然そんな事を……?お願いだから訳を言ってくれ。気に入らない事があったなら、直すからさ」
「むぅーーーっ!」
何故か突然プリプリと怒り出したエリーを必死に宥めることしばし。
正直、ギルバートは訳が分からなかったが、必死の懇願が功を奏したのかどうか。エリーはまた普段通りの感じに戻り、笑ってくれた。
そしてようやく、少しだけ話してくれた内容から察するに、最近、魔法石集めの為だけに行動していたせいで、疎外感を与えてしまったようだった。
「はぁ……まあ、冗談よ。気にしないで」
軽く嘆息したエリーがそう言っても、ギルバートには気にならないわけがなかった。
……冗談、ほんとに冗談か?
……オレがエリー以外とイチャつくわけない
……そんなこと、エリーだって分かってる筈だ
……だいたい、いきなり怒るのだってエリーらしくない
……やっぱり、アローズ家から強引に連れ出した事が、心労に……?
……まさか?
……か、帰りたい、とか……?
ギルの背中を冷たい汗が流れ落ちた。
やっと少し自信がついて来たとは言え、ずっとエリーに嫌われないように、気に入られるように、そればかり気にしてきた人生なのだ。
エリーが軽く不満を吐き出しただけだとしても、ギルバートには思いの外、しっかりと効いていた。
「そ、そうだ、家に戻って、エリーも魔法石が使えないかどうか、実験してみるのはどう?」
ギルバートは、数日前に思いついたアイデアを思い出し、慌ててエリーに提示する。
「えぇ~ッ!?何それ面白そうっ!」
これにエリーが喜色満面で飛びついた。
死にかけの生物が息を吹き返したかの如く、ギルバートの顔色も復活し、三人はすぐに屋敷に帰還することになった。
楽しそうにギルバートとエリーが話をしながら空を飛んで帰る途中、追随する鳥型魔獣の目は、若干死んだ魚のようだったという。
☆
ちなみに火蜥蜴の死体は表層の皮と肉がかなり焦げてしまい、素材の多くは駄目になっていたが、貴重な魔獣肉という事もあり、グレイヴァルのなじみの肉屋がそこそこの値で買ってくれたのだった。
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本日、6話目、ラストです。明日からは毎日1話ずつ更新予定です。
楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。
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次回予定「実験」
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