昔話と魔法石
6 昔話と魔法石
亡くなった先代当主であるギルバートの祖父が、よく話してくれたこの国の逸話がある。
五十年ほど前、まだ祖父が若い頃には広く知られていた「消えた大魔法使い」という話だ。
かつてこの国に暮らしていた大魔法使いがいた。
彼は民を愛し、民に尽くし、民に愛されて、その最盛期にはまさに栄華を極めていたし、誰もがそれを当然だと思っていた。
彼には我が子同然に可愛がっている弟子がいたが、この弟子がある日、師の酒に薬を混ぜた。
弟子を心から信じていた大魔法使いは泥酔、昏倒し、気が付くと石造りの高い塔の最上階に閉じ込められていた。
弟子は、国が送り込んだ間者だった。
彼は全ての魔法石を奪われて、ただの人になり下がった……かに思われた。
だが彼は、如何にしてか鳥に変化し、天井近くにたった一つだけあった小さな明り取り用の窓から塔の外へ飛び去った。
彼から奪った数々の魔法石を当時の国王は国の宝としたが、魔法石には相性というものがあり、国王自身も臣下も含め、誰も使う事は出来なかった。
仕方なく宝物庫に入れられたが、一つまた一つと盗まれ、奪われて、ついには全ての魔法石が失われた。
腐敗していた国の官吏たちが事あるごとに我も我もと盗み去ったのだと言われている。
その後、国王は民からも臣下からも批判を浴びて倒れ、次代の王が即位すると、腐敗していた宮廷には粛清の嵐が吹き荒れた。
こうして、馬鹿な国王と腐敗官吏が欲をかいたばかりに、民は偉大な大魔法使いと貴重な魔法石の数々を失ってしまったという。
「……いや、その話は昔聞いたことがあるから知ってるけど、それが……?」
『主殿。憚りながら、かの逸話に登場する魔法使いとは、某の事でしてな』
……は?
急に昔話を語り始めた謎の声が、やっと語り終えたと思えば、またよく分からない事を言い出した。
……うーん。聞いてみても、やっぱりよく分からない
『これはしたり。少々急ぎすぎましたかな。では主殿の周辺からお話しましょうか』
……相変わらず、オレの考えていることはダダ洩れなのが何とも……
……でもまあ、話してくれるっていうなら聞くくらい聞くけど……
『では早速。まず事の起こりは主殿の射られた矢が……』
そして、謎の声がギルバートに語った内容が以下の通り。
・ギルバートが狩った二羽目の鳥型魔獣には謎の声の主が憑依していた。
・魔獣の身体が死に、魔石に魔力が供給されなくなった。
・声の主は存在するのに魔力を消費するので魔石から魔力がどんどん失われていき、かなりヒヤヒヤしたらしい。
・緊急回避として咄嗟に魔獣調伏の魔法(所謂テイム)を応用することを思いつき、魔獣側から自主的に降る(調伏される)事によって、無理やり主との魔力回路を繋げた。
・声の主は現在、繋げたパスより供給されたギルバートの魔力で存在(生命)を維持している。
・声の主は昔語りに登場する大魔法使いである。
と、いう事らしい。
自分はまだ正気なのだろうか?と疑いつつ、ギルバートは目の前に、ついさっき解体処理して得た魔石を摘み上げた。
一見すると、普通の魔石に見える。楕円で緑から青がかった深い色をした透明の石。
……いや、すこし大きいだろうか。
「つまり、これは魔石じゃなく魔法石で?」
『左様。わが魂の住処ですな』
「で、アンタ……いえ、あなたが大魔法使い様であると……?」
『それに相違ござらんが、主殿、某は不躾に魔力回路を繋ぎ、魔力を勝手に失敬しておる身。主殿が話しやすいように、話されるとよい』
……なるほど、分からん
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本日、1話目。4話更新予定です。
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