ダンジョン2
58 ダンジョン2
作戦会議の結果、とりあえずギルバートが今、既に、無い事で不便と不安を感じている、「念動」の魔法石を獲りに行こう、と決まった。
ただ、ケル曰く、「念動」の魔法石は意外に入手難度が高い、との事。
その理由は、持っているのが魔獣ではなく魔物だからだった。
魔獣は、謂わば獣型の魔物だ。ゆえに魔物とは「魔石を持っている生命体」という、より大きな括りを意味する。
よって、魔獣と違い、「魔物」の存在形態は様々であり、中には奇天烈な存在も多い。
「念動」の魔法石を持っている魔物はまさにそのタイプだった。
「……つまり?」
『「念動」の魔法石を持っているのは、「霊」系統の魔物なのだ。つまり、物理攻撃が全くの無効となる』
ケルによれば、霊系統の魔物が肉体を持つ生物を拘束するための魔法が「念動」なのだと言う。
つまり、良く聞く金縛りとかそういう力の正体が、霊による「念動」魔法と言う事だろうか。
そう聞いてギルバートは、散々、便利に使い倒してきた「念動」の魔法をちょっと不気味に感じてしまった。
とは言え、あの便利さは他のモノでは代用出来ない。
「……物理攻撃無効って事は、オレにはどうしようもないって事か……?」
『そうだな。ただし、「現状では」というだけの事だ。霊系統に有効な攻撃手段となる魔法石を、先に入手すればよいだけの事だ』
ギルバートが諦め顔でポツリと漏らすと、ケルがいつものようにサラッと助言した。
「……有効な攻撃って?」
『左様、「物理攻撃」がダメなら「魔法攻撃」と言うのが、こういった場合のセオリーというものだな』
ケルが言うには、魔法や魔力という力は、本来、ギルバート達が存在するこの世界とは「違う世界」に属するモノだが、霊系統とは「同じ世界」に属する力なので、魔法攻撃であれば霊系統の魔物に干渉できるのだ、と言う。
だが、ギルバートはイマイチ良く分からなかったので、とりあえずその説明を中断してもらった。
「……その解説は、いずれ聞かせてもらうとして……魔法攻撃ってことは、「魔法で攻撃する」って事で良いのか?つまり、「重力視」の魔法とかなら通用するって事?」
ギルバートがケルの、回りくどくて分かりにくい解説を、何とか噛み砕き、飲み込もうとする。
『概ね、その理解で良いのだが、魔物それぞれの個別の事情もある。「重力視」の魔法は霊系統には効きが悪い。全く効かぬわけではないのだが、実体を持たぬ魔物相手では圧倒的に決定力に欠ける』
「でも、オレは他に攻撃に使える魔法は持ってないぞ?「身体強化」の魔法は物理系だろ?」
『分類するなら物理系と言えるだろうが、「身体強化」の魔法も全く効かぬわけではない。魔力を身体に巡らせ、漲らせるので霊系統に対する干渉力はある。ただ、その場合、武器を持ってしまうと干渉力が活きないので、生身の肉体で攻撃することになってしまう。リスクが高すぎるのだ』
「リスクって?」
『霊系統の魔物に触れられると、生命力を吸収され、奪われる。実体を持つ生物にとって、最も危険な攻撃だ』
……確かにそれじゃあ、良くて相討ちってことか……
アレもダメ、これもダメと言われ、ギルバートはまた絶望的な気分になってきた。
「……つまり、結局どうすればいいんだ?」
『すぐに考えることを放棄するのは、ギルの悪いところだぞ』
目の前の鳥型魔獣が、デカい翼の根本を肩の様に竦めて、「ヤレヤレ」のポーズを取る。
ギルバートは考え疲れて、ちょっとイラッっとした。
そんなギルバートの心を知ってか知らずか、ケルが嘴を開き、「念話」で話し始めた。
『簡単なことだ。手持ちの魔法石に有効なものが無ければ、新たに適する魔法石を獲れば良いだけの事であろう?』
言われて、ギルバートも気が付いた。
……そう言えば、もともとそんな話をしてたんだったな
ギルバートは、さんざんたらい回しにされた後の様に、何だか物凄く疲れてしまった。
見ればエリーは、二人が話し込んでいる間に、いつの間にかコックリコックリと、舟を漕いでいる。
エリーにも関係なくはないのだが、やはり魔法の事となると、つい、ケルと二人だけで話を進めてしまいがちだ。
ギルバートはそっと近づくと、エリーをベッドに横たえ、念のため、身体に布を被せた。春とはいえ、朝晩はまだ冷える日もある。
「エリーも魔法が使えたらなぁ……」
『試してみれば良いではないか。……まあ、可能性は限りなく低いと思うが』
ボソッ……と、ほぼ独り言のレベルで呟いたギルバートに、ケルが律義に返答を返してきた。
……なるほど、そう言われたらそうだな
灯台下暗し。試してみれば良い、か。本当にその通りだった。
「……そうだな。エリーが起きてるときに、聞いてみようかな。エリーがやりたそうならやってみよう」
『良いと思うぞ。新しく魔法石を手に入れるたびに試せばよい』
なるほど、それは良いな、と頷くギルバートであった。
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本日、3話目です。念のため
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次回予定「ダンジョン3」
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