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プロローグ2

56 プロローグ2






 グレイヴァルから東の森の街道を行き、更にいくつかの平原と森を越えてゆくと、やがて海が見えてくる。

 

 そこから更に、北の山岳地帯を見ながら北東の森を越えるとリンドヴァーン領の領都リンドヴァーンにたどり着いた。

 

 グレイヴァルと、このリンドヴァーンの間の小さな街々を街道が繋いでいる。

 

 街の近くには大抵、村がいくつかあり、商人が行き交い商売に励んでいた。

 

 

 その大港湾城塞都市・領都リンドヴァーンに聳える城の一番広く、豪奢な一室が領主の執務室であり、このリンドヴァーンの領主、リンドヴァーン伯爵の常の拠点だった。

 

 

「……その噂の信憑性は?」 


「かなり高いと思われます。噂のほとんどはグレイヴァルから来た商人のもたらしたものですが、実際にその目で見たという者も少なくありませんでした」


 腹心の側近である、側仕えのゼファンが淡々と調査結果を報告する。


 書類仕事から目を離さなかったリンドヴァーン伯爵、コルベルト・リンドヴァーンは、そこでようやく書類から顔を上げた。



「……魔法使い、か。ペテン師や手妻使いの類ではないのだな?」

 

「はい。最後の『大魔法使い』がこの国を去って五十有余年、絶えて久しい存在でありました『本物』の魔法使いだそうです」 

「……で、あるならば欲しい。だが、出来れば『商品』を先に見分したいところだな」 

 

 海賊の祖先を持ち、海賊伯と揶揄されながらも、貴族、平民の双方から恐れられているリンドヴァーン伯爵は、半眼で虚空を睨んだ。

 

「招待状でもお送りしてみましょうか?」


「ふむ……来ると思うか?」

 

 ゼファンが主に問いかけると、逆に主からの問いが返ってきた。

 

「どうでしょう。件の魔法使いの生業は冒険者との事ですから、依頼か、儲け話でもあればあるいは、といったところでしょうか?」 


 ゼファンがリンドヴァーン伯爵の問いに当たり障りのない回答をすると、リンドヴァーン伯爵が考え込む。



 そして、数瞬後、再び顔を上げると、リンドヴァーン伯爵の方針は決まっていた。




「……時に、まだ嫁にやっていない娘は、あと何人だ?」 

  

  

  

 ☆

 

 

 

「何っ?魔法使いだと!?」


 

 左右に艶っぽい女を侍らせた恰幅の良い男が、突然、大声を出したのでその場に同席していた者達の声が一瞬、静まったが、すぐにまたガヤガヤと自分たちの会話に戻って行った。

 

 そこはグレイヴァルから西の森と平原をいくつか越え、北西に進んだところにあるリオール領の領都リオーリア。

 

 そのリオーリアで一番有名な高級娼館の、一階に併設されている酒場の座敷だった。

 

「はっ。今、王都を賑わせております人気の噂話でございます」


 男の前には腰の低い、いかにも商人然とした男が座り、噂を披露していた。 

 

「根も葉もない与太話ではなかろうな?」


「いえ、それがそうでもないようでして。なんでもつい先日、魔法使いが王城を訪い、慣例通り、国王陛下から伯爵位を賜ったとかで」 

 

 恰幅の良い男はいかにも傲慢な様子で吐き捨てたが、人好きのする笑みを張り付けたような商人風の男が更に応じると、途端に目の色を変えた。

 

「ぬぅ……例の悪法か。ちょっと珍しい小技が使えるからと言って、上級貴族相当の爵位を与えるなど、暴挙に過ぎよう!」


「は、しかし、魔法というものは、神が与え賜うた能力(ちから)だと申しますので……」


 商人風の男は少し困った表情で、僅かに笑みを翳らせた。


「何が神なものか!もとは魔獣の身体から取り出した魔石なのだぞ?……仮令(たとえ)、希少かつ有益な能力だとして、同じような技術をもっておる職人あたりと同様に扱えばよいのだ!」


「は、誠に……」


 商人風の男はどうやら自分が言葉を間違えたらしいと悟り、撤退を考え始めた。


「……だが、まあよい。ワシは物の価値は認める男だ。要は、何事も分相応が肝要だというだけのことなのだ。貴様、その者を『勧誘』して来れるなら望みの報酬をとらせよう」


 ところが、恰幅の良い男は、不機嫌が一転してニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「その魔法使い、ワシが飼ってやることにしよう。実際どの程度の腕か、それによっては厚遇するもやぶさかではない」 

 

 恰幅の良い男はそう言い放つと、金の詰まった袋を商人風の男に投げ渡した。

 

 商人風の男は、黙って頭を下げると恰幅の良い男の前から下がり、会場を抜け出すと笑みを消した。

 

「……まったく、『これぞ貴族』という典型的な人間だが……それだけに、分かりやすくて商売としては楽、というのがなんとも皮肉なものだ」 

 

 

 

 商人風の男はそう独り言ちると、何処へともなく消えていったのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ……こうして、五十有余年ぶりに現れたと言われる魔法使いの噂は、ゼクストフィール王国中を駆け巡り、様々な人間の、様々な欲望や思惑を大いに刺激する事になったのだった。



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またしばらく投稿します。よろしくおねがいします。

今日は6話、明日からは毎日1話ずつ投稿する予定です。


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次回予定「ダンジョン」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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